「磯焼け」という言葉をご存じだろうか。海底に海藻が少なくなって岩肌が露出し、生物多様性が失われる「海の砂漠化」と呼ばれる現象だ。近年、各地の海で問題になっている。
本書『プロダイバーのウニ駆除クエスト 環境保全に取り組んでわかった海の面白い話』は、磯焼けを憂慮するプロダイバーで「スイチャンネル」を運営するYouTuberでもある中村拓朗氏が、海藻が繁茂する藻場を再生するために5年間にわたって繰り広げた試行錯誤の記録だ。
著者のクエスト(冒険)は、磯焼けの一因とされるウニの駆除から始まるのだが、進めるうちに、どうやらウニだけが犯人ではないとわかってくる。海の環境保全をテーマとしつつ、軽妙な文体でつづられる著者の奮闘ぶりや、犯人探しのような謎解きが面白い。
育てた1000匹のウニが全滅
主な舞台は、著者の故郷であり活動の拠点である長崎の角力(すもう)灘などの海だ。ダイビングが大好きな著者は、水族館の飼育員を経て水中ガイド業で独立。ところが2014年ごろ、タツノオトシゴやマコガレイなど多種多様な生き物であふれていた海で磯焼けが起きた。海藻を食べるウニは、当時、磯焼けの原因と考えられていた。著者は漁業者からの誘いを受け、藻場再生を目指してウニの駆除を開始する。
一方、ウニは高級食材でもあるため、1000匹を集めて育てたほか、ウニ漁師になってt採って売るなど著者はさまざまな挑戦を始めた。しかし、育てたウニは病気で全滅し、ウニ漁師は簡単にはもうからないとわかるなど残念な結果が続く。それでも簡単には諦めず、育てるウニの数を減らし、ウニをむく作業を効率化するなどの工夫を重ねる著者の姿に思わず声援を送りたくなる。
ウニが悪者にされる理由
著者は「ガンガゼ」と呼ばれる駆除対象のウニが海藻を食べている姿を見たことがなかった。それもあって、「磯焼けはウニだけが悪いのか」という疑問を持ち続ける。ウニは水槽のアクリル面や岩さえ削り取って食べ、磯焼けした岩場でも生き残るために悪者にされやすいようだ。場所によって事情は異なるが、著者がフィールドとする海の場合、先に海藻がなくなった後、残ったウニが海藻の芽を食べ尽くすために藻場が再生しにくいという事情が見えてくる。
著者は大学教授らの協力を得て、海底に海藻の苗を設置する活動も始める。しかし、魚による食害で海藻を食べつくされるなど悪戦苦闘は終わらない。そもそもの磯焼けの原因はまだよくわからないようだが、一度壊れた生態系を取り戻すのは想像以上に難しいようだ。
著者から学ぶべきなのは、何より、新たな挑戦と試行錯誤を繰り返す姿勢だろう。生き物の豊かな海を取り戻したいという思いから、著者はしつこくトライを続ける。失敗はたくさんするのだが、その失敗を次の挑戦に生かすことを楽しんでさえいるように見える。海の環境について考えると同時に元気をもらえる一冊だ。
2020年から情報工場エディター。08年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身
からの記事と詳細 ( ウニは本当に悪者か 「海の砂漠化」防ぐダイバーの挑戦|日経BizGate - 日本経済新聞 )
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