公的年金の「定期健康診断」ともいわれる財政検証で、将来の見通しが示された。もらえる年金はどうなるのか、その内容を読み解く。
30歳世代の年金水準は“現役収入の半分”に
公的年金をめぐっては、5年に1度、財政状況をチェックし、将来の給付水準の見通しが示されることになっていて、その結果が3日に公表された。
財政検証は、「もらえる年金額がそのときの現役世代の男性の平均手取り収入の何%にあたるか」を示す「所得代替率」という指標を用いて、この先の年金水準がどうなっていくかを確認するものだ。今回は、労働参加や賃金・物価の上昇度合いなどの条件を変えた、経済成長の異なる4つのケースをもとに、将来の姿がどうなるかが示された。
4つのケースとは次の通りだ。
①高成長ケース(実質成長率1.6%)
②成長ケース(1.1%)
③過去30年を投影した経済横ばいケース(マイナス0.1%)
④1人あたりゼロ成長ケース(マイナス0.7%)
2024年度のいま、65歳で年金を受け取り始める場合、会社員の夫が厚生年金に加入し、妻が専業主婦というモデル世帯の年金月額は、22.6万円だ。現役世代の平均手取り月額は37万円で、所得代替率は61.2%となる。
将来の年金水準がどうなるのかを、3つ目の過去30年投影・経済横ばいケースでみてみることにする。
この記事の画像(6枚)現在40歳の世代は、2049年度に65歳になって年金を受け取り始めるが、そのときの年金月額は、物価上昇率でいまの価値に割り戻した実質額で21.2万円、現役世代の平均手取りは40.2万円で、所得代替率は52.9%だ。
いま30歳の世代は、65歳になって年金を受給し始めるのが2059年度で、そのときの年金月額が21.3万円、現役世代の平均手取りは42.2万円で、所得代替率は50.4%となる。
支給水準を抑える「マクロ経済スライド」
所得代替率が徐々に下がっていくのは、少子高齢化が進むなか、「マクロ経済スライド」というしくみが取り入れられているからだ。
年金制度は、現役世代が納めた保険料を高齢者の年金にあてる「仕送り方式」となっているが、保険料を支払う現役世代が減って、年金をもらう高齢者が増えていくなか、長期間にわたって給付できるよう、年金財政のバランスがとれるまで支給水準を抑えるしくみになっていて、これが「マクロ経済スライド」と呼ばれている。
現在30歳の世代の将来の年金受給開始時の水準「50.4%」という数字についてみると、法律で定められた「現役収入の50%超」は確保されるが、いまの65歳の所得代替率61.2%に比べると2割近く下がることになる。
パートの加入拡大で年金はどれだけ増えるか
年金の給付水準を改善するには、どうすればよいのか。検証では、「保険料を支払う人」を増やしたらどうなるかも示された。パートタイムで働く人などの厚生年金への加入を広げていったときの試算だ。
いまの制度では、10月以降、従業員51人以上の企業に勤めるパートタイマーが「所定労働時間が週20時間以上」などの条件を満たすと、厚生年金の加入対象となる。試算では、企業規模要件を撤廃し、従業員5人以上の個人事業所の全業種のパートを対象にした場合や、月収8.8万円という賃金要件も外した場合、5人未満の個人事業所も対象にした場合、さらに、週10時間以上働く人をすべて対象にした場合、という4つの前提で試算が行われた。
企業規模要件を撤廃するなどした1つ目の場合、加入者数は90万人、追加加入者が最も多くなる4つ目の場合は、860万人増える。過去30年投影ケースでみると、いまの30歳世代が、65歳で受け取り始める年金は、夫婦モデル世帯で月額21.3万円だが、パートタイマーなどの加入拡大の結果、1つ目の場合は21.7万円に、4つ目の場合は23.8万円へと増える。
男性の1人あたり平均だと、14.7万円が、14.9万円、15.9万円に、女性の1人あたり平均では、10.7万円が、10.9万円、12.3万円へとそれぞれ増える。
年金財政の収支は、1つ目の場合は3年早く、4つ目の場合は19年早く安定することになり、所得代替率は、それぞれ0.9ポイントと5.9ポイント底上げされる。
20歳世代がいまの水準もらうには66歳まで働く必要
働く期間を延ばして、年金の受給開始を遅らせた場合はどうだろうか。
年金受け取りのスタートは、通常65歳だが、本人が希望すれば、75歳まで繰り下げることができる。過去30年投影ケースでは、現在20歳の世代は、66歳10カ月まで働いて年金受給を繰り下げれば、夫婦モデル世帯で、いまの65歳世代と同じ所得代替率61.2%を確保できるという結果になった。いまの32歳が、70歳まで働いてから年金を受け取り始めると、年金月額は21.1万円から31.5万円に増え、所得代替率は75.3%になる。
若い世代が年金水準をいまと同じレベルにまで引き上げていくためには、60歳以降いつまで就労を続ければよいのか、さらに就労期間を延ばせば、水準はどう上がっていくのかが、数字の上では示された形だが、実際そのように働き続けられるかは別問題だ。
今回の検証は、女性や高齢者の労働参加が進んだことなどにより、5年前の前回の結果からは改善傾向が見られた。とはいえ、経済が成長するケースでも、給付水準は2030年代後半まで下がり続け、夫婦2人で現役世代の5~6割にとどまる。
細る年金…改革が急務
検証結果を受け、国民年金保険料の納付期間を40年から45年に延長する案は、追加的負担を求めてまで給付水準を改善する必要性は乏しいとして見送られることになったが、パートタイムで働く人の厚生年金適用については拡大する方向で検討が進められる見通しだ。
「マクロ経済スライド」のしくみをめぐって、国民年金と厚生年金の終了時期を一致させることや、厚生年金を受け取りながら働いた場合、一定以上の収入を得ると年金が減らされる「在職老齢年金」の見直しなども、今後の議論の対象となる。
老後資金の底上げに向け、支え手を広げ、年金の目減りを抑える方策はどうあるべきなのか。少子高齢化が加速し、年金財政の持続性向上の必要性が一層強まるなか、制度改革をめぐる議論が本格化することになる
(執筆:フジテレビ解説副委員長/サーティファイド ファイナンシャル プランナー(CFP) 智田裕一)
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