政界を大きく揺るがしている自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件。
「そもそも論」から、深まった疑惑、東京地検特捜部の捜査、それに自民党の派閥解散をめぐる政局、国会では「裏金議員」と追及する野党側、そして政治倫理審査会をめぐる最新の動きまで徹底解説します。
一連の取材では、生々しく問題の実態を語る証言も入手しました。
いったい何が起きているのでしょうか?
(※3月15日午後、一部更新しました)
【目次👇👇】
●参院政倫審、実態解明につながったのか?
●下村氏が審査会に 焦点は?
●捜査はどういう結論に?
●そもそも政治資金問題のきっかけは?
●「キックバック」とは?
●捜査当局はどう動いたのか?
●その後実態解明は進んだのか?
●派閥幹部から任意で事情聴いたが?
●4閣僚交代の人事をどう見る?
●岸田首相はどう対応?
●岸田首相が「派閥解散」表明
●野党側の対応は?
●国会でどんな論議が?
●自民議員が相次いで報告書訂正。分析は?
●自民が資料提出。現職議員一覧は?
●自民党の聴き取り結果は?
●政倫審開催の経緯は?
●衆院政倫審、実態解明につながったか?
●「政治改革」は実現できるのか?
Q.14日の参院政倫審は実態解明につながったのか?
A.衆議院側でも論点となっていた、安倍元総理大臣が亡くなった後にキックバックが継続された経緯については、疑惑の解明が進んだとは言えない印象です。
キックバックが継続された重要なポイントとなるのが安倍氏が亡くなったあとに開かれた、おととし8月の幹部会合です。
この会合には塩谷氏と下村氏、西村氏、そして世耕氏が出席していて、4人ともキックバックの取り扱いを協議したことは認めています。
しかし、西村氏、塩谷氏に続き、世耕氏も「誰が継続を決めたかわからない」と話していて、与野党問わず「疑惑が深まった」という声すら出ています。
14日、審査会に出席した西田氏は「事実関係を知っている人が必ずいるはずだ」と述べていて、安倍派の中からも幹部に対し実態解明を求める声が出ているんです。
この問題、引き続き説明責任が問われる局面が続くことになります。
立憲民主党は、15日の参議院予算委員会の理事会で世耕氏ら3人について、キックバックが続いたいきさつなどの明確な説明を行わず、さらに疑惑が深まったとして、実態の解明に向けて証人喚問を行うよう求めました。
これに対し、自民党は持ち帰って検討する考えを示し、引き続き与野党で協議することになりました。
Q.18日に下村氏が衆院の審査会に。焦点は?
安倍派の事務総長を務めた下村 元政務調査会長も、おととしの幹部協議に出席していた4人の議員のうちの1人です。
1月の記者会見ではキックバックについて「各議員個人の資金集めパーティーに上乗せし収支報告書で合法的な形で出すという案が示された」と話していました。
この「合法的な形」という発言について、野党側は、裏を返せば、安倍派幹部が違法性を認識していた可能性を示すものだと指摘していて、下村氏がどのような弁明を行うかが焦点となります。
自民党内からは、次のような見方も出ています。
「下村さんは、いわゆる『5人衆』を中心とする派閥運営と距離があり、踏み込んだ説明があるかもしれない」(自民党内)
Q.改めて、東京地検の捜査はどういう結論に?
A.1月19日、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で、安倍派と二階派について、東京地検特捜部は、おととしまでの5年間で、安倍派の会計責任者は合わせて6億7503万円、二階派の会計責任者は合わせて2億6460万円のパーティー収入などを派閥の政治資金収支報告書に収入として記載していなかったなどとして、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で両派の会計責任者を在宅起訴しました。
また特捜部は、安倍派や二階派だけではなく、岸田派「宏池政策研究会」についても、元会計責任者は、2020年までの3年間で、合わせて3059万円のパーティー収入などを派閥の政治資金収支報告書に収入として記載していなかったとして、罰金刑を求める略式起訴をしました。
一方、特捜部は松野 前官房長官ら安倍派の幹部7人や、二階派の会長を務める二階 元幹事長など派閥の幹部からも任意で事情を聴いてきましたが、いずれも派閥の会計責任者との共謀は認められないとして、立件しない判断をしました。
ただ、二階 元幹事長の事務所がおととしまでの5年間で3000万円を超えるパーティー収入を派閥側に納入せず、元幹事長の資金管理団体の収支報告書に派閥側からの収入として記載していなかったとして、特捜部は二階 元幹事長の秘書を略式起訴しました。
Q.一方で安倍派の池田佳隆衆議院議員は逮捕された。なぜか?
A.東京地検特捜部は、池田議員を逮捕した理由について「具体的な罪証隠滅のおそれが認められたため」と説明しました。
特捜部は、1月7日、安倍派に所属する池田佳隆衆議院議員が政策秘書と共謀し、おととし=2022年までの5年間に安倍派から4800万円余りのキックバックを受けたにもかかわらず、みずからが代表を務める資金管理団体の収入として記載せず、政治資金収支報告書にうその記載をしたとして、政治資金規正法違反の疑いで逮捕しました。
自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で、初の逮捕者となりました。
実は、特捜部が去年12月、池田議員の関係先を捜索した際、関係先にあったデータを保存する記録媒体が壊されていたというんです。
特捜部の調べに対し池田議員の別の秘書が「議員の指示で事務所のパソコンをドライバーなどの工具で壊した」などと話していて、池田議員の指示で証拠隠滅を図った疑いがあるということです。
関係者によりますと、記録媒体には、工具のようなもので壊された跡があったほか、事務所関係者でやりとりした携帯電話の一部のメッセージなども消去されていたということです。
そして、1月26日、特捜部は、キックバックを受けたにもかかわらず、資金管理団体の政治資金収支報告書に寄付として記載しなかったとして池田議員らを政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で起訴しました。
その後、2月5日、池田議員は保釈されました。保釈金は1500万円で、全額納付されたということです。
Q.ほかの安倍派議員の捜査はどうか?
A.特捜部は、多額のキックバックを議員側の資金管理団体の収支報告書に記載していなかったとして、1月19日、5000万円を超えるキックバックを受けたとされる大野泰正 参議院議員を政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で在宅起訴し、4000万円を超えるキックバックを受けたとされる谷川弥一 衆議院議員を略式起訴しました。
在宅起訴された大野参議院議員は自民党を離党しました。
略式起訴され自民党を離党した谷川衆議院議員は24日、議員を辞職しました。
先立って22日、記者会見した谷川議員は「自身の認識の甘さがあったと深く反省している。おわび申し上げます」と謝罪しました。
Q.そもそも、今回の「政治資金」をめぐる問題のきっかけは?
A.こちらをご覧ください。
自民党の5つの派閥は2021年までの4年間にあわせておよそ4000万円分の政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に適切に記載していなかったとして、大学教授が告発状を提出し、各派閥は対応に追われる事態となったんです。(※総額など告発内容は2023年11月18日時点)
Q.なぜ政治資金パーティーなどの収入をめぐって問題が相次ぐのか?
A.私たちは取材を進めました。まず、こちらを説明します。
政治資金を集めるために行われる「政治資金パーティー」。
参加者は、一口2万円程度のパーティー券を購入。何口も買うケースも少なくありません。
数千人規模になることもあり、多いときで数億円のカネが集まります。
法律で認められた集金の手段ですが、特定の団体などとの癒着を防ぐため、次のような決まりがあります。
しかし今回、派閥の政治資金パーティーの収入をめぐって、適切に記載されていないケースが相次いで明らかになったのです。
Q.一体なぜなのか?
A.自民党の派閥のパーティー券を毎年購入してきたという業界団体の関係者の証言を得ました。
「業界としてみれば、何かあったときにいろいろお願い事をすることもあるだろうと。もしもの時のためというか、『保険』じゃないけどかけておくみたいな」
各派閥のパーティーが開かれる時期になると、男性のもとにはパーティー券の購入を求める依頼が次々に舞い込むといいます。
「いろんなところから『お願いします』って電話がかかってくるわけですよ。(全然知らない人からも?)すごい数が来ます。本当に」
男性の証言から、不記載につながる要因の一端が見えてきました。
団体は、同じ派閥の複数の議員から同じパーティー券の購入を別々に依頼されることも少なくないといいます。
団体はパーティー券を議員ごとに購入。
その多くは、派閥側には記載義務のない、20万円以下だったということです。
ただ、元は同じパーティー。同じ団体からの支払い金額の合計が20万円を超えていれば、派閥側には記載の義務があるにもかかわらず、この団体のケースでは、記載されていなかったのです。
「正直なところびっくりしました。当然、正直に適正に報告はされているんだろうと思って、漏れているものがあるなんて思いもよらなかった」
Q.パーティー券を販売する側の事情はどうなのか?
A.自民党の関係者は、パーティー券を販売する側の事情について、こう明かしました。
「それぞれの議員が、どこに(パーティー券を)売っていてるかっていうのは分かりませんし、議員同士も、自分たちの大切な支援者をほかにあんまり言いたくないという心理も間違いなく働くんですね。結果として記載義務の必要があるものを記載できなかったというケースがあると思います」
Q.どういう事情かは分かってきましたが、今回の問題をどう考えたらいいのか?
A.政治資金の問題に詳しい専門家に聞きました。(※インタビューは2023年11月下旬)
「もしパーティーに関する不記載が故意に、あるいは組織的に行われたということになれば、政治資金収支公開制度の根幹を失わせるといったような非常に重大な問題だと言わざるをえない。やはり、こういうことがないようなチェックやコントロールの仕組みというのを今後考えていく必要があろうかと思います」
Q.きちんと記載がされていなければ、不透明な金のやりとりや癒着が起きても、外からチェックすることはできなくなってしまうということか?
A.政治資金パーティーの収入の不記載について、さらに取材を進め、あることがわかってきました。自民党の関係者の1人は取材に対し、こう話しました。
「パーティー券の販売にはノルマがあり、ノルマを超えた分の収入は慣習として議員側に派閥からキックバックされていた」(自民党の関係者)
Q.「キックバック」とは、具体的にはどういうことか?
A.自民党の最大派閥、安倍派「清和政策研究会」の政治資金パーティーに関して、わかったのがこちらです。
複数の関係者によりますと、安倍派は、所属議員の役職や当選回数などに応じてパーティー券の販売ノルマを設定していました。
そして、所属する議員がパーティー券の販売ノルマを超えて集めた分の収入を、議員側にキックバックし、派閥の収支報告書にパーティーの収入や議員側への支出として記載していなかった疑いがあります。
議員側にキックバックされた資金の総額は、2022年までの5年間でおよそ5億円に上るとみられます。
そして安倍派は、▽議員ごとのノルマ額、▽実際に集めた金額、▽議員側にキックバックした金額を記したリストを作成していたということです。
安倍派の所属議員のうち、複数の議員が、2022年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受けていたとみられています。
安倍派は、パーティー券の収入を専用の口座などで管理していたということで、口座への入金額と、安倍派の政治資金収支報告書に実際に記載されているパーティー収入の総額には食い違いがあり、議員側の政治団体もキックバックされた資金を収入として記載していない疑いがあるということです。
Q.安倍派でのキックバック、徐々に実態が明らかになってきましたね?
A.安倍派の所属議員の元秘書が取材に応じ、派閥のパーティー収入をめぐるキックバックの実態を生々しく証言しました。
「政治の世界に秘書として入って1年目から、キックバックというものがあると先輩秘書や派閥の事務局などから聞いていた。当たり前のように感じていたので、事務所の中でも悪いという認識はなかったと思う」
そして、元秘書は「年末が近づくと派閥の幹部から議員の事務所に連絡があり、本人が議員会館や派閥の事務所に出向いて幹部と面会していた。面会を終えた議員の胸ポケットには封筒が入っていて『先生、その胸ポケットのやつって、何かの資料ですか』と聞くと、『これは派閥からのキックバックだよ』と言っていた。封筒の中身を見たことはないが、現金以外には考えられない」と証言しました。
「キックバックを受けた分は本来、政治資金収支報告書に記載すべきだと思うが、派閥から『記載しないでください』と明確な指示があったので、一切記載していなかった。派閥の事務局に『これは裏金なのではないか。記載しないとやばくないか』と聞いたところ、『なので、逆に記載しないでください。記載してしまえば、裏金ではなくなってしまいます』と言われた」
Q.裏金化された資金は、いったい何に使われているのか?
A.事務所費の不足分やパーティー券の販売ノルマを達成できなかった分の穴埋めなど、永田町関係者から様々なケースの証言が出る中、自民党で議員活動への支援や選挙対策に携わっていた関係者が取材に応じ、実態を明かしました。
この関係者は「政治には金がかかるというが、どこにかかるかというと、大きくは、選挙と議員を支える秘書をどれだけ多く雇っていくかにかかっている」と話しました。
このうち秘書については「公設秘書以外は私設秘書として雇わなければならない。支援組織がある党はそこから送り込むことができるが、自民党は昔からよく『自分党』と言われるように組織があるようでないので、お金も人も自分で集めてこないといけない」と話しました。
さらに、こうした事情は選挙でも同じだとしたうえで「選挙で宣伝車を走らせる場合、ドライバーとウグイス嬢を雇用しなければならないが、いずれも適性のある人がそれほど多くないため争奪戦になり、甘くはない。さらに、永田町では陣中見舞いということばを使うが、自分の子分となる選挙区内の地方議員に金を配るので、それも相当な額になる。裏金がなければ、じゃあその金はどこから捻出するのかという形になる」と証言しました。
そして「裏金というのはどんな形にも使える自由な金なので、それを人件費に使おうと、銀座のクラブでの飲み食いに使おうと、選挙に使おうと、自由にその財布から出せる。裏金がなければ何もできない。今回の事件を受けて政治資金規正法を厳しくしてもいたちごっこだと思う」と指摘しました。
そして、みずからも選挙対策を通じて裏金に関わってきたことを反省しているとしたうえで「自民党にお願いしたいのは、政治とカネの問題や裏金づくりについて正直に有権者に謝罪することだ。このような使途不明の金は作りませんと宣言し、立党以来のうみをこの機にすべて出してほしい」と語りました。
Q.キックバックについて、連日、安倍派幹部の名前が挙がりましたね?
A.そうですね。
去年12月8日、事態が動きました。
安倍派幹部で官房長官を担っていた松野氏側が、2022年までの5年間で1000万円を超えるキックバックを受けていたことが関係者への取材で明らかになりました。
松野氏側の政治団体は、政治資金収支報告書に収入として記載していない疑いがあるというのです。
松野氏は、国会の質疑や記者会見で「みずからの政治団体の政治資金は適正に対応してきた」と述べる一方、具体的な説明は避けてきました。
そして14日、辞表を提出した松野氏は官房長官として最後の記者会見に臨み「政治資金について、さまざまな指摘がなされ、結果として国民の政治に対する信頼が揺らいでおり、国政に遅滞を生じさせないよう職を辞することにした。責任を感じている」と述べました。
そして、さらに深刻な事態が…。
松野氏のほか、いずれも安倍派幹部で、事務総長を務める高木国会対策委員長(当時)や世耕参議院幹事長(当時)など、10人以上の議員側が、2022年までの5年間で1000万円を超えるキックバックを受け、政治資金収支報告書に収入として記載していない疑いがあることがわかったのです。
さらに、安倍派の座長を務める塩谷元文部科学大臣や萩生田政務調査会長(当時)、経済産業大臣を担っていた西村氏など、派閥の幹部6人を含む安倍派の大半の所属議員側が、パーティー収入の一部についてキックバックを受けていたとみられることが関係者への取材でわかりました。
関係者によりますと、議員側の政治団体は、いずれも政治資金収支報告書に収入として記載していなかったとみられていますが、キックバックの金額は議員によって大きな差があるということです。
Q.派閥の「事務総長」とは、どういう役割なのか?
A.自民党の派閥の「事務総長」は、各派閥に1人ずつ置かれ、閣僚や党幹部の経験者などベテラン議員が務めるのが慣例です。
派閥の運営を切り盛りする役割を担い、トップの会長とともに人事などの要望を行うほか、各派閥の事務総長が集まって情報交換を行うこともあります。
安倍派の事務総長は◇2022年8月から高木氏が務めています。◇前任は西村氏で2021年10月から2022年8月まで、◇さらにその前は、松野氏が2019年9月から2021年10月まで務めました。
Q.ほかの安倍派の議員の反応で注目は?
A.事態の深刻さを示唆する発言も飛び出しました。
安倍派で、防衛副大臣を担っていた宮澤氏は12月13日、記者団に対し、2022年までの3年間にあわせて140万円を政治資金収支報告書に記載していなかったことを明らかにし、「おわびしたい」と陳謝しました。
その上で「派閥の方からかつて政治資金収支報告書に記載しなくてもよいという指示があった。『大丈夫かな』とは思ったが、長年やっているのなら適法なのかと推測せざるを得ず、指示に従った」と述べました。
また今回の問題が発覚して以降「派閥から『しゃべるな』という指示もあった」と述べました。
Q.キックバック、ほかの派閥は?
A.二階派「志帥会」も、所属議員がパーティー券の販売ノルマを超えて集めた分を派閥の収支報告書に収入として記載していなかったとみられることが12月上旬、明らかになりました。
ノルマを超えた分は議員側にキックバックされ、所属議員ごとのパーティー券の販売ノルマや議員側にキックバックした金額などを記したリストを作成していたとみられます。
こうしたリストをもとに、パーティー収入の運用を組織的に管理していた疑いがあります。
ただ、安倍派とは違って▽キックバックした分は派閥の収支報告書に議員側への支出としては記載されていて▽議員側の政治団体も収入として記載していたとみられるということです。
また、岸田総理が会長を務めていた岸田派「宏池政策研究会」でも、派閥が実際に集めた収入より少ない金額が収支報告書に記載されていたとみられることが、関係者への取材で12月中旬、明らかになりました。
ただ、収支報告書に記載されていなかったとみられる収入の規模は、安倍派や二階派と比べ、少ないということでした。
岸田派も所属議員がパーティー券の販売ノルマを超えて集めた分の収入を議員側にキックバックしていましたが、その分は派閥側の収支報告書に収入や支出として記載していたとみられています。
Q.捜査当局は、どう動いたのか?
東京地検特捜部は12月19日、政治資金規正法違反の疑いで強制捜査に乗り出し、安倍派「清和政策研究会」と二階派「志帥会」の事務所を捜索しました。
この時点で、安倍派の議員側にキックバックされ裏金化した資金の総額は2022年までの5年間で、およそ5億円に上り、二階派でも派閥の収支報告書に記載されていないパーティー収入の総額が5年間で1億円を超えるとみられるということがわかりました。
安倍派と二階派では、派閥側の指示のもとでパーティー収入の一部を収支報告書に記載しない運用が組織的に行われていた疑いがあり、特捜部は、派閥の幹部や議員の認識など詳しい経緯について実態解明を進めたとみられます。
Q.派閥側を強制捜査した狙いは?
A.特捜部が強制捜査に踏み切ったのは、パーティー収入を裏金化する運用が、いつから、誰が主導して行われたのか、その指揮系統の解明のため、事務所などを捜索して関係資料を押収することが欠かせないと考えたからだとみられます。
今回の事件は、捜査の対象が複数の派閥にわたっているうえ、派閥側と、キックバックを受けていた議員側の政治団体、それぞれに収支報告書の記載義務を負う会計責任者と、国会議員がいるなど、捜査の対象となる関係者が多いのが特徴です。
このため、特捜部は全国から応援の検事を集めて捜査態勢を拡充していて、臨時国会閉会後のこのタイミングで強制捜査に踏み切りました。
その後、12月27日には、安倍派の池田佳隆衆議院議員の事務所、翌28日には、安倍派からおよそ5000万円のキックバックを受けていたとみられる大野泰正参議院議員の事務所など、関係先を捜索しました。
強制捜査に関連して12月19日、安倍派は「多大なるご迷惑とご心配をおかけし、政治の信頼を損ねることとなり、心よりおわび申し上げる。重大に受け止め、捜査には最大限協力し、真摯に対応していく」というコメントを出しました。
また、12月19日、派閥の事務所の捜索を受けて、自民党二階派の会長を務める二階元幹事長は「多くの関係者にご心配とご迷惑をおかけしていることを心よりおわび申し上げる。捜査当局からの要請には真摯に協力し、事案の解決に向けて努力していく」というコメントを出しました。
Q.その後、実態解明はどう進んだのか?
国会議員のうち、参議院議員の任期は6年で、3年ごとに半数が改選されますが、安倍派では、少なくとも参議院選挙があった2019年と2022年に開いたパーティーについては、改選となる参議院議員にパーティー券の販売ノルマを設けず、集めた収入を全額キックバックしていたことが関係者への取材でわかりました。
一方、衆議院議員は解散があり、選挙の時期が不規則なため、こうした運用は行われていなかったということです。
安倍派では、2019年に改選を迎えた参議院議員側は、こうした運用によって、収支報告書に収入として記載していない金額が膨らんだとみられるということです。
また、新たな疑惑も明らかになりました。
安倍派と二階派に所属するそれぞれ複数の議員側が、販売ノルマを超えて集めた分のパーティー収入を、そもそも派閥側に納入していないケースがあることが関係者への取材でわかったんです。
こうしたパーティー収入は、派閥側や議員側の政治資金収支報告書に収入として記載されていない疑いがあり、収支報告書に記載されていないパーティー収入の総額はさらに膨らむ可能性があるというのです。
そして、安倍派では、その総額が、おととしまでの5年間でおよそ1億円に上るとみられることが関係者への取材で新たにわかりました。
こうしたパーティー収入は、派閥側や議員側の政治資金収支報告書に記載されていない疑いがあります。
関係者によりますと、こうした議員側の中には派閥の幹部らも含まれていて、1000万円を超えるパーティー収入を派閥側に納入していないケースもあるということです。
安倍派では大半の所属議員側にパーティー収入の一部がキックバックされ、収支報告書に記載されていない資金の総額が去年までの5年間で、およそ5億円に上るとみられることがすでに明らかになっていて、安倍派で裏金化した資金の総額は、合わせて6億円規模に膨らむ疑いがあるということになりました。
また二階派では、販売ノルマを超えて集めた分のパーティー収入を、そもそも派閥側に納入していないケースの総額が、おととしまでの5年間でおよそ1億円に上るとみられることが関係者への取材で分かりました。
二階派の会長を務める二階・元幹事長の事務所や、事務総長を務めた経験がある平沢・元復興大臣の事務所も、パーティー収入の一部を派閥側に納入していなかったとみられるということです。
二階派では、所属議員側にキックバックされ、収支報告書に記載されていないパーティー収入の総額が、おととしまでの5年間で1億円あまりに上るとみられることがすでに明らかになっていて、派閥の収支報告書に記載されていない資金の総額は、2億円を超える疑いがあるということになります。
この問題をめぐって、二階派「志帥会」は、おととしまでの3年間に記載していないパーティー収入が1億3600万円あまりあったなどとして政治資金収支報告書を訂正しました。
また、派閥の会長を務める二階 元幹事長など国会議員と元国会議員あわせて7人の側への派閥からの寄付、あわせて6533万円も書き加えられました。
記事の冒頭でも記しましたが、この事件で特捜部は、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で、1月19日に、安倍派と二階派の会計責任者について在宅起訴しました。
また、岸田総理が会長を務めていた岸田派でも、2020年までの3年間でおよそ3000万円の収入を派閥の政治資金収支報告書に記載していなかった疑いがあり、捜査を進めてきました。
岸田派の当時の会計責任者については罰金刑を求める略式起訴をしました。
関係者によりますと、岸田派の当時の会計責任者は特捜部の任意の事情聴取に対し、パーティー収入の一部を収支報告書に記載していなかったことを認めているということです。
そして、岸田派「宏池政策研究会」は、おととしまでの3年分の政治資金収支報告書を訂正しました。
このうち2020年には記載していないパーティー収入が896万円あったなどとしています。
岸田派は1月18日、「記載漏れは当時の会計担当者の帳簿作成上の転記ミスや会計知識の過誤などによって生じたもので、いわゆるノルマ超過分の還付を収支報告書から除外するなどの不適正な処理を意図したものではなく、事務処理上の疎漏によるものだ。深くおわびし、再発しないよう、今後は外部による監督を含め十分な管理体制を整備していく」というコメントを出しました。
Q.特捜部は、派閥の幹部から任意で事情を聴いてきたが?
A.東京地検特捜部は、安倍派と二階派の事務所を捜索のあと、松野 前官房長官、高木 前国会対策委員長、世耕 前参議院幹事長、塩谷 元文部科学大臣、萩生田 前政務調査会長の安倍派の幹部5人から任意で事情を聴いてきました。
その後の関係者への取材で、松野 前官房長官ら幹部5人が、特捜部の事情聴取に対し、いずれも、派閥の政治資金収支報告書の不記載への関与を否定する趣旨の説明をし、「ノルマを超えた金額が議員側に還付されていることは知っていたが、パーティー収入の一部が派閥側の収支報告書に記載されていないことは知らなかった」などと話していることがわかりました。
一方、安倍派の会計責任者は収支報告書への不記載を認め、「収支報告書に記載しなければならないことはわかっていた」などと説明しているということです。
そして特捜部は、派閥の運営を取りしきる事務総長を務めた経験がある西村 前経済産業大臣や下村 元政務調査会長からも任意で事情を聴きました。
また特捜部は、二階派の会長を務める二階 元幹事長からも任意で事情を聴きました。
特捜部は派閥の政治資金収支報告書にパーティー収入の一部が記載されなかった詳しい経緯などについて確認したものとみられます。
Q.派閥の幹部やキックバックを受けていた議員の認識がどうだったかは、大きな注目点となったが?
A.捜査では、派閥の幹部、そしてキックバックを受け取っていた議員側が、収支報告書の記載内容をどの程度把握していたのか、そのやり取りの解明が最大の焦点になりました。
政治資金規正法は、パーティーなどの収入や支出を、主催した派閥などの政治団体が収支報告書に記載することを義務づけていますが、記載義務については、その団体の会計責任者やそれを補佐する人を対象にしています。
収支報告書の不記載や虚偽記載を具体的に指示するなど、積極的に関与して「共謀」した事実が認められた場合には、政治家本人も罪に問われることになりますが、そうしたケースは多くはありません。
政治家本人の立件には、一定のハードルがあると言えます。
この記事の冒頭でもお伝えしましたが、東京地検特捜部は松野 前官房長官ら安倍派の幹部7人や、二階派の会長を務める二階 元幹事長など派閥の幹部からも任意で事情を聴いてきましたが、いずれも派閥の会計責任者との共謀は認められないとして、立件しない判断をしました。
東京地検は1月19日の記者会見で「派閥の収支報告書の作成は専ら会計責任者が行っていた。幹部らは、どのように記載していたのか把握まではしておらず、虚偽記載の共謀があったと認めるのは困難だと判断した」と説明しました。
関係者によりますと、安倍派でパーティー収入の一部を裏金化する運用は、20年ほど前から続いていたとされていますが、おととし2022年のパーティーの前に、会長を務めていた安倍元総理大臣が「現金のやりとりは疑念を招く」などとして取りやめを提案し、派閥の幹部らで協議したということです。
しかし池田議員ら高額のキックバックを受けていた一部の議員から反対の声が上がったため、幹部らが再び協議し、運用が続いた経緯があることがわかっています。
特捜部は、派閥の運営を取りしきる事務総長経験者や「5人衆」と呼ばれる幹部7人から任意で事情を聴き、こうした経緯などついて確認を進めてきました。
しかし、幹部らはいずれも虚偽記載への関与を否定し「キックバックは知っていたが、派閥の収支報告書に記載されていないことは知らなかった」などと説明したということです。
また、会計責任者は「派閥の会長には、各議員のノルマやキックバックの金額を相談していたが、収支報告書の記載については会長や幹部らに相談していない」と説明しているということです。
共謀を認定するには、幹部らの具体的な指示や報告・了承があったことなどを立証する必要がありますが、今回の刑事処分は派閥の事務所の強制捜査から1か月、国会開会前というタイミングでした。
必要な捜査は尽くされたのか、疑問も残る形になったと思います。
特捜部は二階元幹事長からも認識について確認したということですが、いずれも会計責任者との共謀は認められないと判断したものとみられます。
一方、安倍派の所属議員側について特捜部は、1月7日、4800万円余りのキックバックを受けたとみられる衆議院議員の池田佳隆容疑者らを証拠隠滅のおそれがあるとして逮捕しましたが、19日、新たに、多額のキックバックを議員側の政治団体の収支報告書に記載していなかったとして、5000万円を超えるキックバックを受けたとされる大野泰正参議院議員を政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で在宅起訴し、4000万円を超えるキックバックを受けたとされる谷川弥一衆議院議員(当時)を略式起訴しました。
そして1月26日、特捜部は、池田議員らを虚偽記載の罪で起訴しました。
安倍派では大半の所属議員側が裏金のキックバックを受けていましたが、中でも特に高額だったのが池田議員、大野議員、谷川議員でした。
特捜部の判断の基準の1つになったとみられるのが金額です。
かつては「1億円」の不記載や虚偽記載が検察の立件ラインとされてきましたが、その基準は下がってきていて、実際に、おととしには、薗浦元衆議院議員がパーティー収入など4000万円を超える虚偽記載などの罪で略式起訴されたほか、2020年には「桜を見る会」をめぐる問題で、安倍元総理大臣の秘書がおよそ3000万円の収支を記載しなかったとして略式起訴されました。
今回、3人の議員はいずれも4000万円を超える裏金のキックバックを受けていたとされ、略式起訴された岸田派の元会計責任者や二階・元幹事長の秘書の虚偽記載の金額は3000万円余りでした。
特捜部は、過去の事件との公平性などを考慮し、3000万円を一定の基準にして今回の刑事処分を判断したものとみられます。
なお、政治資金規正法違反の罪で略式起訴されていた谷川 元衆議院議員と、岸田派の元会計責任者について、東京簡易裁判所は罰金100万円と公民権停止3年の略式命令を出しました。
また、同じく略式起訴された二階元幹事長の秘書について、東京簡易裁判所は、罰金100万円と公民権停止3年の略式命令を出しました。
いずれも有罪が確定しました。
一方、政治資金規正法違反の罪で起訴された安倍派の会計責任者の初公判は5月10日に開かれることになりました。
Q.1月19日以降、安倍派「5人衆」はどう発言?
A.安倍派の萩生田 前政務調査会長は1月22日、記者会見し、パーティー券の販売ノルマを超えて集めた収入など2700万円余りを政治資金収支報告書に記載していなかったことを明らかにして陳謝しました。
そして、これまでに支出したおよそ955万円の使いみちについては、国会議員や外国の要人、マスコミ関係者などとの会合費や、海外に出張した際の活動費だと説明しました。
萩生田氏は「派閥事務局から収入・支出ともに記載を禁じられていた。会計に関することは詳細まで把握していなかったが、積極的に把握と指導に努めるべきだった。大変反省している」と述べました。
世耕 前参議院幹事長は19日、記者会見で、2018年からの4年間でおよそ1540万円のキックバックを受けて政治資金収支報告書に記載していなかったと明らかにし、「政治資金の管理については秘書に任せきりの状況となっていた」と陳謝しました。
元事務総長の松野 前官房長官はコメントを発表し、平成30年から5年間で、自身の資金管理団体において、派閥からの寄付あわせて1051万円分が不記載になっていると明らかにしました。
松野 前官房長官は1月26日記者会見し、派閥の政治資金パーティーをめぐる事件で政治不信を招いたとして陳謝しました。また、議員辞職や離党する考えはないと説明しました。
安倍派事務総長の高木 前国会対策委員長はコメントを発表し、おととしまでの5年間で派閥から1019万円のキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していなかったと明らかにしました。
高木 前国会対策委員長は27日記者会見し「国民に多大なる政治不信を招くことになった」と陳謝しました。一方、議員辞職や離党については否定しました。
元事務総長の西村 前経済産業大臣は1月19日、記者会見で、派閥側から議員側へのパーティー収入のキックバックについて「歴代会長と事務局長との間で、長年、慣行的に行われ、私たちは関与することはなかった」と釈明しました。
また、2022年までの5年間で100万円のキックバックを受けていたことを明らかにした上で、裏金などの目的ではなかったと説明しました。
Q.今回の問題では、12月に官房長官ら安倍派の4閣僚が交代という異例の事態に。人事をどう見たか?
A.12月14日の人事は、何よりも安定性を重視したと言えますが、必ずしも政権側が思い描いたとおりに人事が進んだとは言えませんでした。
政府内では当初、安倍派の政務三役全員を代える案もありましたが、安倍派から強い反発の声があがりました。
「一連の問題に関与していない若手まで代えるのはおかしい」(安倍派内)
結果として安倍派の4閣僚・5副大臣は全員交代の一方、政務官の交代はこの時点では1人となり、岸田総理は「一人一人の意向や事情を勘案した上で判断をした」と説明しました。
岸田総理には、政治資金問題に厳格に臨む姿勢を示したい思いの一方、最大派閥の安倍派とは対立を避けたいという判断もあったとみられます。
ただ、結局その後、2024年1月31日、安倍派に所属する小森 総務政務官と加藤 国土交通政務官も、収支報告書に記載していない収入が新たに明らかになったとして辞任しました。
Q.4閣僚の交代人事、より具体的には?
A.閣僚の人事では、岸田総理は去年12月14日、松野官房長官や西村経済産業大臣ら安倍派の4人の閣僚を交代させ、後任に▽岸田派の林官房長官▽無派閥の齋藤経済産業大臣▽麻生派の松本総務大臣▽森山派の坂本農林水産大臣を起用しました。
この人事で、4人いた安倍派の閣僚が1人もいなくなりました。
新閣僚は、いずれも安倍派以外の派閥か派閥に所属していない閣僚経験者で、うち3人は、9月の内閣改造で閣外に出たあと、わずか3か月で呼び戻された形です。
閣僚として記者会見や国会審議をこなし、不祥事などを抱えていないと確認できていることもポイントで、政府関係者はこう話しています。
「即戦力で選んだという、ひとことに尽きる」(政府関係者)
Q.ほかの人事はどうなったのか?
A.自民党では▼萩生田政務調査会長▼高木国会対策委員長▼世耕参議院幹事長も辞表を提出し、安倍派の「5人衆」と呼ばれる有力議員がいずれも閣僚や党幹部の役職を退きました。
安倍派の幹部が政権中枢から外れ、政府からすると窓口役がいなくなった形です。
ある政権幹部は政府・自民党内の調整が難しくなるのではないかと不安をのぞかせていました。
そして12月22日、党幹部の後任人事では、政務調査会長に渡海 元文部科学大臣を起用。
また、国会対策委員長には、浜田 前防衛大臣が起用されました。
岸田総理としては、安倍派の4人の閣僚らを交代させたのに続き、党の要職にいずれも無派閥のベテラン議員を起用して体制の立て直しを図り、2024年の通常国会に臨むことになりました。
Q.人事以外に、岸田総理はどう対応?
岸田総理は12月7日、総理大臣と党総裁の間は、より中立的な立場で国民の信頼回復に努めたいとして、みずからが会長を務めていた岸田派「宏池会」を離脱しました。
そして岸田総理は13日夜、記者会見を行い、14日に人事を行う意向を表明。
「国民から疑念を持たれるような事態を招いていることは極めて遺憾だ。国民の信頼なくして政治の安定はありえない。政治の信頼回復に向けて自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」
「国民の信頼回復のため『火の玉』となって自民党の先頭に立って取り組んでいく」
年が明けて、自民党は、派閥の政治資金パーティーをめぐる問題を受けて、再発防止策や派閥のあり方などを議論するため「政治刷新本部」を設置し、1月11日、初会合を開きました。
冒頭、本部長の岸田総理大臣は「国民の厳しい目、疑念の目が注がれており、自民党をめぐる現在の状況は極めて深刻という強い危機感のもと、一致結束して事態に対応していかなければならない」と述べました。
【リンク】特集「どうなる派閥 政治改革の行方は?政治刷新本部」はこちら
自民党の「政治刷新本部」は38人で構成し発足。
岸田総理大臣が本部長を務め、麻生副総裁と菅前総理大臣の総理大臣経験者2人が最高顧問に就きました。
党内で無派閥の菅前総理大臣らが派閥の解消を主張する一方、人材育成などの観点から解消に否定的な意見も根強くある状況を踏まえ、派閥の役割や機能などについて丁寧に意見集約を進めていく構えでした。
Q.そうした中で岸田総理が1月18日、「岸田派の解散」を突然、表明した?
A.そうですね。
岸田総理は記者団に、こう述べました。
「宏池会=岸田派の解散についても検討している。政治の信頼回復に資するものであるならば、そうしたことも考えなければならない」
岸田派は、23日、岸田総理の意向を踏まえ解散することを正式に決めました。
【リンク】特集「『自民党を潰しちゃいけない』岸田決断の舞台裏」はこちら
Q.「派閥解散」表明の狙いと自民党内の受け止めは?
A.岸田総理としては、60年以上の歴史を持つ派閥をみずから解散するという、いわば乾坤一擲(けんこんいってき)の一手を打ち出すことで、党内の議論をリードし、国民の政治不信の払拭につなげたい狙いがあるとみられます。
ある政府関係者は、こう明かしました。
「岸田総理は『派閥が潰れても自民党は残す』と語っていた」(政府関係者)
一方、突然とも言える表明に、党内には大きな波紋が広がりました。
党の「政治刷新本部」では、派閥のあり方をめぐり議論が交わされている最中でしたので、戸惑いの声が聞かれました。
「いままでの議論は何だったのか」(自民党内)
「事前に相談がなかった」(岸田派以外の党幹部)
今後の政権運営に禍根を残すという見方が出ました。
Q.派閥の是非をめぐる議論は、どうなっていったのか?
A.検察から強制捜査を受けた安倍派や二階派については、岸田総理の「岸田派の解散」発言もあり、それぞれの派閥内から、解散せざるを得ないという声が相次ぎました。
「岸田総理が完全に流れを作った」(安倍派・二階派の各派閥内)
そして1月19日午後、自民党の派閥の政治資金パーティーをめぐる事件を受けて「志帥会」=二階派の会長を務める二階 元幹事長は記者会見し、派閥を解散する意向を表明しました。
さらに最大派閥の安倍派も19日午後、議員総会を開き、派閥を解散する方針を決めました。
その一方で、党内第2派閥の麻生派や第3派閥の茂木派では、不快感を示す議員が相次ぎました。
「適切に対応していた派閥まで解散する必要はない」(麻生派・茂木派の各派閥内)
岸田政権は、岸田派に加えて、麻生副総裁や茂木幹事長といった、ともに派閥を率いてきた幹部が政権中枢を担い、複数の派閥によって支えられてきました。
麻生氏や茂木氏は、派閥の解消に慎重な考えだとみられていたことから、今後の政権運営に影響が及ぶことも予想されました。
そして、麻生派を率いる麻生副総裁は現時点では派閥を解散するつもりはないと岸田総理に伝えました。
麻生氏は21日夜、都内のホテルで岸田総理と会談し、刷新本部での今後の議論の進め方などをめぐって意見を交わしています。
また、派閥を解散するかどうかが注目されていた茂木派は、会長の茂木幹事長が存続させる意向を固め、関係者に伝えました。
一方、25日、森山派は、議員や関係者が立件されていないものの、国民から派閥の存在自体に疑念を抱かれているなどとして、解散することを決めました。
これによって自民党の6つの派閥のうち4つが解散することになりました。
その後、茂木派では、小渕選挙対策委員長が1月25日、派閥を退会する意向を会長の茂木幹事長に伝えました。
小渕氏は茂木派の前身となる派閥を率いた小渕恵三 元総理大臣の次女で、知名度も高いことから、派閥内からは「退会は痛手だ」という声が出ています。
さらに、関口参議院議員会長や、小渕内閣などで官房長官を務め派閥に影響力を持っていた故 青木幹雄氏の長男の青木一彦 参議院議員も所属する茂木派を退会する意向を明らかにしました。
派閥のあり方については、「政治刷新本部」で議論が行われてきました。
自民党が25日午後、決定した「政治刷新本部」の中間とりまとめでは、派閥は本来の「政策集団」に生まれ変わるため、カネと人事から完全に決別するなどとしています。
具体的な方策として◇政治資金パーティーの開催を禁止し、◇冬と夏に派閥を通じて議員に配る活動費、いわゆる「もち代」と「氷代」を廃止するとともに、◇人事の働きかけや協議は行わないことも盛り込みました。
Q.派閥をめぐる自民党内の情勢をどう見る?
A.流動化が進んできたと言っていいと思います。
6つの派閥のうち4つが解散を決め、所属議員の7割が無派閥となります。
加えて、残る麻生派や茂木派から、退会するという議員が出てきています。
茂木派は、派閥のあり方をめぐって、1月30日、衆参両院の所属議員による会合を開きました。
カネと人事から完全に決別するとした党の中間とりまとめに沿って、新たな政策集団としての活動のしかたを検討していくことを確認しました。
一方、会合では、これまでに退会した小渕選挙対策委員長らに続き、古川禎久 元法務大臣が退会する意向を表明しました。
他方で、麻生派や茂木派からは、先んじて派閥解散を打ち出した岸田総理に対し、不満を口にする議員もいて、政権基盤に影響が出かねない状況です。
Q.安倍派の幹部の責任を問う意見もあるが、どうなる?
A.決着を図るのは容易ではなさそうです。
「安倍派は立件された」という理由で処分すると言っても、岸田派や二階派も立件されていますので、「線引きが難しい」という声もあります。
このため、自発的な離党などを求める意見が出ていましたが、見通せない情勢です。
政治資金パーティーをめぐる事件を受けて、解散することを決めた自民党の安倍派は2月1日、最後となる議員総会を開き、派閥としての活動を終えました。
この中で、座長を務める塩谷元文部科学大臣は「政治不信を招き、深くおわび申し上げる。安倍元総理大臣の遺志を継いで政策実現に向けて運営してきたが、このような事態になり誠に残念無念だ」と述べました。
総会では、出席した議員から塩谷氏の政治責任を問う声が出た一方、「1人に責任を負わせるべきではない」という意見も出されました。
Q.一方で野党側のこれまでの対応は?
A.去年の臨時国会会期末の12月13日。
立憲民主党は、岸田内閣に対する不信任決議案を衆議院に提出しました。
決議案では「国民の内閣に対する信頼は完全に失墜した。岸田内閣は国民の声を聞く力も政策を決定し遂行する能力もない。国政の停滞は許されず、内閣はただちに総辞職すべきだ」としています。
岸田内閣に対する不信任決議案について、野党各党は決議案に賛成することで一致。
ただ、衆議院本会議の採決では、決議案は自民・公明両党などの反対多数で否決されました。
野党側は、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党、れいわ新選組などが賛成しました。
年が明けて、立憲民主党は1月18日、「政治改革実行本部」を開き、▼政治資金収支報告書に虚偽記載などがあった場合、会計責任者だけでなく議員本人も処罰の対象にするとともに、▼収支報告書にパーティー券の購入者を記載しなければならない金額を「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げるなどとした政治資金規正法の改正を目指す方針を確認しました。
泉代表は21日、派閥からキックバックを受け、収支報告書に記載していなかった議員の証人喚問を引き続き求めていく考えを示しました。
「数千万円の裏金がありながら、今になって公表して何食わぬ顔で過ごしている議員もおり、自民党の裏金体質を絶対許してはならない。国民の声を高めてルール違反の議員を国会から一掃することが必要だ」
「自民党自身が事実上何もせず、派閥の解体に話をすり替えようとしているのはけしからん話だ。すべての裏金議員は議員を辞めるとともに、岸田派でも3000万円の不記載が分かったわけだから岸田総理大臣は辞任に値する」
そして1月30日、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党4党の国会対策委員長が、会談。
新年度予算案の実質的審議が始まる前に事件の全容を明らかにすべきだとして、自民党所属のすべての国会議員を対象に、派閥からキックバックを受けていたかを調べて、その結果を、2月5日までに、国会に提出するよう求めることで一致しました。
また、政治倫理審査会を開催し、二階派の会長を務めてきた二階元幹事長のほか、安倍派の座長を務める塩谷元文部科学大臣や「5人衆」と呼ばれる有力議員らに説明を求めていくことも確認しました。
Q.通常国会ではどんな論議が?
A.2月5日、国会は、衆議院予算委員会で新年度予算案の実質的な審議が始まりました。
立憲民主党の岡田幹事長が、自民党の派閥の政治資金をめぐる問題を受けた政治改革の実行を迫ったのに対し、岸田総理は今の国会で政治資金規正法の改正を実現すると強調しました。
立憲民主党の岡田幹事長は、政治改革をめぐり、こう追及。
「『火の玉になってやる』とか『先頭に立ってやる』というが、政治は結果責任だ。実行することが責任だというなら、この国会でやり遂げる決意が必要で、『できなければ責任を取る』ぐらいのことが言えないのか」と迫りました。
これに対し、岸田総理は。
「自民党が変わらなければならないという思いを持って党の中間とりまとめを実行する。法改正を伴う制度面の改革について、各党・各会派と真摯な協議を行うと明記しており、今の国会で政治資金規正法をはじめとする法改正を実現していく」と述べました。
7日の衆議院予算委員会では、立憲民主党の後藤祐一氏が、自民党安倍派の萩生田 前政務調査会長が行った政治資金収支報告書の訂正をめぐって追及。
「支出のうち交際費では目的や金額などすべてが不明とする訂正がなされている。不明、不明、不明などとしているのは『マネーロンダリング』ではないか」とただしました。
これに対し岸田総理は「収支報告書は事実に即して記載されるべきもので訂正も事実に即して記載されるべきだ。『不明』とされた点などはその後、事実が確認された場合はそれを記載すると説明があったということで、そういうものだと私も認識している」と述べました。
また、政党から議員に支給される「政策活動費」をめぐり、岸田総理は、二階元幹事長に対する支給額を問われ「公開されている党本部の収支報告書の範囲で答えれば、令和2年に6億3020万円、令和3年に4億3910万円の合計10億6930万円を党本部から支出している。令和4年は支出していない」と述べました。
Q.自民の議員側が相次いで収支報告書を訂正。どう分析?
A.まず、東京地検特捜部の捜査で、自民党の安倍派、二階派、岸田派が、おととしまでの5年間で合わせて9億7000万円余りのパーティー収入を政治資金収支報告書に記載していなかったことが明らかになっています。
これを受けて、各派閥がおととしまでの3年分の収支報告書を訂正した結果、安倍派と二階派の当時の所属議員などの団体に合わせて4億9259万円の寄付が追加されたことがわかっています。
訂正を各派閥ごとに見ます。
【安倍派】
▽パーティー収入を合わせて4億3588万円増額し、この期間に行った当時の所属議員など91人の団体への寄付として合わせて4億2726万円を追加しました。
【二階派】
▽パーティー収入を合わせて1億3614万円余り増額し、この期間に行った当時の所属議員7人の団体への寄付として合わせて6533万円を追加しました。
【岸田派】
▽パーティー収入を合わせて896万円増額し、議員側への寄付の追加はありませんでした。
NHKは、これらを収支報告書に記載していなかった98人の団体のうち、2月8日正午までに訂正後の収支報告書がホームページで公開された72人分について分析しました。
(※その後、2月28日時点では少なくとも86人の団体が訂正)
その結果
▽派閥側の訂正で新たに判明した議員側への寄付の総額3億7749万円に対し
▽議員側の訂正で追加された支出の総額は28%にあたる1億592万円余りで
▽残りのおよそ70%、2億7000万円余りは、使われずに「翌年への繰越額」として記載されたとみられることがわかりました。
「翌年への繰越額」として記載されたとみられる割合は、派閥によって大きく異なっています。
【安倍派】
▽派閥側の訂正で新たに判明した65人の団体への寄付の総額3億1216万円に対し
▽議員側の訂正で追加された支出の総額は19%にあたる6038万円余りで
▽残りのおよそ80%、2億5000万円余りは、使われずに「翌年への繰越額」として記載されたとみられます。
【二階派】
▽派閥側の訂正で新たに判明した7人の団体への寄付の総額6533万円に対し
▽議員側の訂正で追加された支出の総額は70%に当たる4553万円余りで
▽残りのおよそ30%、1900万円余りは、使われずに「翌年への繰越額」として記載されたとみられます。
政治資金の問題に詳しい日本大学の岩井奉信 名誉教授は、こう指摘しています。
(インタビューは2月上旬)
「繰り越しというのはため込んでいたのと同じなので、では何のためのキックバックだったのか。繰り越しという形になると確認する方法がないので、それを信じるしかない。つまり説明する必要もないということになるので、これで説明責任を果たしたことになるのかという疑問が出てくる」
Q.議員側の収支報告書訂正で支出の内訳は?
A.議員側の訂正で追加された新たな支出の内訳は、次のとおりです。
【安倍派】
▽会合や飲食などの費用を含む「組織活動費」が追加支出全体の33%に当たる2006万円余りと最も多く
次いで
▽「使途不明金」が1398万円
▽「事務所費」が819万円余り
▽みずからが関連する政治団体への「寄付」が633万円などとなっています。
【二階派】
▽二階元幹事長の資金管理団体が3472万円余りの書籍代を追加したことから「調査研究費」が追加支出全体の76%を占めていて
次いで
▽「寄付」が500万円
▽「人件費」が438万円(10%)などとなっています。
「書籍代の追加」について、二階氏の事務所は14日夜、コメントを出しました。
二階氏が取り組む政策を紹介する書籍を購入したなどとしていて、購入した数が最も多いのは1冊2090円の『ナンバー2の美学二階俊博の本心』で、5000冊購入し1045万円を支出したとしています。
Q.支出の追記 二階氏に限らず具体的な内容は?
A.訂正後の議員側の収支報告書には、「組織活動費」として、新たに、銀座や赤坂、それに六本木などの高級店での飲食代のほか、土産代やデパートで購入した品物の代金などが記載されていました。
また、「事務所費」として、防犯カメラ工事の費用のほか、PCR検査料や大腸内視鏡検査の費用なども追加されていました。
さらに、「備品・消耗品費」として、壊れた議員バッジを修理した際の費用を追加したケースもありました。
Q.自民が立民に資料を提出。記載された現職議員は?
A.2月5日、自民党は、派閥の政治資金パーティーをめぐる問題を受けて、各政治団体の代表者を務める議員を明記した資料を立憲民主党に提出しました。
資料には、▽収支報告書を訂正した政治団体▽代表の氏名そして▽訂正した支出の金額が記されています。
令和2年から令和4年までの3年間のもので、安倍派「清和政策研究会」と二階派「志帥会」に所属していた現職の国会議員の氏名などが記載されています。
以下、記載されていた議員の一覧と、資料を掲載します。
安倍派「清和政策研究会」
(敬称略)
二階派「志帥会」
(敬称略)
提出された資料は
Q.自民党が行った、安倍派や二階派の関係議員などへの聴き取りの結果は?
A.今回の問題を受けて自民党は森山総務会長ら党幹部が、安倍派や二階派など現職の国会議員82人と8つの派閥や議員グループの幹部ら91人を対象に聴き取りを行い、2月15日、結果を報告書としてとりまとめ、野党に示した上で公表しました。
それによりますと、安倍派と二階派の現職の議員82人と次の衆議院選挙の立候補予定者となる支部長3人の合わせて85人のすべてに、派閥のパーティー券収入を議員側に戻す、還付金などが確認されたとしています。
還付などのシステムは、ノルマの超過分を議員側に戻す「還付方式」と、ノルマ分のみ派閥に納入して超過分を議員側に留保する「留保方式」の2つに分類され、85人の議員らへの還付などの総額は、おととしまでの5年間で5億7949万円にのぼるとしています。
85人のうち、当時から還付などがあることを認識していたのは32人で、このうち11人は収支報告書に記載がないことを認識していたとしています。
この理由について議員は聴き取りに対し「派閥事務局から収支報告する必要はないと言われたのを信じていた」などと説明したとしています。
還付金などを使ったかどうかは
▽使用していたのが53人
▽使用していなかったのが31人
▽還付を受けたことを議員や秘書が認識していなかったのが1人でした。
一方、報告書では、安倍派でいつからこうした還付などが始まったかは判然としないとする一方、遅くとも十数年前から行われていた可能性が高く、場合によっては20年以上前から行われていたこともうかがえると明記しています。
さらに、聴き取りの中で安倍派に所属していた議員から「派閥の上に立つ人間が責任をとらないといけないと思う」などと派閥幹部の責任を問う声が数多く上がったとしています。
報告書はとりまとめにあたった弁護士の提言として、再発防止に向けた法改正が強く望まれるなどと結んでいます。
Q.使いみちは具体的に?
A.報告書では還付金などを「使用していた」とする53人の使いみちも記載しています。
会合費、研修会の施設経費、懇親費用、事務費、車両の購入費、書籍代、人件費、手土産代、弁当代、翌年以降の派閥のパーティー券購入費用など多岐にわたっていますが、それぞれの金額は記されていません。
「使用しなかった」と回答した31人には理由を尋ねていて、「不明朗な金銭だったから」が13人で最も多く、次いで「将来のパーティー券ノルマへの備え」が5人などとなりました。
一方「政治活動費以外に用いた」とか「違法な使途に使用した」という回答は無かったとしています。
Q.自民党の聴き取り結果について、野党の反応は?
A.立憲民主党の泉代表は、記者団に対し「肝心なことは何も書いていない。『政治活動以外に使ったケースはない』などということも自己申告で、真相かどうか全く分からず、お手盛りの調査だ。再調査と政治倫理審査会への出席を同時進行で求めていく。調査に時間をかけて、出てきたものがこんなに中身が空っぽなものであれば、岸田総理大臣の責任も問われる」と述べました。
そのうえで、「裏金をつくっていたことは事実だ。たまたま記載を間違えたのではなく、お金をもらっていたことを認識し、記載しなければいけないものを記載しなかったので、過失では済まされない。議員の身をひいてもらうのが筋だ」と述べました。
Q.野党側の要求で焦点化した衆院政倫審。2月28日の開催が見送られる中、岸田総理は「みずから出席する」と表明。一体どうしてか?
A.みずから範を示し、膠着状態を打開する狙いがありました。ある政権幹部はこう明かします。
「総理は当初から全面公開が必要だと考えていたが、出席する議員の意向を尊重したいという思いもあり、ギリギリまで推移を見極めていた」(政権幹部)
「なかなか決断しない5人に総理が不満をにじませる場面もあった」
衆議院政治倫理審査会をめぐっては、野党側が全面公開を求めていたのに対し、自民党内の調整が整わず、2月27日夕方になって翌28日の開催が見送られるという異例の事態になっていました。
与野党問わず、「総理が指導力を発揮し公開を指示すべきだ」という声が強まっていましたので、岸田総理としては、これ以上、待ちの姿勢を続けるのは得策ではないと判断したものとみられます。
そして、28日午前、突然の表明となりました。
「こういった状況のままでは、政治に対する不信がますます深刻になってしまうと強い危機感を感じており、私自身、自民党総裁として政倫審にみずから出席し、マスコミオープンのもとで説明責任を果たしていきたい。政治の信頼回復に向けて、ぜひ、志のある議員に審査会をはじめ、あらゆる場で説明責任を果たしてもらうことを期待している」
政治倫理審査会への出席は、現職の総理大臣としては初めてです。
総理周辺は、こう話していました。
「切れるカードの中で最も重いカードだ」(総理周辺)
もう1つ、審査会が開かれないことで、懸念されていたのが、新年度予算案の審議への影響です。
岸田総理としては、審査会を動かすことで、新年度予算案のこの週内の衆議院通過に向けて野党の協力を引き出したい狙いもあったとみられます。
Q.そもそも、政倫審とは?
A.政治倫理審査会は、議員が政治倫理に関する規範に著しく違反して、政治的、道義的に責任があるかどうかを審査する場で、衆参両院に設けられています。
委員が審査の申し立てをするか、疑惑を受けた議員本人が審査を申し出ることで開かれます。
審査は原則非公開で、議員本人が認めれば、議員や報道関係者の傍聴が可能になります。
また、審査会での発言は、証人喚問とは異なり虚偽の証言をした場合でも偽証罪に問われることはありません。
衆議院ではこれまでに9回、審査のために開かれています。
初めて開かれたのは1996年9月で、当時自民党の幹事長だった加藤紘一氏が鉄骨加工メーカーからみずからへの献金疑惑について弁明を行いました。
その後も、それぞれ、政治とカネや学歴など、みずからに関する疑惑について弁明を行いました。
審査会が実際に非公開となったのは加藤氏の時の1回だけで、山崎氏、額賀氏、橋本氏の時の3回は議員の傍聴が認められました。
田中氏と伊藤氏の時は議員と報道関係者の傍聴が認められ、テレビ中継も行われました。
2009年7月には、自民党と公明党の委員の申し立てで当時民主党の代表だった鳩山由紀夫氏の政治献金問題をめぐる審査を行うために開かれましたが、民主党の委員は抗議して欠席し鳩山氏も出席しませんでした。
一方、参議院の政治倫理審査会は議員による弁明は1度も行われていません。
Q.28日の開催が見送られた経緯は?何が起きていた?
A.2月27日、与党の公明党からも、自民党の調整能力に疑問を呈する声が聞かれる事態になっていました。
与野党は、自民党安倍派と二階派の事務総長を務めた5人からの申し出を受けて、2月28日と29日、衆議院政治倫理審査会を開く方向で公開のあり方などをめぐって協議を続けてきました。
野党側が公開での開催を求めているのに対し、自民党は議員に限って傍聴を認める案を提案し、27日も断続的に協議を行いました。
その中では、自民党は5人のうち西村 前経済産業大臣と武田 元総務大臣の2人の審査を28日、先行して行う案を新たに示し、公開については冒頭のみカメラでの撮影を認めることなどを提案しましたが、野党側は審査全体を通しての撮影や中継を認めるべきだと反発し、結局、折り合わなかったんです。
Q.なぜ自民党はすべて公開にはしないとしてきたのか?
A.本人たちの意向も含め調整が整わないためでした。
今回の問題で、もともと、野党側は、派閥からキックバックを受けるなどして、自民党の聴き取りの対象になった安倍派と二階派の衆議院議員51人全員を衆議院政治倫理審査会に出席させるよう求めてきました。
一方、与党側は、新年度予算案の年度内成立を確実にするため、今週中に衆議院を通過させたい考えですので、衆議院通過を確実にした上で、政治倫理審査会を開くことで折り合えないか模索する案が出ていました。
自民党は当初、立憲民主党に対し、▼安倍派の塩谷 元文部科学大臣と▼二階派の武田 元総務大臣の出席を伝えましたが、野党側は、2人だけでは不十分だと強く反発。
自民党は、2人に加え、いずれも安倍派の「5人衆」と呼ばれる議員で事務総長を務めた▼松野 前官房長官、▼西村 前経済産業大臣、▼高木 前国会対策委員長の3人が出席する意向だと伝えたんです。
公開についても、野党側の求めに応じていわば段階的に譲歩する案を提案してきた形ですが、こう話す自民党幹部もいました。
「もともと非公開を希望していた本人たちの意向を踏まえれば、これ以上は譲れない」(自民党幹部)
また、審査を申し出た5人と、野党側との交渉にあたる自民党担当者について、こういう見方もありました。
「本人たちと自民党の交渉担当者の間で、意思疎通がうまくいっていないのではないか」(与党内)
ただ、説明責任を果たしていないと批判されるのは避けたいのが本音で、落としどころを見いだせるのか、自民党の対応が焦点となっていました。
Q.岸田総理の出席表明で、政倫審の開催はどうなったのか?
A.その後、断続的に与野党の協議が続きました。
審査を申し出た5人が公開に応じるかどうか、5人のうちの1人は取材に対し、こう話していました。
「総理が公開で出るとなれば、そういう流れになるだろう。今後の状況を見て判断する」
そして28日午後、衆議院政治倫理審査会は幹事会を開き、岸田総理らからの申し出を受けて、テレビ中継も含め、報道機関にも公開する形で、29日と3月1日、審査会を開催することを決めました。
2月29日は岸田総理と二階派の事務総長を務めた武田 元総務大臣の2人が、3月1日はいずれも安倍派の事務総長を務めた西村 前経済産業大臣、松野 前官房長官、塩谷 元文部科学大臣、高木 前国会対策委員長の4人が出席しました。
公開するかどうかは議員本人の意向が尊重されますが、岸田総理が公開での審査を申し出たことから、5人も公開を受け入れ、日程などが固まった格好です。
Q.結果として衆院政倫審は実態解明につながったか?
A.2日間のうち、3月1日の政治倫理審査会の焦点の1つは、安倍派によるキックバックや収支報告書への不記載が行われるようになった経緯がどの程度明らかになるかという点でした。
しかし、出席した4人からは「存じ上げなかった」「自分は一切関与していない」など、これまでとほぼ同様の説明が繰り返されました。
質疑で特に質問が集中したのは、おととし安倍元総理大臣がキックバックをやめるよう指示したにもかかわらず、それが維持された経緯でした。
西村氏らは、4月と8月の2回協議が行われ、西村氏と塩谷氏、下村 元政務調査会長、世耕 前参議院幹事長が参加したことを明らかにしたものの、結局、誰がキックバックの維持を主導したのかは明らかにされませんでした。
国民の納得が得られる説明を果たせたかという点では、疑問が残る内容だったと思います。
Q.衆院政倫審のあと国会の議論は?
3月4日の参議院予算委員会。
立憲民主党の辻元 代表代行は、パーティー収入のキックバックが再開された経緯について、衆議院政治倫理審査会での幹部らの発言の整合性を追及しました。
「政倫審の焦点のひとつは安倍元総理の死後、いつ誰が裏金を再開したのか。西村議員は『話し合ったが結論は出なかった』、塩谷議員は『ことしに限っては継続するのはしょうがないかなとなった。そういう結論になった』と言っている。食い違っている。どっちかがうそをついているということですね?」
これに対し岸田総理は。
「発言の食い違い等について私は判断することはできないが、国民の関心事として説明が行われることが期待されると思っている」
Q.今後の政倫審は?
A.衆議院では安倍派の事務総長を務めた下村 元政務調査会長が立憲民主党に対し「政治倫理審査会に出席する意思はあり、党と相談する」などと回答しました。
野党側は、実態の解明に向けて開催を強く求めていく方針なのに対し、自民党は開催の必要性を慎重に判断したい考えでした。
こうした中、下村 元政務調査会長は、12日夕方、自身も説明責任を果たしたいとして、審査会の田中会長に文書で審査を申し出ました。
これを受けて、与野党は審査会の日程などを協議することにしています。
下村氏は、キックバックの取り扱いを協議した幹部の1人とされます。
記者団に対し、「逃げ隠れしているわけではない。できるだけ早く審査会を開いてもらい、嘘偽りなく丁寧に説明したい」と述べました。
そして、下村 元政務調査会長が出席する審査会が18日に開かれることになりました。
野党側は下村氏がおととし8月の幹部協議に出席していたことから、キックバックが続けられたいきさつなどを追及する方針です。
Q.「政治改革」は国会の焦点でもある。実現できるのか?
A.政治資金の透明性確保と罰則強化という大きな方向性は与野党の共通認識になっていると言えますが、具体論では自民党とそのほかの政党で温度差もうかがえます。
例えば、今回の事態を踏まえれば、抜本的な罰則強化が必要だとして、多くの党が求める「連座制」の導入について、岸田総理は1月29日の国会質疑で「党の考え方をまとめる」と従来より踏み込みました。
「連座制」は、政治資金収支報告書に虚偽記載があった場合に議員も責任を負うというものです。
自民党内にも導入に前向きな意見がありますが、個別に議員に取材してみますと、次のような慎重論、いわば本音も聞かれます。
「どんな場合でも、あらゆるケースの責任を議員が負うのは厳しすぎる」(自民党内)
また、政治資金パーティーの取り扱いは、自民党が派閥によるパーティーの禁止を盛り込んだ一方、立憲民主党は政治家個人のものも含め全面禁止を打ち出すなど、隔たりがあります。
いずれも国会議員の処遇や資金に直結しますので、合意形成が難航することも予想されます。
国会の審議では、立憲民主党が、政治改革の実行を迫ったのに対し、岸田総理は今の国会で政治資金規正法の改正を実現すると強調しました。
また、岸田総理は、審査会での質疑で、悪質な会計処理があった場合、会計責任者だけでなく、政治家本人も責任を負うようにするなどの法改正を今の国会で実現させる考えを示しました。
各党がそれぞれの案をまとめる中、自民党が実効性のある案を提示できるのか、さらには与野党で一致点を見いだせるのかが焦点となります。
Q.政治の信頼回復、厳しい道のりですね?
A.立憲民主党などは安倍派幹部のこれまでの弁明に反発を強めていて、自民党内でも信頼回復への道は容易ではないという声が出ています。
自民党執行部は信頼回復に向けて関係する議員の処分を検討しています。
ただ、ある幹部は「甘い処分では世論の反発が強まり、厳しい処分では党内が不安定になりかねない」などと話していて、対応に苦慮しています。
本来は再発防止に向け、早く与野党で政治資金規正法の改正論議に進まなければならないと思いますが、その環境がなかなか整わない状況が続いています。
(3月14日「ニュース7」などで放送)
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