コロナ禍で休館中の東京大学の博物館で、東大の先生方が、それぞれイチオシの所蔵品を紹介するテレビ番組をやっていた。ブータン国王から贈られたという幻のチョウ「ブータンシボリアゲハ」の標本や、縄文時代から鎌倉時代にかけての頭骨のコレクションなど、とても見応えのある番組だった。
番組の中で、考古学を研究する西秋館長が、「コロナの新しい行動様式とか聞くと、社会ってこういうふうに変わっていくんだな、と実感している」とおっしゃっていた。
「江戸から明治」と同じ意味合いで、「平成から令和」あるいは「コロナ以前、コロナ以降」と後々語られるようになる大きな時代の変化を、私たちはまさに目撃しているところなのかもしれない。
2020年春、新型コロナウイルスの第1波で、日本でも都市封鎖(ロックダウン)が現実味を帯びてくると、パニック買いが発生し、即席めん、乾パスタ、パスタソースなどの食品がスーパーの棚から消えた。消費者全員が動かずとも、わずか2割の人がパニック買いに走っただけで、スーパーの棚から食品がなくなってしまうということがわかった(1)。
コロナ下の「新しい生活様式」で、食をめぐる環境も大きく変わった。感染拡大防止のため営業自粛が求められた外食産業では、自分たちの商売は「不要・不急」なのかと自問せざるをえなかっただろう。外食産業の自粛は、食材の産地や市場にも大きな打撃を与えた。
日本でも、学校が全国一斉休校や企業のリモートワークで「おうち時間」が増えると、子どもと一緒にホットケーキやパンを焼いたり、外食できない分、家で手巻き寿司を楽しんだり、産直の野菜や魚を通販で取り寄せたりと、家庭で食べる料理も変わった。
このコロナ禍で、世界中の人が「食は産地から食卓までつながっている」ことを実感したのではないだろうか。
食をめぐる環境が変わったのなら、当然、食品ロスも変わるはずだ。食品ロスが変わるのなら、当然、その対策も変わっていかなければならない。
今回はコロナの時代の「新しい生活様式」に合った食品ロスを減らす方法を見ていこう。
コロナ下の食習慣の変化
オランダのワーへニンゲン大学が、コロナ下の食生活に関する欧州の32例にわたる論文をもとに、このコロナ禍から何を学べるのかを調べたところ、次のことが分かった(2)。
コロナ下の「新しい生活様式」で、22%の人たちは、より健康的な食事をするようになり、12%の人たちは、より不健康な食事をするようになった。新しい現実をきちんと受け入れられる人は、より健康的な食生活を送っていることが多く、社会的弱者は回復力が弱く、ストレスや恐怖心から不健康な食事に走る傾向にあるという。
同大学の研究員であるマリーン・オンウェゼン(Malleen Onwezen)博士は、このコロナ禍で起こった食習慣の変化についてこう語っている。
また、オーストラリアのディーキン大学の循環型経済学者マユリ・ウィジャヤスンダラ(Mayuri Wijayasundara)博士は、「今後数年間のコロナ後の回復期ほど、大がかりな構造改革を行うのに適した時期はないでしょう。人々はすでに自分たちの習慣の変化を受け入れざるを得なくなっているからです」と語っている(3)。
中国と台湾の「新しい生活様式」
冷めた料理や飲み物を口にしないはずの中国や台湾の人たちに、「お弁当」が注目されているという。
このコロナ禍で、食の安全性や健康のありがたみを実感した中国の人たちが、ロックダウンの解除後に職場や学校に戻る際、どんな食材や調味料が使われているか心配しなくていい、お弁当を持っていくようになった。お弁当で「お金では買えない、丁寧な暮らし」ができるそうだ(4)。
また、台湾でも、他者と距離を取りにくい屋台で食べることは敬遠され、料理をテイクアウトする人やお弁当を持参する人が増えている。台湾の本屋のベストセラーコーナーにはお弁当のレシピ本が並んでいるのだとか(5)。
環境活動家の次の標的は「食品業界」?
石油産業の大手「ロイヤル・ダッチ・シェル」は裁判所から2030年までに二酸化炭素の排出量を45%削減するよう命じられ、「エクソン・モービル」は取締役会の3つの席を環境活動家に空けることになった。そして環境活動家たちは、次の気候変動問題のターゲットとして食品業界に目をつけている(6)。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、世界で排出される人為的な温室効果ガスの21%~37%は「フードシステム」からのものだと推定している。 2021年3月に「ネイチャー」誌に掲載された研究でも、温室効果ガスの3分の1は「フードシステム」が排出源であると推定されていた(7)。
注)「フードシステム」とは、食品の生産、加工、包装、流通、保管、調理、消費、廃棄など、食に関わるすべての活動を指す。
世界で生産されている食品の3分の1は食品ロスになっているので、世界の総エネルギー消費量の10%以上は、食べられることなく捨てられてしまう食料を供給するために使用されているということになる。
また、東南アジアやアマゾンの熱帯雨林を焼きはらって農地を開拓することで、「フードシステム」は生物多様性損失の最大の要因(損失の80%)となった。こうした人為的な森林破壊と気候変動により、アマゾンの熱帯雨林では、吸収される二酸化炭素よりも排出される二酸化炭素の方が多くなっている(8)。
コロナ禍での脆弱性や持続可能性の破綻が明らかになっている食品業界の「フードシステム」が、環境活動家から気候変動問題の次のターゲットとされるのも無理はない。
見過ごされてきた農場の食品ロス
コロナ禍で職を失った人々が無料の食品を求めてフードバンクに長い行列を作ったり、パニック買いのため食料品店の棚から食品がなくなったり、ソーシャルディスタンシングのため食料品店に入るのに入場制限があったりと、2020年の春から夏にかけては、多くの人が食料の確保に苦労した。
また、ロックダウンでレストランやホテルからの生鮮食品の需要が激減すると、産地では大量の農産物が行き場を失い、廃棄された。大量のタマネギが農場に掘られた溝に捨てられ、搾乳された生乳はそのまま排水溝に流され、コロナのクラスターが発生した食肉工場が閉鎖されると、出荷できなくなったブタやニワトリは殺処分された。
多くの人々が食品を手に入れるのに苦労している一方で、産地では大量の農産物が廃棄されている。コロナ禍で露呈した、この「フードシステム」のほころびは多くの関心を集め、改めて農場からの食品ロスが注目されることになった。
以下、有料記事(5,285文字)
からの記事と詳細 ( 最新発表からわかった食品ロスのデータと既存のFAO報告との違いとは? SDGs世界レポート(69)(井出留美) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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