あのクルマに乗りたい! 話題のクルマ試乗レポ 第342回
2023年06月24日 15時00分更新
中型自動車運転免許(8トン限定)しか持たない私にとって、運転経験のある大きなクルマといえば、ラージクラスのSUVやセダンくらいなもの。しかし今回の相手は、その枠を大きく超える巨大なトラック。クローズドコースで実現した、UDトラックスの最新モデル「クオンGW」の試乗レポをお届けしたい。
いすゞとの共同開発第一弾
スケールの違いに圧倒されるトラック
試乗できたのは、UDトラックスの最新モデル「クオンGW」。簡単に説明をすると、クオンはUDトラックスの大型トラックの車名。続く「GW」が仕様を表す。GWは、トレーラーの牽引に使われる6輪トラック仕様となり、後方の4輪が駆動される「6×4」のトラクター(牽引車)なのだ。そのスペックだけみても、乗用車とはケタ違い。普通の大型乗用車が全長5m台なのに対して、クオンGWは全長約7mもある。具体的なボディーサイズは、全長6915×全幅2490×全高3375となるが、さらに荷台となるトレーラーの長さが加わって、全長は16mを超える。
重量物を運ぶ能力が求められるだけに、エンジンも強靭。なんと13L直列6気筒ターボという大排気量のディーゼルエンジンを搭載している。ちなみに、最新の乗用車は大型車でも2~3Lがメイン。展示されたエンジンのサイズにも圧倒されるが、性能も驚異的で、最高出力530ps(390kW)/1431~1700rpm、最大トルク2601Nm/990~1431rpmを発揮。最大トルクが4ケタなんて、乗用車ではまず考えられないことだ。
そんなクオンは、運転席に乗り込むのもひと仕事である。なんとシートの座面は、170cmちょっとある私の身長よりも高い。床面にたどり着くまでに、2つのステップを登っていく必要があり、ドア周囲にはしっかりとした手すりも備わっているほど。ようやく収まったコクピットからの眺めは、ちょっとした展望台気分だ。
運転席周りには、乗用車同様にメーターパネル、エアコン、CDラジオなど見慣れた車載機能が備わっているが、スイッチ類も多く、まさにプロの仕事場という雰囲気が満点。乗車定員が2名なのと車幅があるため、室内はかなりゆったり。シートの後部は、ベッドスペースとなっており、ドライバーの休憩や仮眠などに使われる。運転席のシートにも、エアサスペンションが組み込まれており、乗り心地が調整できるなど、長距離運転を快適にする工夫も施されている。
運転方法は基本的には乗用車と同じ。クオンのトランスミッションは、12段の自動変速マニュアルミッション「ESCOT-VII」だが、シフトレバーはオートマ式。なので、D(ドライブ)ポジションをセレクトし、サイドブレーキを解除すれば発進できる。
約30tを運転する大変さを思い知る
今回の試乗では、本体だけでも約9tもある車重に加え、さらに牽引するトレーラーに載る20tの荷物を運ぶというシチュエーションだった。順調な発進ができるのか不安を抱きつつ、アクセルペダルを踏む込むと、クオンは何事もないようにスルスルと動き出し、加速をしていく。変速はスムーズで、エンジンも軽やか。あっという間に、コースの指定速度である60km/hになった。正直、あまりにも簡単な運転できたことに拍子抜けしたほど。
2車線の舗装路を駆け抜けるクオン。トラックのため、ステアリングのサイズが大きく、前に倒れているので、車線変更やカーブでは、乗用車とは少し勝手が違うものの、基本的にはクルマと変わりないという意識でいた。あの一言を聞くまでは……。
順調なドライブを行っている途中、サポート役として同乗してくれていたUDトラックスの担当者に「後ろに20tの荷物を積んだトレーラーをけん引しているとは思えないでしょう」と話しかけられた。その瞬間、その事実が怖くなったのだ。何しろ、長いトレーラーと荷物の様子は、ドアミラーとルームミラーでしか確認できないのだから。
しかし、同時にクオンの技術のすごさも噛みしめていた。クオンには「UDアクティブステアリング」と呼ぶ電動アシスト付油圧式パワーステアリングが備わっている。1秒間に約2000回もの頻度でセンサーが情報を収集し、電子制御ユニットが最適なステアリングアシストを実施。低速での軽やかなステアリングフィールや高速域での直進安定性の確保を行なうので、横風の影響の低減も図る。さらに未舗装路では、路面の凹凸を自動補正することで、不快な車体の揺れやステアリングの振動を軽減してくれる。
だからこそトラック初心者の私でも、安心してステアリング操作ができたというワケなのだ。また駐車時は、ステアリングのセンタリングもアシストしてくれるので、ドライバーが必死にステアリングを戻す必要もない。このようなドライバーの疲れを軽減する機能が搭載されているのが、最新クオンなのである。
試乗中に、駐車時に必要となる後退運転も体験させてくれたのだが、トレーラーをけん引している際は、その動きを予想して、トラクターを操らなくてはならない。そのため、空間認識力が問われる。誰でも簡単に後退できるわけではないことを実感させられた。皆さんも、街中の交差点でトレーラーが見事に右左折を行なっているシーンを目撃したことがあると思うが、まさにトラクターの円滑な運航こそが職人技なのだ。
【まとめ】普通乗用車とトラックが
相互を思いやることで交通安全に繋がる
なかなか体験できない「働くクルマ」の試乗だが、乗ったからこそ分かることがたくさんあった。まずは車間距離の大切さ。着座位置が近いトラックは前方視界に優れるが、ドライバーの視線はより遠くにある。だから、良くあるトラックの目前への割り込みなどは非常に危険ということ。また、トラックは強力なブレーキ性能を備えるが、重量物を運んでいるため、急ブレーキが危険なことに変わりはない。衝突を回避しても、運搬物の破損や故障の危もある。
同じ道路を走る乗用車とトラックが互いに気遣いあうことで、日々交通安全が成り立っていることを忘れてはならない。
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