トヨタで人気のコンパクトカー「ヤリス」のエンジンとプラットフォームが採用された新型SUV、「ヤリスクロス」。
左がコンパクトカーのトヨタ「ヤリス」で、右がコンパクトSUVの「ヤリスクロス」(プロトタイプ)
トヨタの販売店では、2020年7月下旬からヤリスクロスの価格を明らかにして予約受注を開始している。販売店によると「ヤリスクロスの正式発売は2020年8月31日だが、すでに予約受注の台数は増えつつある」と言う。ヤリスクロスの価格は、正式には公表されていないものの、筆者が独自に入手した価格は以下の通りだ。
■トヨタ「ヤリスクロス」のグレードラインアップと価格(筆者独自調べ)
※価格はすべて税込み
- 1.5L 直3NAエンジン搭載車 -
X:1,896,000円(2WD)/2,127,000円(4WD)
G:2,020,000円(2WD)/2,251,000円(4WD)
Z:2,210,000円(2WD)/2,441,000円(4WD)
※NAエンジンには、一部の安全装備などを省いた
法人向けの「X・Bパッケージ」も別途設定されている。
- 1.5L 直3ハイブリッド搭載車 -
X:2,284,000円(2WD)/2,515,000円(4WD)
G:2,394,000円(2WD)/2,625,000円(4WD)
Z:2,584,000円(2WD)/2,815,000円(4WD)
トヨタ「ヤリスクロス」(プロトタイプ)の走行イメージ
ヤリスクロスのグレード構成は、1.5L 直列3気筒NAエンジンと同ハイブリッドに大別され、駆動方式はFFと4WDが用意されている。ちなみに、ハイブリッドの4WDには、後輪をモーターで駆動する「E-Four」が採用されている。
装備については、ベーシックなXグレードでも充実している。「衝突被害軽減ブレーキ」は全車に標準装備されており、ヤリスと同様に昼夜の歩行者や昼間の自転車も検知できる最新のタイプだ。
また、車間距離を自動で制御してくれる「全車速追従型クルーズコントロール」においては、ヤリスよりも進化したものが標準装備されている。ヤリスでは、走行速度が時速30km未満になると制御が解除されるが、ヤリスクロスには電動式パーキングブレーキが採用されているので、停車したあとに自動でパーキングブレーキを作動させて停止し続けることができる。
また、Gグレードになると16インチホイールがスチール製からアルミ製へと上級化され、シート表皮も上質なものになる。さらに、ディスプレイオーディオの画面は8インチにアップされ、後席は4:2:4の分割可倒機能が加わる。フロントドアガラスには「スーパーUVカット&IRカット」機能も採用される。Gグレードの価格をXグレードと比べると、NAエンジンは124,000円、ハイブリッドは110,000円高だ。
そして、最上級のZグレードでは、アルミホイールが切削光輝タイプになり、サイズも18インチへと拡大する。運転席は調節機能が電動式になり、運転席と助手席にシートヒーターも採用される。そのほか、「7インチTFTマルチインフォメーションディスプレイ」や「自発光式オプティトロンメーター」も採用される。Zグレードの価格は、Gグレードと比べてNAエンジン、ハイブリッドともに19万円の上乗せだ。
ヤリスクロスで買い得なグレードは、NAエンジン、ハイブリッドともに中間のGグレードだろう。Xグレードよりも、ニーズの高い装備が多数追加されていながらも、価格差はわずか10万円とちょっとだ。
ちなみに4WDの価格は、NAエンジン、ハイブリッドともに2WDよりも231,000円高い。ヤリスでは、NAエンジン、ハイブリッドのどちらも198,000円の価格差だったので、ヤリスクロスの4WDはヤリスの4WDよりも33,000円高い。
だが、ヤリスクロスの4WD(NAエンジン車)には、「NORMAL」「MUD & SAND」「ROCK & DIRT」といった、路面状況に応じて走行制御を切り替えることのできる「マルチテレインセレクト」が標準装備されている(ヤリスには装備されていない)。マルチテレインセレクトでは、走行モードに応じて前後輪に駆動力を振り分ける電子制御式多板クラッチや、空転を抑えるための4輪ブレーキが最適制御される。
トヨタ「ヤリスクロス」のハイブリッドE-Fourに採用されている「モードスイッチ」
また、後輪をモーターで駆動するハイブリッドのE-Fourには、「トレイルモード」や「スノーモード」といったモードスイッチが採用されている。ちなみに、トレイルモードとは空転するホイールに自動的にブレーキをかけることで、滑りやすい悪路などで立ち往生しても脱出しやすくなる機構だ。これらの制御は、ヤリスの4WDとはまったく異なるもので、SUVであるヤリスクロスならではの装備だ。
■ヤリスクロスのWLTCモード燃費(筆者独自調べ)
- 1.5L 直3NAエンジン搭載車 -
2WD:19.4km/L
4WD:18.0km/L
- 1.5L 直3ハイブリッド搭載車 -
2WD:31.1km/L
4WD:28.0km/L
トヨタ「ヤリスクロス」(プロトタイプ)の外観イメージ
NAエンジンとハイブリッドの価格を比べると、GグレードとZグレードの場合ではハイブリッドのほうが374,000円高い。この価格差は、ヤリスのGグレードと同額だ。購入時に納める税額は、ハイブリッドのほうが75,000円ほど安いため、税額の違いを差し引くと実質差額は約30万円程度に縮まる。
実燃費をWLTCモード燃費(2WD)と仮定して、レギュラーガソリン価格を1L当たり140円とすれば(今は130円台で安いが、今後の値上がりを加味)、30万円の実質差額をハイブリッドの燃費節約で取り戻せるのは11万kmを走ったころだ。1年間に1.5万kmを走るユーザーなら、7年少々で済む。また、ハイブリッドは加速がなめらかでノイズも小さいため、走行距離が伸びないユーザーでも選ぶ価値はあるだろう。
ヤリスクロスとヤリスの価格差は、装備の違いを補正して実質17万円前後に抑えられている。コンパクトカーと同じプラットフォームを使ったSUVは、価格が40万円ほど高くなることが多いのだが、ヤリスクロスは価格差が少なく、買い得感が高い。
ヤリスクロスの割安な価格は、ライバル車と比較しても当てはまる。日産「キックス」のX(2,759,900円)と比べると、ヤリスクロスのハイブリッドZ(2WD/2,584,000円)のほうが、175,900円安い。後席はキックスが少し広いが、装備は同レベルだ。さらに、WLTCモード燃費はキックスでは21.6km/Lだが、ヤリスクロスでは30km/Lを超えている。
次に、ホンダ「ヴェゼル」と比較してみよう。1.5L NAエンジンを搭載するX HondaSENSING(2WD/2,205,093円)に相当するヤリスクロスのグレードは、NAエンジンのG(202万円)だ。価格は、ヤリスクロスのほうが約18万円安い。
トヨタ「ヤリスクロス」(プロトタイプ)の外観イメージ
ヤリスクロスは、コンパクトSUV市場の動向を見極めたうえで、ライバル車に対して割安な価格で投入されることから、かなりの販売台数が見込めるはずだ。だが、同社のコンパクトSUV「ライズ」の安さを脅かすほどの価格設定にはされていないところに、トヨタの巧みさが見えてくる。
トヨタは、コンパクトSUVの「ライズ」や「ヤリスクロス」、シティ派SUVの「ハリアー」、本格派SUVの「RAV4」など強力なSUV布陣を敷きつつある。近年のトヨタはSUVラインアップを急激に拡充しており、国内SUV販売ランキングの上位がトヨタ車で独占される可能性もあるだろう。マツダやスバルなど、これまで魅力的なSUVを発売してきたメーカーも、特別仕様車を用意するなどでトヨタに対抗してほしいところだ。
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August 03, 2020 at 03:33PM
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