■連載/石野純也のガチレビュー
グーグルは、2024年2月に生成AIモデルとそれを使ったサービスの名称を「Gemini」に統一した。これまで対話型の生成AIとして提供されてきた「Bard」も、現在はGeminiという名称になっている。これと同時に、スマホ用のアプリ提供も始まった。ただし、本稿を執筆している3月末時点では、日本のアカウントでのダウンロードはできず、お預け状態になっている。日本語には対応しているものの、提供先を限定しているようだ。
一方で、グーグルはAndroidの「Googleアシスタント」を置き換える形で、Geminiの配信を行っている。対象となったユーザーにはGoogleアシスタント起動時に通知が届く。この指示に従ってボタンをタップしていけば、GoogleアシスタントをGeminiに置き換えることが可能だ。設定を行えば、「OK、グーグル」のウェイクワードで呼び出せるAIアシスタントがGeminiになる。
グーグルは、AndroidのAIアシスタントをGoogleアシスタントからGeminiに置き換えている。一部ユーザーには、その通知が届いている状況だ
Geminiは生成AIを活用しているだけに、Googleアシスタントよりも多彩な回答ができ、その中身も充実している。その反面、既存のGoogleアシスタントで実現できていた一部の機能が非対応になっている。日頃から使っていた機能によっては、置き換えが難しくなっていると言えるだろう。そんなAndroidのGeminiをいち早く使い、既存のGoogleアシスタントと比較してみた。ここでは、その使い勝手をお届けしよう。
起動が簡単で生成AIが身近に、凝った回答も出せる
Googleアシスタントを置き換えて搭載されるだけに、呼び出し方は簡単。これまでと同様、「OK、グーグル」や「ねえ、グーグル」といった形でスマホに話しかけるだけでGeminiが起動する。端末によっては、ディスプレイの隅をスワイプしたり、電源キーを長押ししたりすることでも、呼び出すことが可能だ。今回Geminiを設定したグーグルの「Pixel 8」では、音声以外に電源キーの長押しがアシスタントの起動に対応している。
ウェイクワードや電源キーの長押しで起動できる。起動直後は、音声認識が可能な状態になっている
Googleアシスタントとデザインは少々異なり、画面の下部に比較的大きなウィンドウが表示される。呼び出した直後の状態だと、マイクのアイコンがフィーチャーされており、音声認識が有効になっている。そのままスマホに話しかけてもいいし、テキストフィールドをタップして、キーボードで文字を入力してもいい。キーボードマークをタップしなければならなかったGoogleアシスタントより、文字入力への誘導が強くなっている印象もある。
Geminiは生成AIのため、基本的な質問にはきちんと答えてくれる。例えば、以下はGeminiにAndroidでオススメのスマホを聞いた時のスクリーンショット。あらかじめ質問に盛り込んでいなかったにも関わらず、きちんと予算別にオススメの端末とその理由を説明してくれた。しれっと自社のPixelが真っ先に推されているところはやや気になったが(笑)、日本での売れ行きを考えればある程度納得はできる。
オススメのAndroidスマホをたずねたところ、予算別に端末がピックアップされた。ただし、学習しているデータがやや古いためか、そこそこ前の端末が提示されている
料理のレシピを教えてもらうといった形で、検索の代わりに利用することも可能だ。また、一歩踏み込んで、1週間の献立を考えてもらうといった使い方もできる。検索だけで答えが見つかりづらいような文章を考え出すのは、生成AIの得意とするところ。メールの文面案を考えてもらうといったことにも利用できる。こうした回答は、Googleアシスタントでは難しかった。
一方で、“堂々とウソをつく”ところも、生成AIらしさと言えるだろう。以下は、『DIME』と『@DIME』の違いについてGeminiに尋ねた際のスクリーンショット。前者は雑誌、後者はオンラインサイトというのが正解だが、GeminiはDIMEを「株式会社ディー・アイ・メディカル・エキスパートの略」と説明。@DIMEは、そのオンラインサイトであると解説している。あまりにも堂々としているため信じてしまいそうになるが、事実とは異なる。略すとDIMEになる株式会社ディー・アイ・メディカル・エキスパートなる会社も、検索では見つからなかった。
『DIME』と『@DIME』の違いについてたずねたところ、とある企業名が……
GmailやGoogleドライブ、Googleマップとの連携も可能
こうしたウソや間違いが含まれてしまうのは、いわば〝生成AIあるある〟。ユーザー側もうのみにせず、引っかかるところがあったら検索するなどして、事実関係はしっかり確認するようにしたい。その意味では、ある程度ユーザー側にも経験や知識が求められる。検索をビジネスの主力にしているグーグルだけに、もう少し精度を上げてほしいところだが、現時点では間違いも含まれている前提で使った方がいいだろう。
できることはWeb版のGeminiに近く、Googleアカウントとの連携も可能だ。GmailやGoogleドライブなどの情報を引き出しながら、最適な回答を返してくれるのもGeminiの特徴だ。一例を挙げると、以下はGmailに届いたメールから、povoのプロモーションコードだけを抽出したもの。1件1件検索して探すことも不可能ではないが、Geminiに頼めばその手間は大幅に削減できる。
届いたメールから、povoのプロモコードを抽出した。メールを1件1件検索していくよりも簡単だ
また、以下はX(旧Twitter)の広告収入分配金がいくらあったかの確認をGeminiに聞いてみた画面。こちらも、直近のXから届いたメールを分析して、その中から入金額を抜き出して教えてくれた。ただし、会話を続けて先月分を聞こうとすると、金額の記載がないメールを参照して、適当な回答が返ってくることもあり、必ずしも正確とは言えなかった。
このようにアカウントを連携させても、常に正しい答えを引き出せるとは限らない。以下は、メールで届いた三井住友カードとPayPayカードの引きと落とし日をGeminiに聞いたスクリーンショット。前者はメールを分析して正確に回答しているのに対し、後者の質問はスルーされてしまっている。Geminiは文脈を理解して会話ができるため、スルーしたPayPayカードの件を突っ込んでみたが、今度は誤った回答が提示されてしまった。
2つのカードの引き落とし日を調べてもらったが、一方しか回答がなかった。続けて質問をしたが、回答は間違っていた
メールの検索という点では少々微妙なGeminiだが、Googleマップを自然言語で検索する際には活躍しそうだ。筆者は、「事務所から小学館まで行きたい時、15時に間に合うルートを教えてくれ」と尋ねたところ、きちんと車で経路を調べて出発時間を教えてくれた。会話を続けて、経路を電車にすることも可能だった。これをGoogleマップで調べようとすると、小学館の場所をキーワードなどで調べて、経路を表示し、到着時間を入力するといった作業が必要になる。言語で聞ける点では、Geminiの方が自然なユーザーインターフェイスと言えるだろう。移動中などにも、この方が使いやすい。
ルート検索を自然言語でできるのは、本家Googleマップにない機能。Geminiならではと言えるだろう
Google Home連携はやや中途半端、Googleアシスタントとの併用も
Geminiという名称にはなったが、AIアシスタントとしてGoogleアシスタントの機能も一部引き継いでいる。家電のコントロールなどは、その1つ。部屋の照明やテレビを消してほしい旨をGeminiに頼むと、その指令がGoogleアシスタントに自動で引き継がれて動作が実行される。Google Home対応の家電を使っていた人にとって、これは必須と言える機能。Geminiになって失われてしまうわけではないので、安心して利用できる。
照明やテレビのオン・オフといった動作をする際には、コマンドがGoogleアシスタントに引き継がれる
とは言え、すべての機能が引き継がれているわけではない。Googleアシスタントで呼び出せていた「ルーティン」に非対応なのは、その1つだ。ルーティンとは、特定の操作をひとまとめにして、それにキーワードを割り当てられる機能のこと。そのキーワードをGoogleアシスタントに呼びかけることで、まとめて部屋の照明やテレビを消したり、ニュースを読み上げてもらったりといった操作を連続で行える。
ルーティンは呼び出せず、そのキーワードに基づいた文章が生成されてしまう
筆者も、「行ってきます」というキーワードに、照明、テレビ、エアコンなどの消灯を割り当てているほか、「電気を暗くして」というと一部の照明を消しつつ、残った照明の光量を落とすような設定を使っていた。また、スマートリモコンを活用し、「フジテレビ」といったテレビ局名の呼びかけだけでチャンネルが変わるようなルーティンも用意しており、便利に使っていた。
GoogleアシスタントをGeminiにすると、これら一連の設定がすべて無効になってしまう。Geminiを設定したスマホを活用せず、Nest Homeなどのスマートスピーカーに呼びかければ済む話だが、近い場所にスマホが置かれていると、そちらが先に反応してしまい、ルーティンが起動しないこともあった。Googleアシスタントはもっぱら、ルーティンの呼び出しに使っていたため、Geminiでそれができなくなってしまうのは非常に残念。Androidの標準的なAIアシスタントにするのであれば、早急な対応に期待したい。
設定でGeminiからGoogleアシスタントに戻すことも可能だ
このような時には、AIアシスタントをGoogleアシスタントに戻すことも可能だ。Pixel 8の場合、「設定」→「アプリ」→「アシスタント」に進み、画面下にある「Googleのデジタルアシスタント」を選ぶと、GeminiとGoogleアシスタントのどちらか一方を選択できる。生成AIを活用した話題の機能である一方で、まだまだ粗も多いGemini。自分の使い方に合わないと思ったら、Googleアシスタントに戻すことも検討した方がいいだろう。
【石野’s ジャッジメント】
UI ★★★★
回答精度 ★★★
家電の操作性 ★★★
エンタメ性 ★★★★
*採点は各項目5点満点で判定
取材・文/石野純也
慶應義塾大学卒業後、宝島社に入社。独立後はケータイジャーナリスト/ライターとして幅広い媒体で活躍。『ケータイチルドレン』(ソフトバンク新書)、『1時間でわかるらくらくホン』(毎日新聞社)など著書多数。
※本記事内に記載されている商品やサービスの価格は2024年1月31日時点のもので変更になる場合があります。ご了承ください。
日々進化を続けるAIはいよいよ社会に実装されていくフェーズに入ってきました。また、スマホやPCの“オンデバイス”で搭載され始めるなどスゴいスピードで進化を遂げています。
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DIME2024年 4月号
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特集 3 DIME読者とマンガ好き10名が選んだ仕事に効く56冊!
「ビジネスパーソンが読むべきマンガ大賞」
マンガは単なるエンターテインメントではなく、現代のビジネスパーソンにとって新たな教科書ともいえる存在だ。ドラマチックなストーリーを通じて、職場で直面する様々な課題や、人間関係の機微、成功への道のりのヒントを与えてくれる。今回の特集ではマクアケ・中山社長、安芸高田市・石丸市長、沢口愛華さん、斎藤佑樹さん、神田伯山さん、モグライダー・芝 大輔さん、映像ディレクター 高橋弘樹さん、ベンチャー投資家・朝倉祐介さん、プロゲーマー翔さん、株式投資家テスタさんなどマンガ好き10名とDIME読者により仕事に効く56冊を選出してもらった!
<新連載> 気になるあの人の“働く主義”に迫る「ハタラキズム」 第一回 芳根京子さん
俳優としての10年のキャリアを重ねてきた彼女が抱く
〝働くうえでの主義=ハタラキズム〞とは?
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