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Wednesday, May 10, 2023

30代でパリピになって初めてわかったクラブの力|月が綺麗ですね 綾の倫敦日記|鈴木綾 - 幻冬舎plus

(写真:iStock.com/DisobeyArt)

最初に本格的なクラブに行ったのは、たしか18歳の時だったように思う。キプロス出身の友だちの実家に行って、世界的に有名なクラブ村、「Ayia Napa」で遊んだことがある。「Ayia Napa」のクラブは広くて、安くて、汚くて、そして10代、20代の馬鹿騒ぎが好きな人で溢れていた。万が一私たちが泥酔状態で迷子になった時のために、友人の彼氏が自分の電話番号を油性ペンで私たちの腕に書いてくれた。その変わった「焼き印」を入れて、朝までシューターカクテルを飲みまくって暴れていた私たちは、ミニスカートをはいた酔っ払っている牛の群れにしか見えなかっただろう。

 

ハウスミュージックがとても好きで、ライブでもっと聞きたいと思っていたのに、社会人になった後、私はあまりクラブに行かなかった。東京でクラブが趣味の友人が少なかったからだろう。30代に近づけば近づくほど、クラブで踊り明かしたがる人もぐっと減って、なおさらクラブに行く機会がなかった。

それが、イギリスに引っ越してからがらっと変わった。イギリス人の友達のおかげで、新しいクラブやレイブ(rave)文化を知り、私は遅れてクラブの大ファンになった。

数週間前、友達たちとクラブに行って、3時半まで踊りまくった。周りの人たちもみんなそれぞれに自分の楽しみ方を貫いていた。お酒を飲んでいる人もいたし、水だけを飲んでいる人もいた。全身で踊り狂っていた人もいたし、ゆっくりと体を揺れ動かしていた人もいた。

ドゥンドゥンという重低音とストロボライトの光の中に浸かって1週間のストレスを思いっきり発散した。まるで身を清めたような感じがした。家に帰ったのは4時半で、すでに鳥たちが鳴き始めていた。私はクラブで配られた紙コップを握りしめたままだった。この「お守り」を捨てる勇気が出ないほど、素晴らしい夜だった。

レイブのマナー

この夜行ったのは、クラブというよりレイブ(rave)だった。イギリスではレイブ(rave)はいわゆるクラブと異なり、ダンスミュージックが流れるパーティを指す。会場はクラブであっても倉庫や森の中でも構わない。単なるクラブと違って、ポップスは流れず、ナンパするための場所でもない。レイブの目的は、純粋に音楽を楽しみ、踊ること。raveが趣味の人はraverと呼ばれる。

レイブにはレイブのマナーがちゃんとある。参加者は優しく、お互いを手伝う。体調が悪くなった人がいれば、周りの人々が手を差し伸べる。参加者の間に強い共同体感覚があるからだろう。

誰でも大歓迎。年齢の上限はなくて今回一緒にいった友達はみんな40代。60代に見えた人もいた。「この人はraverなの?」と思った人も多かった。お昼はお母さん、弁護士、起業家、銀行員などをやっている。みんな昼間はちゃんとしている人だけど、レイブでは適度に羽目を外して恥ずかしげもなく踊っている。要するに、スマートに遊んでいる。

どんな格好で参加してもいい。何時間も立ちっぱなしで踊っているわけだからセクシーな服装よりスエットやジーンズの人の方が多い。私は大体ジーンズにパジャマのトップスで参加する。

正直いうと、レイブでドラックをやる人は一定数いる。少なくともイギリスでは、1988年に行われたセカンド・サマー・オブ・ラブの時からドラック、特にMDMAはレイブ(rave)の燃料になっている。他人との親近感が生まれる、スタミナを上昇させるので一晩中踊れる、ということでraverたちのコミュニティに好まれる覚醒剤だ。日本と同じでイギリスでも違法薬物。

レイブ(rave)主催者はどうせドラッグやる人がいるだろう、という前提でイベントを開催する。なので多くのイベントでは安全対策が徹底されている。金曜日に参加したイベントでは無料でお水を配っていて、踊って汗をかき、お酒やドラックを飲んで脱水しないように注意されていた。医療スタッフも待機していた。

日本との違い

クラブにとってのドラッグ問題はたしかに厄介だ。ただ考え方がイギリスと日本とでは根本的に違う。日本のマスコミの報道、クラブにまつわる議論を見ていると、クラブは怪しげな場所。その背景には、やっぱり、日本人の多くにとって、「クラブ=薬物(ドラッグ)の温床」という固定観念(私にいわせれば「偏見」)が根強く残っている。近年、沢尻エリカなど、クラブでドラッグを入手したセレブの事件が相次いで起きたこともあり、ますますそのイメージを悪化させている。日本のマスコミが報道するほどクラブがドラッグの温床、無法地帯だとは思えないけど、この種の報道が持つ世論への影響は否定できない。

22歳の時に初めて付き合った日本人の彼氏に東京のクラブに行ったと話をしたところ、「クラブは君みたいなちゃんとした人にふさわしくない。二度と行かないでほしい」と怒鳴られた。

クラブが大嫌いだった彼だけど、今思えばアルコール依存症だった。クラブはドラッグの温床、ドラッグは危険、といわれた時、「じゃ、お酒は危険じゃないの?」と反論したが、彼はそれを認めなかった。私は個人的には、日本にとって飲酒の問題(アルコール中毒や過剰飲酒に起因する健康被害や犯罪)の方が、ドラッグよりもっと問題視されるべきだと思う。

イギリスのクラブのオーナーやレイブ(rave)の主催者は一定のリスクは避けられないとわかっている。どうせドラッグを飲んで参加する人がいるとわかっている。リスクがある中で、そのリスクをできるだけコントロールしようとしてできる限り安全な環境を保とうとする。一方で、日本はいつも無理にリスクをゼロにしようとするからクラブ自体を危険視して規制対象にする(これはクラブの話だけにあてはまるんじゃなくて、日本社会全体についていえることだと思う)。

スマートに遊ぶ

先週、このコラムに時々出てくる友だちのニックくんとフランス人のDJのDariusのライブに行った。虹色のライトを眺めながら、何で何時間も立ちっぱなしで踊っているのがこんなに楽しいんだろう、と考えた。

日常生活では、私たちは社員だったり、友人だったり、家族の一員だったりして、複数のコミュニティやグループに所属しているけど、それらグループメンバーは比較的少人数。何百人、何千人の集まりに参加することはほとんどない。だからレイブ(rave)に参加すると普段感じない「人混みの迫力」を感じる。でもそこには雑踏で感じるような圧迫と違って、変な親密性が混じっている。知り合いが一人もいなくても。
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昔、毎週教会に行って祈った人たちは同じような落ち着きや帰属感を感じていたのだろう。そう言われると、レイブ(rave)で踊るのは若干スピリチュアルに感じる。自分と音楽との間に生まれるこのシンプルな関係は、まるで信者と神様の関係のよう。人群れのそれぞれ一人一人が「神」と結びついていて、そして神と個人の関係の束が形成されるのがraveという場。

猛威を振るう群集の情熱の中に、とても静かで内面的な空間――自分と音楽の間の空間――がある。自分を内省する空間だ。踊っている時には普段思い浮かばない、面白いアイデアが湧いてくる。仕事のことを忘れる。携帯の中の世界を忘れる。頭が空っぽになったら、やっと考える余地ができる。

私は何歳になっても、どれほど成功しても、偉くなっても、遊びたい。人の群れで踊りたい。

「夜になっても遊びつづけろ!」

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テーマ:「それでも日本で生きていく? 日本脱出とフェミニズムの可能性」
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