「運動」の驚くべき”癒し効果”にスポットを当てた研究が、今、世界的に注目を集めている。運動すると……「ストレスから守られる」「抗うつ薬に匹敵する”うつ改善効果”が得られる」「レジリエンス因子が増え、不安に強くなる」「遺伝と同レベルの認知症リスクを解消できる」「子どもの勉強への集中力が高まる、成績が上がる」など、その驚きの研究結果をまとめたのが”運動×神経科学”の第一人者であるジェニファー・ハイズ博士だ。彼女の研究は、ニューヨーク・タイムズ、BBC、CNN、ハフポストなど、多数の国際的メディアに取り上げられて話題を呼んでいる。その内容を一般向けにわかりやすくまとめた初の著書の邦訳版『うつは運動で消える 神経科学が解き明かした「心の不調」のリセット法』が発売された。今回は、本書の内容の一部を特別に公開する。
呼吸に意識を向けると恐怖心が減る
自分でできる、不安を和らげる方法があります。不安で混乱しているとき、選択肢はひとつしかありません。頭から離れて、体の中に入ることです。
呼吸に意識を向けることで、それが可能になります。そのことを裏づけるために、神経科学のデータをご紹介します。
ある実験で、研究者たちは瞑想やヨガの経験がない26人を集めました。2週間、被験者たちは呼吸に注意を払う方法を学びました。姿勢を意識し、腹部の上下動や鼻の空気の流れなど、呼吸にまつわる感覚に集中する方法です。
次に、脅威を感じさせる写真を見せながら、被験者たちの脳をスキャンしました。すると、呼吸に注意を向けるテクニックを使っているときとそうでないときで、その差が顕著に表れました。呼吸に意識を集中させると扁桃体の活動が低下し、その結果、恐怖心が減ったのです。
悩んだら、呼吸に集中してみよう
それだけではありません。呼吸に意識を集中させると、前頭前野の活動が増えて、ネガティブさが軽減されました。扁桃体へ送られる鎮静化のメッセージが強化され、その結果、マインドフルネス状態となったのです。別の研究では、呼吸に注意を向けることで痛みが軽減することもわかっています。
なぜ、呼吸に集中すると不安な心をリセットできるのでしょう。それは、呼吸に注意を向けることで「心は一度に1つのことにしか集中できない」という性質を利用できるからです。体(と呼吸)に意識を向ける時間が多くなればなるほど、心配する時間が減るというわけなのです。
(本原稿は、ジェニファー・ハイズ著、鹿田昌美訳『うつは運動で消える 〜神経科学が解き明かした「心の不調」のリセット法』の内容を抜粋・編集したものです)
世界トップのキネシオロジー(運動科学)学科を擁するカナダ・マクマスター大学のニューロフィットラボのディレクターであり、運動と神経科学研究の第一人者。主に、身体運動がメンタルヘルスや認知能力にもたらす影響について研究し、受賞多数。その研究は、ニューヨーク・タイムズでの特集をはじめ、CNN、NBC、BBC、ハフポスト、CBSなど、国際的メディアの注目を集めている。初の著書の邦訳版『うつは運動で消える』が2022年9月7日に発売。
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