2024.03.13
東日本壊滅はなぜ免れたのか? 取材期間13年、のべ1500人以上の関係者取材で浮かび上がった衝撃的な事故の真相。他の追随を許さない圧倒的な情報量と貴重な写真資料を収録した、単行本『福島第一原発事故の「真実」』は、2022年「科学ジャーナリスト大賞」受賞するなど、各種メディアで高く評価された。今回、その文庫化にあたって、収録内容を一部抜粋して紹介する。
消防注水の開始
電源復旧とベント作業。事故対応の行方を左右する重要なミッションの裏で、吉田はもう一つ大切な作業の指揮をとっていた。消防注水だった。12日午前2時すぎ、免震棟は、原子炉を冷やすために消防車による注水作業に乗り出した。消防車のホースをタービン建屋の送水口に接続すれば、消防車から注ぎ込まれた水は、一本道となった水のラインを通って、原子炉へと送り込まれるはずだった。
しかし、ここでも作業は難航した。そもそも免震棟には、配備されていた消防車の運転操作ができるものが誰もいなかった。消防隊は、消防車を運用していた協力会社の南明興産(現・ネクセライズ)に頼み込み、消防車を操作してほしいと求めたのである。南明興産にとっては、高い放射線量の中で社員に消防車を操作させるのは危険であり、委託業務からはずれる作業だったが、非常事態だけに、求めに応じた。
午前2時45分。復旧班が1号機の中央制御室に車のバッテリー2台を直列で結んだ急ごしらえの24ボルトバッテリーを持ち込み、原子炉圧力計を復活させた。
圧力計を見ると、およそ8気圧だった。原子炉圧力は11日午後8時台は69気圧だった。原子炉圧力を下げる措置は何もしていなかった。いつの間にか、69気圧が8気圧へと大幅に下がっていたのである。吉田は首をひねった。
なぜ、圧力が急激にここまで下がっているのか。吉田は、炉主任と呼ばれる原子炉物理学などの専門資格を持つ原子炉主任技術者や原子炉の解析を担当する技術班の幹部と議論した。しかし、専門家であるはずの彼らも燃料が破損している可能性を指摘するものの原子炉圧力がここまで急に下がった理由を説明できなかった。不可解であったが、圧力が8気圧にまで下がっていれば、10気圧程度ある消防車のポンプで原子炉注水はなんとかできる。吉田は議論していても仕方がないと考え、とにかく作業を進めることにした。
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