そのクリニックの、書斎のような診察室に入るといつも微かなオレンジ系の香りがすることに、通いはじめて何度目かにやっと気づいた。おそらく調子が悪すぎた時には香りに気づくだけの感覚の糊代すらなかったんだろう。
気づいてみれば、その香りひとつで、気持ちがスッと安らぎ、落ち着くのがわかる。香りは不思議だ。
思い返すと、三人の娘のうち二人を産んだ助産院の洗面所にも、ある種のアロマが焚かれていて、トイレを使うたびにスッと落ち着く感じが慕わしいと思っていた。同じ種類の香りをその後も出先で何度か感じ、その都度、実家に帰ったような安心感があった。
そのような筆者がほっとする香りにはだいたいパターンがあり、主にはヒノキやヒバの香りに柑橘の気配が混じったものであるようだった。と、自覚してからさらに数年経ってようやく気がついた。
つまりは、子供の頃にはまだあった、親の実家、古い日本家屋の中でみかんを食べている時の匂いの記憶に反応しているのだった。
それは不意だから良く、新鮮だから感じやすい。
香りの難しいところだ。私たちの嗅覚には順応性があって、長時間嗅いでいるとすぐに慣れて匂いを感じなくなってしまう。
「AROMAFUN hour」は1時間に一度だけ、自動的に香りを漂わせる、これまで使ったことのなかったしくみのアロマディフューザーである。
おかげで新鮮さが維持される。しかもエッセンシャルオイルを都度滴下する必要もなく、市販のエッセンシャルオイルのボトル(5~10mlサイズのガラス瓶)1本丸ごと本体に預けられてしまう。
これだけで、1時間に一度1分間ずつ放香して、1カ月も保つ。なんというずぼら向き……。
エッセンシャルオイルを扱う、アロマテラピーを趣味とする、そんなあり方に付随する「こまめ・ていねい」なイメージを塗り替える、お手軽さだ。
「いつ」香りが漂っているかは、ゆらゆらと炎のように揺らめく灯りが知らせてくれるというのも、洒落ている。
筆者好みの「ヒノキ」や「ヒバ」「モミ」に「オレンジ」や「グレープフルーツ」などが混じったような香りというのは、生活の木やMUJIなどでもブレンドオイルが市販されているくらいに人気のある香りのようで、すでに混じった状態でボトルをセット可能な点もありがたい。
ただし、製品に使用できるのは植物抽出の、精油100%、エッセンシャルオイルのみだ。「アロマオイル」などと表記してあっても100円ショップなどにある界面活性剤を主成分とした製品は使用できないので、くれぐれも注意されたし。
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