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Wednesday, April 27, 2022

秋田市の道ばたで働く「水飲み鳥」ならぬ「原油飲み鳥」…日本一誇った油田、今もくみ上げ - 読売新聞オンライン

 「水飲み鳥」というおもちゃをご存じだろうか。コップに入った水を、鳥が振り子のように体を揺らしてくちばしで飲み続けるという不思議なおもちゃだ。私もはるか子供の頃に、延々と動き続ける様子を見ていた記憶がある。

 その「水飲み鳥」のようなものが、秋田市の市街地にさしかかる道ばたにあることに気がついた。横を歩く人と比べても、かなり大きくて、もちろん、おもちゃではない。しかも気をつけて見ると、一つではなくいくつも点在している。

 ネットで検索してみると、 八橋(やばせ) 油田という現役の油田が広がっていて、水飲み鳥は原油をくみ上げるポンプだとわかった。どんな様子なのだろうと、地図を片手にいくつか見学することにした。

 まずは、秋田市山王の読売新聞秋田支局からも近い八橋地区へ向かう。ちょうど満開を迎えた川沿いのサクラ並木を歩くのは心地よい。多くの人たちが散歩を楽しんでいた。すると並木沿いのフェンスに囲まれた草地にポンプがあった。静かな住宅街の一角だ。休んでいるようで、動きはなかった。

 並木のある川の名前は「 草生津(くそうづ) 川」という。古くに石油を指していた「 臭水(くそうず) 」という言葉が由来らしい。秋田藩家老の日記にも17世紀の初頭には油が売られていた記録があるので、歴史は古い。付近の小さな公園には、現役を引退したポンプが展示されていて見学することもできる。

 八橋地区から北へ、少し足を延ばして、草生津川の上流にあたる外旭川地区へ向かった。こちらの秋田市中央卸売市場近くには、「日本一 大油田発祥の地」という立派な石碑が残されている。碑文には「八橋油田の起源は明治初期にさかのぼり、多くの先覚者たちが、(中略)活躍された結果生まれた日本一の大油田であり、(中略)昭和21年より昭和36年において全盛期を誇った」とある。「国産原油総生産量の90%まで生産され」ともあり、戦後の秋田経済に大きな貢献をした自負が感じられた。残念ながら、石碑が建てられた1996年のずっと後、2020年度に累計生産量は「岩船沖油ガス田」(新潟県胎内市沖)に首位を譲ったらしい。

 外旭川地区には多数の油井が残っていて、幹線道路から見えるものも多い。あるものは交差点の角や住宅街に、あるものは農地の中にポツンとあったりする。実際に動いている姿を見られたのは、こちらだった。音もなくというわけではないが、周囲の音に紛れるようにモーター音が聞こえてくる。水飲み鳥を思わせるユーモラスな動きについ見入ってしまった。

 油田の現状について、運営するINPEX(旧・国際石油開発帝石)の小林豊マネージャーに聞いた。これまでに掘られた井戸は1240本に上る。今も現役でくみ上げられている井戸は20本に減った。1日にとれる原油は、およそ25キロリットルで、年間原油生産量(令和2年度)は9118キロリットル。最盛期に年間25万キロリットルを誇った面影はなく、日本の石油消費量と比べても微々たる量だ。それでも、「原油に混じって産出した水分の浄化や、AIによる運転の最適化技術の開発など、新たな役割も担っています。そのためにも、永く採り続けていきたい」という。

 改めて、住宅街の一角のポンプを訪れた。「原油飲み鳥」が、けなげに原油をくみ上げ続ける姿に、秋田が積み上げてきた歴史の移り変わりに思いを巡らせた。

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