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Thursday, March 2, 2023

「あっ!」「わかった!」「できた!!」 自分で解き方を見つける ... - 朝日新聞EduA

(たかはま・まさのぶ)1993年に学習塾「花まる学習会」、1995年に進学塾部門「スクールFC」を設立。教育や子育てに関する著書を多数出版。講演活動にも意欲的に取り組んでいる。

(うめざき・たかよし)「花まる学習会」、「スクールFC」で、ハサミの使い方もまだ知らない年中の子どもたちから、難関校の受験を目指す小・中学生まで、幅広く指導している。著書に『思考力を鍛える算数脳サプリ』(朝日新聞出版)、『スゴイ!三角定規つき三角パズル』(エッセンシャル出版社)。

(ささき・けい)最難関校の受験対策ゼミである「スクールFC️」シグマコースの責任者で、算数を担当。 「花まる学習会」独自の教材「なぞぺー」の作成にも携わる。

(いっしき・きょうすけ)最難関校の受験対策ゼミである「スクールFC️」シグマコースで、算数を担当。高濱正伸代表が監修した『?に答える!小学算数』(学研プラス)の編集に関わった。

算数、数学のセンスがなくても、入試の数学は突破できる

花まる学習会 お茶の水教室にて
花まる学習会 お茶の水教室にて

――算数・数学は苦手意識を持つ子も多い教科ですが、算数を専門にしているみなさんは子どもの頃から算数が得意でしたか?

佐々木)いや、そうでもないんですよ。小、中、高と平均ぐらいの成績でした。高2の時に「ベクトル」の単元が全くわからなくて、「自分はこんなに数学ができなかったのか!」と愕然とした記憶があります。

梅崎)私も得意ではなかったですね……。子どもの頃はテレビゲームばかりやっていました。高校がスパルタだったので、そこで追い込まれてやっとやるしかない感じになったというか。

一色)私も、全然できませんでした。小3で九九も覚え切れていないレベルで、元教師の祖母に自宅で九九を教わっていたほどです。

――いつ頃から、何がきっかけで算数を好きになったのでしょうか。

一色)祖母のおかげで九九ができるようになった小4の頃に、兄の同級生が家に遊びにきたんです。その人は長尾健太郎さんといって、後に数学者になった方なんですけど、私に算数の話をたくさんしてくれました。正直、内容は難しくてよくわからなかったものの、「算数ってすごくかっこいい世界だな」と感じたことを今でも覚えています。それから自発的に算数の勉強をするようになって、中学受験をする頃には得意科目になっていました。

佐々木)私の場合は「ベクトル」でつまずいた時に、あまりにもわからないので一冊丸ごと「ベクトル」について解説した分厚い参考書を買ったのがきっかけです。基本から入試レベルまで段階を踏んだ説明がされていて、そこで初めて「こうやって理解していけば、積み上がるんだ」とわかったんです。同じやり方で「微分」「確率」と一単元ずつ弱点を潰していったら、学年で10位以内まで成績が上がり、数学も好きになっていました。

花まるでは教材開発にも携わっていますが、解説を簡略化したり、ページの都合で省略したりすることは絶対にしません。解説を手書きで書くこともあるくらい、わかりやすさにこだわっています。

高濱)教室でも繰り返し伝えていることだけど、「わからないところをわからないままにしない」のは基本だよね。

一色)「算数はセンス」と言われることもありますが、そんなことはないんです。私たちもそうであったように、算数は努力で必ずできるようになります。努力してできるようになる経験を通して自信をつけてほしいという思いで、子どもたちの指導にあたっています。

高濱)そうなんだよね。数学者や数学オリンピックを目指すのであれば、センスがあって、暇さえあれば数学をやっているようなタイプじゃないと難しい。でも、こと入試の数学に関しては、過去問もあるし、傾向もある程度はっきりしているから、ちゃんと準備してコツコツ逃げずにやり続ければ合格を勝ち取れるんだよね。

あとは、筋の良い先生につくこと。これが大事。私は街の不良をやっていた時期もあって三浪しているけれど、自分で「やるぞ!」と決めて必死で勉強したら、国語や英語はすぐに難なく点数が取れるようになったのに、数学だけは違った。全国模試で灘や開成の生徒が満点を取っているのを見て、「なんで満点が取れるんだ。俺なんかいつも時間が足りないのに……。これが天才との壁なのか」と思っていました。

ところが、いざ大学に入って全国模試一位の人に会ってみたら、全然普通の人だったんです。圧倒的に違ったのは、勉強の仕方。相手は入試用に研ぎ澄まされたやり方で、私は田舎仕立ての我流だった。中高で鍛えられているだけあって、運筆の速度なんか私の3倍くらいありましたからね。勉強の仕方を筋の良い先生から教わって、それを本人がやり抜けば、入試の数学は必ず突破できます。

見えないものが見えるようになる? 「算数脳」を伸ばせば、人生も変わる

――算数に苦手意識を持つ子どもたちが算数の能力を伸ばすには、何が必要ですか?

梅崎)私は算数の授業には笑いが必要だと考えています。「算数って面白い」と感じてもらうために、図形問題で補助線の引き方のヒントを出す時なんて、「今からヒントを全身で表現するから見てくれ! シュッとして……ドーン!!」と、黒板前で踊りながらやっています。すると、一番大人しそうな子がハッと気づいて、答えを言うこともあるんですよ。教室にいる全員を、いろいろな形で授業に参加させられるようにいつも心がけています。

超難題を前に、「こんなの解けないよ~!」と言おうものなら、すぐさま「確かに、これを解けるのは天才か変態しかいないね」と答えて、子どもたちが笑ったところで「そのどちらでもなければ、コツコツやろうよ」と声をかけてモチベーションを高めます。

梅崎隆義先生/「スクールFC」南浦和校 校舎長
梅崎隆義先生/「スクールFC」南浦和校 校舎長

高濱)笑いと算数はかなり相性が良いよね。実際、数学者や研究者は笑わせ上手な人ばかり。ユーモアセンスは、発明やひらめきにも繋がっています。算数ができる人の中にもいろいろなタイプがいて、平面図形に引く補助線がパッと浮かぶ、ひらめきが得意な梅崎先生のようなお笑い組タイプもいれば、将棋のような論理思考や集中力が鍛えられるボードゲームを子どもの頃から好んでいた佐々木先生のような詰める力があるタイプもいる。一色先生は、正統派のコツコツタイプだよね。

一色)中学生の時に、国際数学オリンピックで金メダルを取った同級生が「得意科目は英語です」と話しているのを聞いて、「数学じゃないの!? 世の中には天才っているんだな」と心をへし折られました。その時に、天才じゃないならなおのこと、自分はコツコツがんばろうって決めたんです。

高濱)「天才との壁って何なのか」は私も長年考えてきたんだけど、もう立体の感覚や空間の見え方からして違うんだよね。有名な数学者の先生たちにも聞いたんです。「どうして補助線が思い浮かぶんですか。線さえ引ければ僕にも解けるんだけど、その線がどうしても思い浮かばない」って。そしたら、「いやー、それはすぐに出るんだよね」とか言うんです。できない人には徹底的にできないのに、できる人にはパッと見えちゃう。この差を埋めるために作ったのが、考える力がつく算数脳パズル「なぞぺー」でした。花まるでは野外体験にも力を入れていますが、これも元々は「算数脳」を伸ばすために始めたんですよ。

――「算数脳」って何ですか?

高濱)発見力や空間認識力、試行錯誤力のような「見える力」と、意志力、要約力、論理性のような「詰める力」、そして「あそぶ力」を総称して私たちは「算数脳」と呼んでいます。補助線がパッと見えるような「見える力」のある人は、世界の見え方も私たちとは異なる。同じ事象を見ているのに、一言目に出てくる言葉からしてもう全然違うわけです。世の中の課題、相手の気持ち、話の要点、問題の本質、新しいアイデア。こうした「見えないもの」がどう見えるかで人生は変わってくるので、「算数脳」がなければ毎日毎日見え方で差がつき続けます。

佐々木)「算数脳」は、人生のあらゆる局面で必要になってきます。補助線がパッと見えない子の中でも、試行錯誤してなんとか見つけようとする子と、何もせずおしまいにしてしまう子に分かれるんですけれど、それって、困った時にそれでも何とかしようと一歩踏み出せるか、それともただ立ち止まってしまうのかの分かれ道ですよね。

見えないものを、どうやって見えるようにするか。センスでパッと見つけても、試行錯誤の末に見つけても、補助線を見つけられたという事実は同じです。先生に質問するというのも立派な一歩ですし、こうした一歩を踏み出せるように、「算数脳」をできるだけ伸ばしてあげたいと考えています。

「算数脳」の土台になるのは、自己肯定感

高濱正伸さん/花まるグループ代表
高濱正伸さん/花まるグループ代表

――算数、数学を学ぶ上で一番大切なことは何でしょうか。

高濱)自己肯定感ですね。自己肯定感は「算数脳」の土台です。自己肯定感のある子は、わからないままにしておくのが嫌だから何とかしようと手を動かします。 一方、自己肯定感が欠如している子は「もういいや、早く終わらねぇかな」なんて思いながら白紙でおしまいにしてしまう。「何をしてもどうせ俺の人生変わらない」みたいな、ネガティブ思考のクセがついているんです。

そういうクセは、大人の言葉が原因であることが多いです。「何でできないの」「バカじゃないの」「お兄ちゃんはできたのに」。言葉で潰されてしまうんですね。私は、自己肯定感を高めるのが花まる学習会の存在意義だと考えているので、例えば中1で完全に自信をなくしている子がいたら、「君はできないって思い込んでいるだけだよ」「人と比較せず、自分の『できた!』を大事にしよう」「わからないところをそのままにせずに、やるべきことをコツコツやれば絶対に伸びるんだよ」と、メンターとして言い聞かせるところから始めます。

佐々木)「なぞペー」に目を輝かせるような自己肯定感のある子の親御さんと面談すると、その子の興味関心を大切にしてあげているんですよね。そういう子は、算数が好きすぎて他の教科はやらないとかで4教科の学力が中学受験までに揃わないこともあるのですが、自分の頭で真剣に考える力はすでに身についているので、たとえ中学受験で第一志望校に届かなかったとしても、長期的には心配はいらないんです。中学、高校以降、自分でちゃんと実力を伸ばしていけるから。

親御さんは「低学年のうちから受験勉強させるべきか」のような一部の偏った情報に振り回されるのではなく、「自分の子どもを軸に考えること」を大切にしてほしいです。「(親・世間の)理想」からの減点法で「あれもできてない、これもできてない」と考えるのではなく、「今日できたこと」に注目して褒めてあげてほしいですね。子どもの歩くスピードで一緒に横を歩くようなイメージで、親が焦らずに子どもを見守ってあげている家庭は上手くいっている印象があります。

一色)花まるでは子どもたちへの声かけを積極的に行っていますが、褒める、認める声かけは子どもたちの心の栄養になると実感しています。

梅崎)できた瞬間に認めて、褒めてくれる人がそばにいるのは大切ですよね。

高濱)褒めるって、教育の世界でも実は一番難しいことなんです。その子が何かを達成した瞬間を見逃さず、子ども自身も手応えを感じているタイミングで声をかけて初めて意味のあるものになるから。的を外した褒め方では全く響きません。

一色)問題を解いていてゴールが見えた瞬間、これが算数を勉強していて面白いと感じる部分だと思うのですが、例えるなら、サッカーゴールの目の前にボールを置いてあげて、もう少し触れば入るみたいな状況でゴールしたとしても、子どもたちは嬉しいんですよね。ゴールを決められたという経験ができますから。そこからボールを少しずつ遠くに置いていくような感覚で、答えに至るヒントを減らしていく。すると自分で考えていくのって楽しいなという感覚が培われてきて、最終的には自分で解きたくてしょうがないとなっていく。私が何かヒントを出そうとしても「ヒントは言わないで!」って。そう導いてあげることが大事なのかなと。

一色恭介先生/「スクールFC」石神井校 吉祥寺校 校舎長、算数科教科長
一色恭介先生/「スクールFC」石神井校 吉祥寺校 校舎長、算数科教科長

大人から見ると、もう答えを教えているようなものじゃん、というところからのスタートで良いと思っています。だんだん子どもたちが楽しさを覚えたり、「これってこういうことは成り立ちますか?」と質問してきたりして、算数の世界に足を踏み入れていく。その頃にはみんな算数が好き、得意という意識に変わっています。

高濱)「あっ!」「わかった!」「ゴールが見えた!」って経験の総量が「算数脳」を育てるよね。「なぞペー」にも、「できた!」が味わえる問題がたくさんあります。

梅崎)「算数って面白い!」と本人が気づけると、勉強ももっと楽しくなると思うんです。生活の中で算数が道具として活躍するシーンはいっぱいあります。ラーメン屋さんの行列を見て、「行列の長さは何メートル、人と人との距離は何センチメートル、食べる時間はだいたい何分。すると待ち時間は何分くらいかな」と考えられる方が、「何分待つんだよ~」ってただ文句を言うより楽しいですよね。

#コラム1 人間の能力をどうやって伸ばすかに注目

受験対策といえば、とにかく過去問を解きまくる「物量作戦」が主流で、子どもたちは問題を早く正確に解けるよう求められてきました。そんな中、花まる学習会が注目したのが、「算数脳」。「図形問題で補助線が思い浮かぶ、浮かばないの能力の差を埋めることこそが、本当のニーズだと感じたんです」(高濱さん)。試験をどう攻略するか、ではなく、「センス」で片付けられていた部分をどう伸ばすかに注目したのが花まる学習会ならではの着眼点で、「算数脳」を伸ばすことは「自己肯定感」や「人間力」を大切にする指導方針とも繋がっています。

自分の頭で考えている子どもの様子をよく観察する

――子どもの「自己肯定感」を高め、「算数脳」を伸ばすために、親が注意すべきことがあれば教えてください。

高濱)「人目」「比較」「コンプレックス」「やらされ」。この四つが子どもの自己肯定感を下げて不幸を生むBIG4なので、人目を気にして子どもにあれこれ言わない、他人と比較しない、コンプレックスを抱かせない、やらされていると感じさせない、というのは大前提です。あと、親は基本的に思考力を問う問題は教えない方がいい。文章問題なんか特にそうで、つい先回りして「ここに答えが書いてあるじゃない」なんてやりがちですが、それだとマルを取りに行くだけの子どもになってしまう。考えて考えて、ゴールが見えた瞬間の快感を親が奪ってしまうと、子どもが自発的に算数をやりたいと思う気持ちが育ちません。

佐々木)教室には、将来大人になった時に私よりも遥かに頭が良くなるんだろうなっていう子がいっぱいいます。この視点は親御さんも持っていた方が良いと思っていて、「この子は自分よりも遥か上を行くかも」という目線で我が子を見るようにすると、接し方は変わると思います。

佐々木慧先生/「スクール FC」シグマコース責任者
佐々木慧先生/「スクール FC」シグマコース責任者

私の授業では、自分の頭で考えさせること、そして問題を解く様子をよく観察することを意識しているのですが、思考力がある子が試行錯誤しながら解いている一方で、思考が止まってマルを取りに行くことだけが目的になっている子は、解説を見て、その式に使われている数字を変えて……みたいなやり方をします。答え当てゲームみたいになってしまっているんです。その構造は変えてあげたいので、「算数はクイズじゃなくて、答えはおまけだよ」と伝えています。「算数脳」を育てると、思考の過程が楽しめるようになるので。

高濱)自分なりの図を描いていろいろ試すよね、思考力のある子は。

佐々木)10人いたらそれぞれ問題を解く力が違うので、一人ひとりを観察して、手が止まっている子はその子ができるところまで一旦ステージを下げて、「これならできる!」という段階からちょっとずつ自信を積み上げていきます。その子なりにそのステージを乗り越えると、「やったぁ! できた!」ってすごく嬉しそうにするんですよね。

一色)私は全員参加型の授業にすることを心がけています。小5で習う「ニュートン算」の単元は鬼門の一つだと思っているのですが、「わからない」「もう無理」と思考停止してしまう子には、「先生が書いた式は何を求めるための式?」「どうやって解いていったらいい?」と質問をして、その子の考えを言語化してもらうことで思考停止時間がなるべくゼロになるように工夫しています。なので、授業で子どもの名前を呼ぶことがすごく多いですね。ちょっと止まっているなという子がいたら「じゃあ次は誰々答えてみようか」と。

梅崎)その子の頭の中を私が実況中継風に言語化することもあります。「お、始まりました。計算を始めました」といった具合ですね。テストのコメントにしても、その子を見ているよ、認めているよというメッセージが伝わるように書いています。解答としてはバツでも、問題用紙の書き込みを見て、「ここはできていたね」「いっぱい考えて、いっぱい書いたね」と、その子の思考の過程を見落とさないことが大切なんですよね。

#コラム2 「別解」大歓迎! 自分の考えを積極的に発言できる教室

子どもの探究心を育てる重要なキーワードが、一つの解答に対してさまざまなアプローチをする「別解」。「スクールFC」の教室では、子どもたちの自由な意見が飛び交います。

「例えば、回転体の体積を求める問題が出てきた時。一般的な解き方を解説していると、『等積変形の考え方で解けるんじゃない?』と黒板に書きながら説明し始めた子がいました。そんな時は『入試でこの解き方は必要ないから』で終わりにするのではなく、『すごく面白い考えだね!』と認めています」(佐々木さん)。どんな考えでも否定されない、受け入れてもらえる雰囲気が、子どもたちの考える力や、自力で答えを見つける力を伸ばします。

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