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Monday, August 3, 2020

最終クローズドβテストを十分にプレイしてわかった『原神』が『ブレス オブ ザ ワイルド』から受け継いでいる要素とそうではない要素 - IGN JAPAN

業界に衝撃を与えるゲームがリリースされると他社から影響を受けた新作が出るのは世の常だ。2010年代のゲームの一部を挙げても「ダークソウル」シリーズや『The Witcher 3』、『ハースストーン』から『Slay the Spire』、「PUBG」などフォロワーを生み出して一つのジャンルと化したタイトルは数知れない。

ただ、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下、BotWと表記)は革新的な傑作として評価されながらもフォロワーが出るまでに時間がかかった。ひとつ目の理由として、オープンワールドを作れる企業が大手や一部のスタジオに限られているため。ふたつ目には「BotWの何が素晴らしくて、何が本質なのか」の解答が人によって全く異なるためだと思われる。

例えば、筆者はBotWが「自分は天才だ!」と感じる”ひらめき”の快感をプレイヤーに与えるゲームだと考えている。そのために「シナリオの束縛が薄いので好きな場所に行ける」、「登山や飛行が移動の自由度を高めつつスタミナ管理の駆け引きを生む」、「物理エンジンと化学エンジンでプレイヤーの発想次第で攻略が生まれる」、「トゥーン調のビジュアルによって視覚情報が抽象化される」といったシステムがあると考える(「創発的ゲームプレイ (Emergent Gameplay)」や「没入型シミュレーション (Immersive Sim)」などのジャンル分類の話題は割愛する)。

あらゆるシチュエーションに対して解答が無限に生まれる、開発者からプレイヤーへの「あなたならどうしますか?」という挑戦こそがBotWの真髄だ(画像はGDC2017の動画より)。

しかし、BotWの定義については人によって全く異なる結論が出てくるだろう。上記の要素を全て満たしたゲームを作ればBotWになるわけでもなく、BotWのフォロワーを作るにしても独自性をどう確保するかという問題が発生する。

BotWが2017年3月に発売されてから3年半近く経過した2020年7月時点、そこそこの規模でBotWのフォロワーと呼べそうなゲームはmiHoYoの『原神』、UBISOFTの『Gods and Monsters』、Deep Silverの『Wildbound』、もしかしたらRareの『Everwild』など、ようやく数えるほど出てきた程度だ。

その中でも『原神』は早い時期に発表されたゲームであり、PVの内容もBotWによく似ていたため、良くも悪くも注目されたゲームとなった。

なお、『原神』の公式ブログでmiHoYoは2017年2月からオープンワールドゲームの開発を始めて数々のプロトタイプを作ったが、プロデューサーが5月の休暇にBotWをプレイして「今までプレイした他のオープンワールドとは全く違う体験だ」と感銘を受けたことをきっかけに『原神』の方針が決まったことを発表している。つまり『原神』がBotWのフォロワーであることは公式の事実なのである。

化学エンジンを活用したスタイリッシュ元素バトル(物理要素は薄め)

『原神』を簡潔に表現すると「『崩壊3rd』から拡張した”元素”をBotWの”化学エンジン”と組み合わせたゲーム」だと言える。miHoYoが運営するiOS/Android向けスタイリッシュアクションバトル『崩壊3rd』は特徴の一つとして雷、炎、氷の三つの”元素”があり、プレイヤーキャラクターの攻撃の属性と敵の属性を組み合わせることがゲームプレイの攻略に繋がる。

また、“化学エンジン”とは任天堂がGDC 2017の講演で提唱した概念で、ゲーム内に「自然科学的な直感に沿った疑似的なシミュレーション」(木でできた物体は火で燃やせる、金属の物体に電気を流すと帯電・感電するなど)を設けることでプレイヤーに科学的な思考に基づいたひらめきや発見を促すものだ。

『原神』は化学エンジンの活用方法を戦闘に中心に添え、エレメントの種類を増やした。『原神』には七つの元素(「水」「火」「雷」「岩」「草」「氷」「風」)があり、プレイヤーキャラクターや敵キャラクターは元素によって効果的なダメージを与えたり喰らったりする。

火属性の弓使い「アンバー」は火のついた弓矢を無制限に発射可能。攻撃力は低いが敵に火属性を付与できるのが強力だ。

例えば、火をまとった敵に竜巻を喰らわせると竜巻が火をまとって他の敵キャラクターを巻き込んで大ダメージを喰らわせ、水で濡れているキャラクターは雷攻撃のダメージが大きくなったり氷攻撃で凍結したりする。燃える草原や水場などの環境が持つ元素は敵キャラクターにもプレイヤーキャラクターにも影響を与えるし、雨を降らせたり植物を生やしたりすることで元素を変えてしまう敵キャラクターも存在する。

なお、本作は一体のキャラクターにつき使える元素と武器の種類が一つずつ割り当てられ、戦闘中に4人のキャラクターを入れ替えることでコンボ攻撃や連鎖ダメージを与えるためのパーティを組む楽しみがある。また、本作の舞台であるテイワットは7つの元素に対応した7つのエリアで構成されており、CBT(クローズドベータテスト)実施時点では西洋ファンタジーの風エリアと中華風の岩エリアを探索できた。CBTで解放されていなかった残り5つのエリア(「火」「氷」「水」「雷」「草」)と環境のバリエーションに期待がかかる。

中国風の高山と中華街の建物で構成された岩のエリア「璃月港」は一見の価値がある。

その代わり、『原神』は物理演算を活かした戦闘や謎解きがほとんどない。物理演算はオンラインのプレイヤー間で結果を同期するのが非常に難しいため、オンラインゲームで物理演算を活用しにくいことが原因の一つだろう。当然、ビタロックやマグネキャッチに相当する物理演算のガジェットもない。とはいえ、『原神』ではBotWのコログのように元素を使うパズルが用意されてはいる(弓矢で風船のような植物を狙って割ったり、元素に反応する石碑を時間内に全て起動させたり複数の灯篭に火をつけたりする)。

BotWは物理エンジンや化学エンジンを通して植物と岩から敵まで干渉できることが動的な(予定調和にならない)ゲームプレイを生み出していたが、『原神』はその場の環境やプレイヤーの攻撃と敵キャラクターの攻撃によってプレイヤーにも敵にも元素を付与しつづけることでダイナミズムを担保しているのではないか。

そして、本作はオンラインゲームなのでオープンワールドをマルチプレイで楽しめる。やはりマルチプレイは多人数で意味もなく散策するだけでも楽しいもので、プレイヤーごとに元素の違うキャラクターを使えば一人プレイとは違う感覚で元素コンボを決められるし、高レベルのボス敵と戦うときもマルチプレイで挑めば討伐しやすい利点もある。ただし、一度もマルチプレイをしなくてもゲームをクリアすることは可能であり、ソロプレイを好むかマルチプレイを好むかはプレイヤーに委ねられている。

キャラクター中心主義とF2P

本作がオフラインゲームのBotWと決定的に違うのはキャラクター中心の構造と基本無料の料金体系だ。基本的に本作はガチャ(ゲーム内で”祈祷”と呼ばれる)を引いてプレイヤーキャラクターを当てることが主な課金要素となるので、キャラクターが欲しくなるよう様々な工夫が凝らされている。

ガチャの結果にキャラクターが入っていればラッキーだ。既に所持しているキャラクターと被った場合はスキルツリーが1つ解放される。

『原神』ではプレイヤーキャラクターが現時点で30人近く登場する予定だ。キャラクター個別に専用のサイドクエストがいくつも存在し、サイドクエストのシナリオを通してプレイヤーにキャラクターのことを好きになってもらい、サイドクエストの特定の場面でキャラクターを試用させることでプレイヤーの「このキャラクターが欲しい」という欲求を高めている。

また、キャラクターには一つの武器と5種類のアクセサリーを装備することができ、余った装備を消費することで装備をレベルアップして強化していく。キャラクターをこまめに育成するのが好きな人には刺さるシステムだ。

次の章でも同様のことを述べるが、BotWはシナリオやキャラクターを意図的に薄味にしているのに対して、『原神』はストーリーやカットシーンがを作り込むことでプレイヤーにキャラクターを楽しませようとしている。ゲームでキャラクターを楽しむことに意義を見出す人は『原神』に向いているのではないか。

ガチャに必要なアイテム(もっぱら”石”と呼ばれる)や武器、その他のアイテムはショップで購入できる予定。

自由度の高い移動・探索とクエストのリニアな進行のパラドックス

BotWはプレイヤーの自由な進行を邪魔しないためにシナリオを意図的に”薄味”に作り込んでいたが、『原神』は生き別れの兄妹を探すために諸国を旅して先々でトラブルに巻き込まれるストーリーをはっきりと描いている(なんと公式サイトではゲームの前日譚を描いた漫画が単行本一冊分以上のボリュームで連載されている!)。クエストにはカットシーンが豊富に用意されているし、メインクエストが発生する順番や場所は決まっているのだ。

しかし、『原神』はそのリニアな進行によって弊害が起きている。プレイヤーは登山や飛行によって遠くまで探索できるのに遠くに行くメリットが薄く、メインクエストを進行する経験値を貯めるためにしょうがなく探索(あるいはデイリー報酬、ダンジョンでのバトル周回)しているように感じることがあった。

謎解き系のクエストとしては謎かけを解くものや、元素を視覚的に表現して元素の痕跡を追うウィッチャー風の探偵クエストなどがある。

BotWではプレイヤーに事前にロケーション(イベント発生地点)の情報を与えないことで「未知のエリアを踏破したい」、「試練の祠を見つけてキャラクターの体力とスタミナを強化したい」という意欲を持たせ、クエストがない状態でも自発的に探索したくなるよう設計されていた。

しかし、『原神』は地図を解放するためのロケーション(石像)が地図にあらかじめ表示されており、マップを解放すればファストトラベルのポイントやダンジョンの位置がすぐに表示されるため「未知のロケーションを自力で発見する」という楽しみは薄くなっている(どのようにワープポイントにたどり着くかという自由度はある)。

またBotWと同様、『原神』は登山や飛行を活用することで遠くに行けるのに、エリアごとに戦闘の推奨レベルが異なるので序盤の戦闘レベルでは遠いエリアの敵とまともに戦うことが難しい(これはマルチプレイで高いレベルのプレイヤーと組むことで補助することもできなくはない)。

そして、『原神』はメインクエストを発生させるために経験値を膨大な量を貯める必要があるのだが、少ない数のサブクエストを全て消化しても経験値の量が足りないのだ。このギャップを補うにはデイリークエストを毎日こなす、もしくは戦闘ダンジョンを周回するか、フィールドを探索して謎解きやミニクエストを発見しなければいけない。

山頂など気になる場所には何かが隠されているし、スタミナを管理しながら登山したり星の翼(パラセール)を使って高いところから飛び降りて滑空するのも楽しい。

『原神』には探索する価値のある広大なフィールドは用意されているが、メインシナリオを進行するのに必要な経験値が常に欠乏しているためプレイヤーが世界を探索する動機は好奇心よりもシナリオを進めるための経験値欲しさが上回る。しかし、ゲーム側から提示される経験値の貯め方では単調なデイリークエストや狩りをこなす作業になる危険があり、これを防ぐために自主的にフィールドを探索してミニクエストや宝箱を見つけるように誘導されていると感じた。

ただ、高い建物や山を登攀する楽しさや飛び降りて滑空する楽しさはあるし、自分の知らない場所を歩くことの喜びはある。本作独自のユニークなロケーションがたくさんあることが幸いして探索への意欲が続いており、筆者が感じている窮屈な感情はCBTで探索可能なエリアが限定されていることが原因であって正式サービス開始時には全く違った印象を持つかもしれない。また、本作は基本無料のモバイルゲームでもあるので、1日に30分から1時間ほどのプレイを推奨しているかもしれない(そう考えればデイリークエストをこなすのが効率的である経験値の配分にも納得がいく)。

ブレスオブザワイルドのフォロワーが出る時代に

影響力のあるゲームから派生作品が出るのは至って自然なことで、自分の好きなゲームのフォロワーが出るのは筆者もいちゲーマーとして喜ばしい。継続型オンラインゲームではフォロワーとパイオニアがユーザーを食い合うが、幸いにもBotWと『原神』にはそういった問題はないだろう。

結局のところ、ゲームを開発するスタジオの作風や販売プラットフォーム、ビジネスモデルの種類によってゲームデザインはがらりと変わる。BotWの精神性から何を引き継ぐのか、どんなアレンジを入れるのかに正解はないのだ。

冒頭で挙げたUBIの『Gods and Monsters』はアサシンクリードオデッセイの開発チームが制作しているのでギリシャ神話の世界でクライミングやパルクールすることを重視するように推測できるし、Deep Silverの『Windbound』は『ゼルダの伝説 風のタクト』に影響を受けているので海を中心としたフィールドで船をクラフトするシステムを取り入れている。Rareの『Everwild』はゲームプレイの詳細は不明だが、トレイラーを見る限りでは人間と動物(自然)の調和を強調しているのでパートナーである動物との協力や交流をゲームプレイに取り入れているのではないか。

『Windbound』のゲームプレイ映像も、色使いやギミックの既視感はけっこうある。

なお、「Switchは持ってないけどBotWはやってみたかったので、代用品として『原神』をプレイできるか?」と考える人もりるかもしれないが、筆者は本作がBotWの代用品ではないと答える。本作はBotWからインスピレーションは受けているものの、別の体験を目指した全く違うゲームだというのが筆者の結論だ。

『原神』は基本無料でPC/PS4/Switch/iOS/Android向けに2020年10月までに配信予定なので、少しでも気になるのであれば実際にプレイしてから判断するのが良いだろう。

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August 03, 2020 at 12:57PM
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