コロナ5類となった2023年は、12月27日ごろから東名高速道路の帰省ラッシュが始まりました。「やっぱり故郷のまちはいいなあ」とリラックスする人も多いことと思います。

では「いま住んでいるまちの好きなところは?」聞かれたら何を思い浮かべますか?


家族や友人、ご近所さんの顔を思い出す人もいれば、お気に入りの場所や海や山などの自然のある風景に想いを馳せたり、アクセスの良さや利便性の高さにメリットを感じたり、自治体の取り組みに賛同していたり、「自分にとって心地いいまち」の基準は人それぞれ。昨今、働き方や学び方などが多種多様になったことで、自分が住むまちの良さ・悪さを再認識している人も多いのではないでしょうか。

そんな「自分が住みたいまち」を選ぶヒントに溢れているのが、日本全国、北から南まで約40の市町村を取り上げたFRaU1月号です。

本号は「私が住みたい、まち」をテーマに、全国から人が集まる注目のまちや、移住者が年々増えているまちの魅力、居心地のいいまちづくりを目指す人などを特集。実際に住んでよかった、移住して知った実体験をもとに、多くの人がどのように「住みたいまち」を選んだのか、いま自治体として「住みやすいまち」に力を入れているのはどこかなど実際に足を運び、勢力取材しています。

年末年始は、旅行やお出かけで訪れる観光地、帰省先の馴染みある故郷など、さまざまな都市や地域に触れるタイミング。「自分にとって居心地が良いまち」を改めて考える一冊、その誕生の背景を本号のエディターチーフ・熱田千鶴が綴りました。

あなたが住みたいまちは、どんなまち? 

SDGsのゴールNo.11に「住み続けられるまちづくりを」というテーマがあります。世界の課題となっているのは、発展途上国のスラム問題をはじめ、気候変動対策として災害に強い建物を作ったり、安価で安心な交通手段のインフラを整えたり、大気汚染やごみ処理に対処したりといった「まちづくり」を主な目標にしています。さて、比較的インフラも整っていて、不自由なく暮らせる日本のまち(特に都心部)は、幸い発展途上国のような課題はありませんが、発展しているからといって誰にとっても暮らしやすいまちか、というのはちょっと違うような気もしています。

よくいろいろなメディアで紹介している「住みたいまちランキング」。アクセスがいい、子育てしやすい、買い物に困らない、知名度があるなど、なんとなく物理的な便利さが注目されがちですが、一人ひとりの住みたい場所や理想の暮らしを考えたら、その理由や住みたいまちはもっと多岐にわたるはずです。むしろランキングに入らないけど、自分にとっては最高の場所という背景には、風通しのよさや空気のおいしさ、人とのつながりなど、目に見えない何かがあるんじゃないかなと、そんな思いで持続可能な「まちづくり」を考えてみようとFRaU1月号で特集しました。

特にここ最近、じわじわと増えてきた地方移住二拠点生活、私の周辺にも同業の編集者やデザイナー、イラストレーターから「引越しします!」というお知らせが増えました。昨今のコロナ禍で進んだリモートワークは、日本で根付くのは難しいと言われていましたが、半ば強制的に出社できない状況がもたらした不幸中の幸いの一つだと思います。

週5日、朝から晩まで会社にいなくてもいい、決められた場所でなくても業務ができることを証明できた私たちは、この3年ほどの間に新たな働き方や暮らし方の選択肢がぐっと増えました。どんな場所でも仕事ができるなら、住みたいまちに拠点を移そうと考えるのは自然なことで、仕事は変えられないけど暮らしを変えたい、そんな思いを持った人たちがより現実的に実現可能になった田舎暮らしや多拠点生活を求めるようになっていったのだと思います。

人が集まる注目のまち、その魅力とは?

ほんの一部ですが、住みたいまち探しの参考になる地域と、ぜひ知ってもらいたい特徴を紹介。

illustration:YUKO SAEKI

北海道余市
エコビレッジを創設し、「食料自給」「エネルギー」「経済」「コミュニティ形成」など持続可能な村づくりを実践中。

秋田県秋田市
空き店舗が目立つエリアで、まずは酒場をリノベーション。徐々に店や人が集まり、気がつけば人気スポットに。

長野県諏訪市
古材や古道具を扱う〈ReBuilding Center JAPAN〉が手がける開業支援で、地元に個性的な新店が続々オープン。

長野県南佐久郡
自然に囲まれた場所とユニークな教育を求める家族に。森を活動拠点とする園で子どもたちの生きる力を育んでいます。

千葉県いすみ市
ローカルで起業したい!そんな起業希望者と、サポートを希望するまちの人を結ぶ、画期的なプロジェクトを実行。

東京都渋谷区
老若男女、さまざまな人が集まるまちだからこそ、“ちがい”をを尊重。国内で先端をいくダイバーシティタウン。

大阪府大東市
市営住宅の建て替えをエリアから再開発。結果、住宅、公園、商業施設がうまく共存する暮らしやすいまちに進化。

山口県長門市
衰退に傾いた温泉街を、行政、民間企業、専門家、市民を巻き込んで地域再生。観光客も移住者も増えた注目のまち。

徳島県海部郡美波町
IT企業のサテライトオフィスが多くある強みを活かして企業と連携。地域の森の保全や林業、水産業を強化しています。

和歌山県白浜町
“ワーケーション”の先駆けタウンでは、コワーキングスペースなどがさらに拡大。海を見ながらの仕事を叶えてくれます。

長崎県波佐見町
廃業した製陶所をリノベーション。広大な敷地に波佐見焼ショップやボルダリングスタジオなど文化発信の場になっています。

まち選びは自分の心の声に従うことが大切

「まち」紹介は、2部構成で「さがす」と「つくる」。まずは、自分が求めている暮らしができそうなまちを探してみる。いろんなニーズにあったまちを探せるよう、いろいろな角度から紹介しています。それがなければ自分で作ってみる。これは同様の思いからまちを作ってきた人たちにも話を聞いています。

サイドビジネスの「副業」ではなく、マルチワークの「複業」に力を入れる隠岐諸島の海士町。「アムワーク」という複業スタイルは自己実現のための新しい働き方。小さな島に多くの若者がやってくる。

まちの特徴は、例えば、環境問題に取り組んでいる、移住者も受け入れてもらいやすい、山や海との自然が近い、ダイバーシティを大切にしている、自給自足や農的な暮らしができる、アートに囲まれている、移住しても仕事の需要がある、教育がユニーク、福祉が充実している……など。場所も日本全国、北から南まで。特にフィーチャーしたのは北海道の美瑛町、隠岐諸島の海士町、広島の尾道、徳島の神山町などなど。そして海外はフィンランドのまちづくりも紹介しています。 

海と山の距離が近く、風光明媚な風景が広がる広島県の尾道。この独特の景色を守るため、建築家の長坂常さんは譲り受けた築約110年の家を世界中のクリエイターが集まるアート&文化交流の場に。

他人が感じる心地よさは、必ずしも自分が求めている心地よさには当てはまりません。働く場所や勤務スタイルが選べる会社も増えていますし、独立する人も増えている。かつてのような物理的なしがらみから緩やかに解放されつつあるいま、自分が本当に住みたいまちを考えられる時なのではないかと思っています。ちなみに、必ずしも移住や拠点を多く持つことばかりが正解だとは思っていません。かくいう私は東京が大好き。今住んでいるまちがとても好きで、このまま住み続けたいし、このまちを大切にしたい、まちのために何かしたい、そんな思いも芽生えています。

まちは人々の暮らしの土台となるもので、その土地で自分が望んだ生活ができることはすなわち、まちも暮らしも人も「持続可能であること」につながります。そんなサステナブルなまち選びには、他者の意見ではなく、自分の心の声に従うことが何より大切なことでもあるので、主体性を持って「私が住みたいまち」をぜひ見つけてもらえたらいいなと思います。

まち全体が学びのキャンパスとなっている徳島県神山町。第一線の起業家を育てる『神山まるごと高専』から、豊かな自然環境を生かしたオルタナティブスクールまで、ここにしかないユニークな教育が魅力。

Text:Chizuru Atsuta(SDGs Issue Editor in Chief)

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