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Wednesday, November 15, 2023

「軍艦島」8年ぶり大規模調査でわかったバルコニー崩落…「余命 ... - 読売新聞オンライン

 来年1月に閉山から50年となる世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産・ 端島はしま 炭坑(長崎市、通称・軍艦島)で、独自の景観を形成している高層アパート群に関する大規模調査が8年ぶりに行われている。島最大の建築物「65号棟」(一部10階建て)では、2015年の前回調査時にはなかったバルコニーの崩落が確認された。現地調査を進める専門家は「かなり劣化が進んでいる。先手を打って保存に向けた取り組みを進めることが重要だ」と指摘している。(勢島康士朗)

 調査は、一般社団法人「建築研究振興協会」(東京)の研究者らでつくる「軍艦島建築物の劣化状態・構造耐力評価検討委員会」(委員長=野口貴文・東京大教授)が10月29日から実施。今月5日にかけて端島に上陸し、1916年に建築された日本最古の鉄筋コンクリート(RC)造の高層アパート「30号棟」(7階建て)や住居や保育園のあった「65号棟」、幹部職員住宅の「3号棟」(4階建て)など全36棟のうち、安全に調査できる34棟で内部調査を行った。

 野口教授(62)(建築材料学)によると、各建物のフロアごとに柱や はり 、床の劣化状態を目視で確認。劣化の度合いを「0」から、鉄筋が切れたり、コンクリートが全面的に崩れるなどの危険な状態にある「5」までの6段階で評価した。

 その結果、65号棟では2階部分のバルコニーが落ちたり、海沿いの31号棟(6階建て)では梁などの骨組みが落ちたりするといった激しい損傷が確認されたという。野口教授は「目視だけでも、前回調査時と比べて劣化度が一つ上のレベルに上がったものも多い」と話す。安全を確認できない30号棟などは12月にドローンを使って調査する予定だ。

 検討委では、15年の調査結果も踏まえ、現在の劣化の進行度などを再評価し、各建物の階全体が崩壊するまでの「余命」を予測する。調査結果は来年3月をめどに取りまとめる方針。

 軍艦島では島全体で急速に劣化が進んでおり、長崎市は優先順位をつけて順次、整備を進めている。最優先は、島の維持に重要な護岸や石積みの擁壁で、炭坑の生産施設が続く。高層アパート群はその次に位置づけられている。

 長崎市は、野口教授らの15年調査の結果などを基に保存・活用に向けた30年間の整備活用計画を策定した。総事業費は総額約110億円で、市は保存工法の研究成果や整備の 進捗しんちょく などを考慮して10年ごとに計画を見直す方針。今回の調査結果を踏まえた対応も視野に入れている。

 野口教授は「軍艦島の形や 廃墟はいきょ としての価値を残すためには徹底的な調査が不可欠だ。崩壊までの予測を立て、保存に生かしていきたい」と話している。

 軍艦島を象徴するRC造の高層アパート「30号棟」は近年の大雨や台風の影響で壁や床の崩落が進んだ。修復・保存は困難と判断され、将来的な倒壊が予測されている。こうした状況は、建物が倒壊する兆候を把握する研究に活用されている。

 野口教授によると、通常、建物が劣化すれば、先に修繕や解体が行われる。このため、倒壊を事前に予測することは難しいが、「廃虚がそのまま残されている軍艦島という特殊な環境は、RC造の建物の研究拠点として非常に重要だ」と話す。

 野口教授らは2017年から30号棟の屋上と中庭に約10個のGPSセンサーを設置。建物の形状の変化を観測し、劣化による建物の崩壊のメカニズムを明らかにしようとしている。この6年間でも、屋上のセンサーの位置が下がったり、二つのセンサーの位置が離れたりし、建物全体の変形が確認されているという。

 RC造の建物が倒壊すれば、大規模な被害をもたらしかねない。21年6月には米フロリダ州マイアミ近郊で12階建てマンションが崩落し、98人の犠牲者が出た。野口教授は「崩れる兆候をつかめれば、危険を事前に察知できるかもしれない」と話している。

◆端島炭坑= 高層アパートが林立する景観が軍艦「土佐」に似ていることから軍艦島と呼ばれるようになった。最盛期の1960年頃には、東京ドーム約1・3個分の面積に約5300人が暮らした。石炭から石油への国のエネルギー政策の転換などに伴って衰退し、74年の閉山後は無人となった。

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