Text by Lyman Stone
出生率を向上させるためには、仕事と家庭生活を調和させる必要があると叫ばれて久しい。しかし、スウェーデンでおこなわれた宝くじ当選者をめぐる研究から、この「ワークライフバランス説」は必ずしも正しいとは限らないことが判明した。カナダのマギル大学で人口問題を研究している社会学者が解説する。
ワークライフバランスと出生率の関係
韓国の2022年の合計特殊出生率は、女性1人当たりわずか0.78人だった。米国の多くの地域でも、出生率はそれほど高くない。(米国自治連邦区の)プエルトリコでは0.92、バーモント州では1.36、ベイエリアでは約1.3だ。
人口統計学者たちは出生率の低下についてさまざまな説明をしているが、最も一般的なもののひとつは、仕事と家庭をめぐるものだ。
北欧の社会福祉国家のように、女性が仕事と家庭を両立できる柔軟な環境を与えられている国では、出生率は比較的高い。一方、仕事と家庭のどちらかが過剰で、両立できない要求をされる国では、家庭が割を食うことになり、出生率は低下する。
たとえば、男性が家事を多く分担しても出生率は上がらないことが、2018年の研究から判明している。また、仕事や家庭を支援する政策は出生率を向上させるが、コストがかさむわりに効果は乏しい(もっとも、子供手当が子供の貧困を軽減するように、出生率以外のメリットがある場合もある)。
この因果関係を検証する理想的な方法は、無作為に選ばれた人々のワークライフバランスを大幅に改善させ、彼らの行動に変化が生じるかを調査することだ。実施するのは難しそうだが、偶然その手のランダムなワークライフバランスの改善が実現することもある──それは宝くじで高額当選したときだ。
宝くじ高額当選者たちのその後を追跡してみたら
高額な宝くじに当たったら、何が起きるだろう? 当然、かなりの大金が手に入る。新車や家を買うかもしれないし、借金の返済に充てるかもしれない。
一方で、新たに手にした富を、より良いワークライフバランスを確立するのに役立てられるかもしれない。つまり、ハウスクリーニング業者やベビーシッターを雇ったり、勤務時間を短縮したりすることができるわけだ。
だが、もし宝くじの高額当選で出生率が向上しないなら、このワークライフバランス理論にはいくらか検討が必要かもしれない。
スウェーデンで宝くじに高額当選した人々について研究していた経済学者のチームは、次のような結論にたどり着いた。男性が宝くじに当選し、かつ当選前に低所得かつ未婚だった場合、人口統計学的に似た条件の宝くじ落選者よりも結婚する確率が高くなり、子供の数も増える。
一見、この結果はワークライフバランス説を裏付けるものだ。ところが、女性が宝くじに当選した場合、唯一大きく変化した行動は「離婚」だった。女性の離婚率は、宝くじに当選してから最初の2〜3年間でほぼ倍増するのだ。
この結果について、研究チームは明快な解説をしている。男性は裕福になると結婚相手としての魅力が増すため、宝くじ当選者の結婚率は3分の1ほど増加した。出生率は約13%ほど増加したが、それは主に彼らが既婚者となったことに起因する。というのも、特に男性の場合、既婚者のほうが出生率が高くなる傾向があるからだ。
さらに研究チームは、自分たちが導き出した結論が、米国で実施された宝くじに関する別の調査結果と一致することを示した。結論として、宝くじに高額当選すると男女ともに結婚率は高まるが、その効果は男性のほうが強く、男性の離婚率が低下する一方で、女性の離婚率は上昇することがわかった。
新たに獲得したリソースを、男性が家庭を築くために使う一方で、女性は家庭から脱出するために使うようだ。
宝くじが夫婦仲を引き裂くわけではない
この研究結果は、男女に関する既成概念をくつがえすかに見える。だが、現実はそれほど単純ではない。
結婚は多くの理由から、出産を強く予測させる要因となる。とりわけ重要なのが配偶者の有無とメンタルヘルスの関係で、精神状態は妊娠に大きな影響を与える。
宝くじに当選した女性への影響も同じく複雑だった。離婚率は全体が同じように上昇したわけではない。研究の結果、離婚率の増加は、以前から低所得だった女性や年配の女性、裕福な男性と結婚していた女性、結婚歴が3年以内の女性に集中していることがわかった。
そのため、彼女たちが夫と結婚に至った条件のほうが、宝くじの当選よりも重視すべき必要がある。注目すべきは、宝くじ当選から10年後、当選した女性はそれ以外の女性と比べて離婚率が低かったという点だ。
言い換えると、宝くじの当選金は、長年連れ添うはずの夫婦仲を引き裂くのではなく、必然的な離婚を加速させるだけなのかもしれない。
「出生率の向上」を直接の目標にするのは非効率
もし人々が、現在の経済状況にかかわらず子供を持ちたがっており(これは複数の調査で繰り返し示されている)、あらゆる境遇の親たちが安定した家庭環境で子育てできることが社会全体の繁栄につながるのであれば、出生率の低下は憂慮すべき事態だ。
まず第一に、この研究結果から、出生率低下の核心には、人々(とくに女性)が結婚相手をどのように評価するかという点が関わっていることが示唆された。アンケート調査でも、女性は相変わらず高収入のパートナーを望むと答えており、突発的に大金を手に入れた男性は、実際に結婚率が高まるという結果が出ている。
政策立案者は、単に「男性ボーナス」のようなものの支給によってこの問題を「解決」することはできないし、すべきではないだろう。それでも、なぜ男性が進学や就職に関して女性に後れをとる傾向にあるのかを理解することは、出生率向上の重要な鍵となり得る。
第二に、政策立案者は、家族政策を女性だけに関わる問題として検討することを避けなくてはならない。ジェンダー平等の社会を闇雲に追求するとか、子供をもつ女性だけに過度に膨大な補助金を支給することで出生率が高まるといった議論は、再考されるべきだろう。
男性の参加がなければ、出生率の向上は望めない。男女が子育てを優先的に選択できる余裕を生み出す政策が、先進国における出生率上昇に寄与するのだ。
この課題は難易度が高く、「婚姻の促進」は「出生の促進」と比べて質の高い研究が少ない。それでも政策立案者は、「結婚ボーナス」を支給したり、「結婚ペナルティ」、つまり夫婦の収入を合算すると低所得世帯の条件から外れ、生活支援のための給付金が受けられなくなる、といった制度を撤廃するくらいはできるはずだ。
こう言っても差し支えないだろう。労働者階級の人々が結婚し、子供を持つ余裕があると感じるために、なにも宝くじに当たる必要はないはずなのだ。
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