スーパーに勤務する42歳の山本タカシは、10年前に離婚してからずっと、当時7歳だった子どもに会えていない。タカシやその家族に何があったのかを描いた人気ウェブ連載漫画、『今朝もあの子の夢を見た』(集英社)が単行本化された。
子と疎遠になっている別居親らが導入を求めている「共同親権」が法制審議会で議論されているタイミングでの発売。現在進行形のイシューに挑戦した作品かと思いきや、野原さんは「たまたまタイミングが合ってしまっただけ」と語る。
「会いに行ったら逮捕される」知人の言葉にびっくり
「執筆のきっかけは、数年前にある知人と再会したこと。彼はおちゃらけた感じの、明るい中年男性なのですが、お互いの離婚の話になったときに『俺は離婚してから子どもに会えてないんだけどね』ってポロリポロリと語り出したんです。その悲しげな様子が、ふだんの彼とあまりに違うので、気持ちがなかなか追いつかなくて。
それに、話を聞けば聞くほどわからない。『会えない』ってどういうこと?、『会いに行ったら逮捕されるかも』って、なんで?って。わからないけれど、描いてみればわかるかもしれない。それならば描いてみようと思いました」(野原さん)
作中で、ふだんは穏やかなタカシが、子どもの話題になると「洗脳」「誘拐」といった言葉を口にし、同僚の真美を驚かせるシーンがあるが、これは実体験に基づいているという。
「その後もタカシのような状況に置かれている親御さんに何人かお会いしたんですが、皆さんそういったことをおっしゃる。聞き慣れていない立場からすると、エッ?ってギョッとするんですよね。
また、お会いした親御さんたちの悲しみが深いことも印象に残りました。タイトルにもなっている、朝、子どもの夢を見て、涙を流しながら目を覚ましたという体験も、複数人が経験していました」(同前)
連載を続ける中で、タカシ同様、離婚などで子と疎遠になった親からは大きな反響があったというが、逆に、子を連れて家を出た親からの反響はどうだったのか。
「書いているうちに、家を出た側の声も聞こえてくるだろうと思っていたんですが、ほとんど聞こえてきませんでした。取材も試みたのですが、ネット上で探してみても、なかなかたどり着けない。
でも、それこそが、なぜ離婚したパートナーを子どもに会わせないかの『答え』なんじゃないかな、と。そう考え、終盤はあのような展開になったんです」(同前)
担当編集も、終盤のシーンには「えっ!?」
担当編集の今野加寿子さんは、野原さんの作品の魅力をこう語る。
「野原さん本人が意図しないところですごい伏線や、思いがけない転調がある。天から降りてくれちゃった、みたいな瞬間があるんだと思います。
『今朝もあの子の夢を見た』で言えば、冒頭にタカシが真美に見とれるシーンがありますが、それが終盤のあるシーンにつながる。事前にプロットを話し合っていた担当編集の私も聞いていないシーンだったので、『えっ、こんなことになったの!?』と驚きました(笑)」
野原さんは、『今朝もあの子の夢を見た』が「池に小石を投げるような本になると嬉しい」と語る。
「夫婦の片方を責めるような本でもないし、法律の本でもない。家族といった小さい関係性の中でこんなことが起こってしまうけれど、読者の皆さんも一緒に考えませんか?と。ちょっとした疑問を投げかける本になっていればいいなと思います」 (野原さん)
からの記事と詳細 ( 「元妻に子どもを誘拐された」知人の言葉に困惑…取材してわかった、“子に会えない親たち”の共通点 - 文春オンライン )
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