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Wednesday, July 26, 2023

「チバニアン」を生きた古生物 県立中央博物館で企画展 - nhk.or.jp

77万年前から12万年あまり前にかけての地質学上の時代「チバニアン」。「千葉」にちなんで名付けられたこの時代の千葉県には、ゾウやサイ、超大型のトドなど、いまからは想像できない大型の動物たちが暮らしていました。どうして千葉県にこんな動物がいたのでしょうか。

(千葉放送局記者 大岡靖幸)

その疑問に答えてくれるのが、千葉県立中央博物館(千葉市)で7月から始まった企画展「よみがえるチバニアン期の古生物」です。

千葉をかっ歩していた大型動物たち

チバニアン期にいた3種類のゾウ

主な展示物を紹介しましょう。まず目を引くのはゾウの展示です。チバニアン期にはいまの千葉県周辺に3種類のゾウが生息していました。いずれも絶滅したゾウで、生息時期が古い順に「ムカシマンモス」、「トウヨウゾウ」、そして「ナウマンゾウ」となっています。なかでも1966年にいまの印西市で発掘されたナウマンゾウは、全身の骨の化石が見つかり、日本で初めて全身骨格のレプリカで復元されました。会場にはこの全身骨格のほか、下あごや脊椎などの化石の実物が展示されています。

メルクサイの復元模型と骨格標本(レプリカ)

絶滅したサイの化石や復元模型、全身骨格のレプリカも展示されています。復元模型は栃木県で発見された化石を元にしていて、まだ若い個体のため角が成長しておらず、短いままとなっています。チバニアン期にいたサイはこれまで、日本の固有種の「ニッポンサイ」とされてきましたが、その後の研究でユーラシア大陸にいた「メルクサイ」と同じ種類だとわかったということです。

ヤベオオツノジカの展示

このほか、シカの仲間も「カズサジカ」や「ニホンムカシジカ」など複数の種類の化石が展示されています。なかでも「ヤベオオツノジカ」は、手のひら状に広がった大きな角を持った大型のシカで、チバニアンの中期に現れ、およそ1万5000年前に絶滅したということです。

それにしても、なぜ千葉県にこうした大型の動物が生息していたのでしょうか。それには、チバニアンの「気候」が関係しています。

チバニアン期は「激変の時代」

市原市の「チバニアン」の地層

チバニアン期は、77万4000年前から12万9000年前までのおよそ65万年を指します。「千葉の時代」という意味です。2020年1月、市原市の養老川沿いにあるおよそ77万年前の地層が、地質学の基準である「国際標準地」に日本で初めて登録され、千葉県にちなんで「チバニアン」と命名されました。この時期の地層は全国各地に存在していますが、その多くは地面の下に埋まっていて見えません。ところが千葉県では、この地層が地面に露出していたり、がけの断面として見えたりする場所が多くあり、当時の動植物の化石もよく見つかるということです。

チバニアン期の陸上の景観復元図

展示を企画した研究員の丸山啓志さんによりますと、出土する植物の化石などから、チバニアン期の気候は現在と比べ全体として寒く、長く厳しい寒冷期と短い温暖期が繰り返す「激変の時代」だったということです。

海面は気候が寒冷化すると下がり、逆に温かくなると上がります。寒冷期と温暖期が繰り返したチバニアン期の海面は、高低差が130メートルにもなったということです。

この気候変動の結果、寒冷期には海面が大きく下がって日本列島はユーラシア大陸と陸続きになりました。それによって大陸に生息していたゾウやサイ、シカなどが何回にもわたって日本列島に移動してきたと考えられています。

チバニアン期の海の景観復元図

巨大な海の生物も

チバニアン期は陸だけでなく、海の環境も変動しました。海面が上下することで陸地の形が変わり、海岸線が大きく変化。暖流や寒流の流れも変わり、暖かい海域と冷たい海域が繰り返し入れ替わっていたと考えられています。こうした環境のなか、千葉県近海にも陸と同様、現在では見られない生物が生息していました。

オオキトドの復元図と発見者の大木淳一博士

その代表的な存在が「オオキトド」という巨大なトドです。見つかった化石は下あごの一部だけですが、その大きさから体長は5メートルを超えていたと推定され、世界最大級のトドと考えられています。アシカやアザラシ、セイウチなどの「き脚類」全体としても北半球最大だったということです。このオオキトド、市原市の養老渓谷の支流でカエルの調査に訪れていた千葉県立中央博物館の大木淳一博士が、足元に転がっていた石を見つけて化石だと直感し、世界で初めて発見したことから、博士の名前にちなんで名付けられました。

千葉県のチバニアン期の地層からはこのほかにも、さまざまな貝や海鳥(うみどり)、それにクジラの仲間などの化石が見つかっています。

トウキョウホタテ

貝の中でもユニークなのは「トウキョウホタテ」。成長すると人の顔ほどの大きさになる大きなホタテです。味わってみたいところですが、すでに絶滅しています。

また海鳥では、「マンカラ」という絶滅した鳥の化石も発見されています。この鳥は空は飛べず、翼を使って海中を泳ぐ鳥で、見た目はペンギンとよく似ていますが、実際にはペンギンとは全く違う種類だということです。

印西市で見つかったザトウクジラの頭部の化石

クジラの骨も見つかっています。君津市のおよそ70万年前の地層からはザトウクジラの仲間の骨の化石が1頭分まとまって発掘されたのをはじめ、印西市や柏市では、チバニアン期の次の時代である「後期更新世」の地層から、現在生息しているのと同じザトウクジラの骨が見つかっています。

展示を企画した研究員 丸山啓志さん
「まず『チバニアン期』というのは市原市の地層の名前ではなく、ある時代の名称であることを知ってもらいたいと思います。そのうえで、その時代にどんな生き物がどう暮らしていたのかや、どんな世界が広がっていたのかを体感してもらいたいです」

この特別展は千葉市中央区の千葉県立中央博物館で、9月18日まで開かれています。(月曜日は休館日ですが、8月7日と14日は開館)

取材後記

「チバニアン期」に、これほど多様な生物がいたということがまず驚きでした。それまで「チバニアン」といえば市原市のあの地層しか連想できませんでしたが、今回の企画展を通して、ゾウやサイがかっ歩し、巨大なトドが泳いでいた時代がリアルに想像できるようになりました。この時代は、46億年の地球の歴史全体から見れば極めて最近のことですが、大きな気候変動が何度も繰り返し、そのたびにさまざまな動物が隆盛しては絶滅した時代でした。

3年前に「チバニアン」を選出した国際的な学術団体、「国際地質科学連合」の作業部会ではいま、人類の繁栄した時代を新たに「人新世(じんしんせい)」として地質学上の区分に加えようとしています。人間活動に伴う気候変動が問題となっている今、未来の世代から「人類が大量絶滅を引き起こした時代」と呼ばれることがないようにしたいと思ってしまいました。

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