2024.03.04
*本記事は、近藤 一博『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。
うつ病患者の脳では何が起こっているのか 危険因子「SITH - 1」を発見
前章での慢性疲労症候群の説明でも述べたように、原因がわからないまま疾患発症のメカニズムを議論しても、何もわかりません。
しかし、幸いにもわれわれは最近、うつ病を引き起こす危険因子であると考えられる遺伝子が、HHV‐6が宿主の体内で潜伏感染しているときに産生されているのを発見することができました。この遺伝子をわれわれは、「SITH‐1」と名づけました。SITH‐1は「シスワン」と発音します。命名の由来は、のちほどお話しします。
SITH‐1がつくるタンパク質に反応して産生される抗体をうつ病患者が持っているかを調べたところ、約80%のうつ病患者が陽性でした。そして陽性の場合のうつ病になりやすさは、陰性の場合の12・2倍にものぼることがわかりました。
科学的には、ある因子が原因の一つである場合は、「原因」とは言いきらずに「危険因子」と言うにとどめるのが正しいのですが、この数字は、「SITH‐1がうつ病の原因である」と言っても過言ではないほどの値です。
慢性疲労症候群の病的疲労においては、「原因が不明」という問題が発生メカニズムの解明を妨げてきました。しかしSITH‐1の発見により、うつ病の病的疲労においては、この問題を乗り越えた議論ができるかもしれない、という期待が高まってきました。
結論を先に言ってしまうと、SITH‐1がどのように病的疲労をもたらすかを解明することによって、うつ病の問題がかなり解決することがわかったのです。この章では、SITH‐1がうつ病の原因であることがどうしてわかったのか、われわれはSITH‐1をどのように発見したのか、など、SITH‐1とうつ病との関係を、順を追って説明していきます(注)。
(注) うつ病は疾患名として表記するときは「大うつ病」と表記されます。しかし本書では「大うつ病」よりも広い意味を持つ「うつ病」という言葉を用いて、「大うつ病」に限らない広い意味でのうつ病について説明します。
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