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Saturday, June 4, 2022

ウクライナ侵攻でわかった 欧州の対中融和の終わり | | 西川恵 - 毎日新聞

 欧州各国首脳の4月から5月にかけて相次いだ来日は、日欧関係の根本的な変化を感じさせた。東アジアの厳しい安全保障環境への関心が薄く、中国との経済利益を優先してきた欧州が、安全保障や自由主義の価値に重きを置いた対日関係重視へ転換した。

相次いだ欧州各国首脳の来日

 来日したのはスイスのカシス大統領兼外相(4月18~22日)を皮切りに、ドイツのショルツ首相(4月28、29日)、フィンランドのマリン首相(5月10~12日)、ほぼ重なるように欧州連合(EU)のミシェル首脳会議常任議長(大統領)とフォンデアライエン欧州委員長と続いた。いずれもウクライナ紛争を巡る対露政策で重要な役割を演じている国や国際機関の首脳だ。

 カシス氏のスイスはEUメンバー国でない上に永世中立国だが、ロシア軍の侵攻に従来の中立的立場を転換し、日米欧と共に対露制裁に踏み切った。

 ショルツ氏のドイツはそれまでの融和的な対露政策を180度転換。国防予算の大幅増額を決定したほか、ウクライナに対空戦車や、りゅう弾砲など攻撃的な武器の供与に踏み切った。

 マリン氏のフィンランドはロシアに配慮した長年の軍事的中立政策を放棄し、スウェーデンとともに5月18日、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長に加盟申請書を提出した。マリン氏は1週間前の岸田文雄首相との会談で加盟申請を近々行うと示唆していた。

 EUのミシェル、フォンデアライエン両氏は2月24日のロシア軍の侵攻以降、加盟27カ国の対露制裁の取りまとめに主導権を発揮してきた。日EU共同声明では、対露制裁とウクライナ支援で協調していくとし、化石燃料の対露依存を下げるためエネルギー安全保障での協力をうたった。中国の東・南シナ海での活発な軍事活動にも懸念を示し、台湾海峡の平和と安定と、両岸問題の平和的解決の重要性を指摘。香港情勢や新疆ウイグル自治区の人権状況にも触れた。

日本への期待

 対露政策でカギとなっている欧州首脳の相次ぐ来日は、ウクライナ紛争において日本が“頼れる国”になっていることと無縁ではないだろう。ロシアの侵攻後、日本は対露制裁で主要7カ国(G7)と歩調を合わせると共に、日本独自の首脳外交で自由主義体制の結束に尽力している。

 岸田氏は3月、就任後初の外遊としてインドを訪問した。国交樹立70周年の名目はともかく、友好国ロシアに配慮するインドを日米欧の側に引き戻す狙いがあったことは衆目の一致するところだ。

 また大型連休中、岸田氏は東南アジアと欧州計6カ国を歴訪し、このうちインドネシア、ベトナム、タイの東南アジア3国はロシアの名指し批判を避けるなど温度差がある。そうした国々を峻別(しゅんべつ)せずにまとめていけるのは東南アジアとよき関係を築いている日本だからこそで、米欧なども日本の役割への期待があると思われる。

 さらに中国がロシアを陰に陽に支え、自由主義体制対権威主義体制の地政学的構図が強まっているなかで、ユーラシア大陸全体を包摂したグローバルな視点で安全保障を捉えなおす必要性が痛感されている。この点で価値を同じくし、世界第3位の経済力を持つ日本は欧州にとって重要なパートナーとなっている。

経済優先の対中重視からの転換

 来日した欧州首脳は岸田氏との間で科学や先端技術などの分野で関係強化を話し合ったが、これも中露への経済・産業的な依存度を下げ、サプライチェーンやデジタル経済で日本との協力関係を強化したい狙いがあった。

 今回の一連の欧州の首脳の来日は、経済優先の対中重視から、自由主義や安全保障を念頭に置いた対日重視へ欧州の転換を画すものと言ってもいいだろう。確かにここ数年、中国に対する警戒感は出てきていて、対日重視へ徐々にシフトしていたが、この流れを決定的なものにしたのはウクライナ紛争だ。

 欧州は自分たちが安全保障上の危機に直面して、やっと東アジアの厳しい安保環境に目が行くようになったか、というのが私の感想だ。…

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