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Tuesday, September 13, 2022

コンセントの向こう側を親子で実感…森・水・電気のつながりがわかった「J-POWERエコ×エネ体験ツアー2022」 - リセマム

 日本の電源を開発しているJ-POWERが2007年に始めた「エコ×エネ体験プロジェクト」は、環境とエネルギーの共生を目指して取り組む活動。2022年のエコ×エネ体験ツアー水力小学生親子編は昨年に続きオンラインで開催され、バーチャル映像によるダム・発電所見学や森の体験、科学実験などで楽しく学びを進める盛り沢山の内容となった。

 日本各地から小学生親子が集い、親子で一緒に森・水・電気のつながりを知り、楽しいひと時を過ごしたオンラインツアーのようすをレポートする。

名門指導会・辻義夫先生に聞く「親子体験」の大切さ ~「体験」の種はいつか花開く

 毎年人気が高まる同ツアーは、電気を作っている人たちから直接学ぶことから、子供たちが理科の知識をより深められる貴重な機会であり、親子で一緒に体験するプログラムであることも魅力だ。プロ家庭教師集団「名門指導会」副代表、中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員として、子供たちの理科指導に携わり、著書も多数ある辻義夫先生に、「親子体験」の大切さや日々の学習への生かし方について聞いた。

名門指導会・辻義夫先生に聞く「親子体験の大切さ」~「体験」の種はいつか花開く

 小学生のお子さんの多くは「理科が好き」なのですが、中学、高校と学年が上がるにつれて苦手になったり嫌いになるお子さんが多くなります。このようなお話をすると、ご自身もそうだったと振り返る親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな「理科嫌い」を未然に防ぐ方法として有効なのが「体験学習」です。身近な現象と学習をリアルに結びつける体験をしておくことは、将来の「理系アタマ」を育む大きな土台となります。

 今回の「J-POWERエコ×エネ体験ツアー2022」はオンラインとのことですが、オンラインならではの「時間と空間の制約を超える」「現場と家庭を行き来しながら体験できる」というメリットが最大限に活かされたのではないかと思います。

 電気を作ることに携わっている方たちの話を聞きながら、リアルタイムでご家庭のコンセントや電化製品のようすを観察し「遠く離れたダムで『いま』つくられた電気が目の前の冷蔵庫やパソコンで消費されている」ということを実感できる機会など、そうありません。離れた場所でもオンラインの環境で話ができたり、イベントに参加できるのも、電気や電波が光と同じ速度で瞬時に伝わるからだということも、実感できたのではないかと思います。

 体験後、親子ですぐに「行動」できるのも良いですね。「うちからいちばん近い水力発電所はどこだろう」と調べてみるのも良いと思います。

 おすすめしたいのは、今回の体験をぜひ親子で「追体験」していただきたいということです。「回転運動で電気ができる」を手回し発電機を購入して確認したり、おうちにある自転車のライトを確認したり、学習したことを身の回りのものとリアルに結びつけることが、お子さんの「理系アタマ」をどんどん育んでいきます。

 こうやって蒔いた「体験」という種が、数年後に教室で「あのときの、あれのことか!」と花開いたりするものです。

 小学4年生から6年生の親子を対象とした約2時間30分のプログラムは2022年8月9日と10日の午前・午後、計4回が開催され、計127組254名の親子が参加した。スケジュールは下記のとおり。(2022年8月実施内容。毎年プログラムは異なる)。

「J-POWERエコ×エネ体験ツアー2022@オンライン小学生親子編~オンラインで森・水・電気のつながりを学ぼう~」

 はじまりの会→お互いを知る時間→水力発電所(御母衣)バーチャル見学→白川郷映像体験「電気のなかった昔の暮らし」→(休憩)→奥只見との中継→森の体験プログラム→ドクターと学ぶ「科学の実験教室」~水力発電編~→親子で振り返ろう→おわりの会

 エコ×エネ体験ツアーでは例年、参加者もスタッフも各自キャンプネーム(ニックネーム)を付けて参加。今回のオンラインツアーでもキャンプネームで呼び合った。文中はキャンプネームのまま紹介する。

エコは自然、エネは電気。双方のつながりを楽しく学ぶツアーがはじまる

 取材した9日午後の部は31組62名の親子がオンラインで集合。J-POWERエコ×エネ体験ツアーをはじめ、山梨県清里のキープ協会で自然を案内している、司会の「おのの」が「エコは自然、エネは電気を指しています。実はこの2つはつながっています。以前は1泊2日で実際に発電所や森に行って体験をしていましたが、コロナで今回はオンラインツアーになりました。みんな楽しんで積極的に参加してほしいと思います!」と明るく呼びかけてスタート。

キープ協会の「おのの」が明るく楽しく進行を務める
参加者には事前にオリジナルリングノート等の学習キットが送付された

 J-POWERの「しげさん」の挨拶では、同社がエネルギーと環境の両方を大切にする心をもった人たちが増えるようこのプロジェクトに取り組んでいること、さまざまな専門性をもったパートナーと一緒にプロジェクトを運営していること、そしてコンセントの向こう側がどうなっているのかを、みんなで一緒に関心をもって楽しんで学ぶ大切さが伝えられた。

J-POWER「しげさん」からのはじまりの挨拶。「コンセントの向こう側がどうなっているのか楽しく学んでほしい」

 スケジュールの案内に続き「リアクション体操」へ。参加者のリアクション方法やカメラと音声のオン・オフを確認し、オンラインならではの積極的なコミュニケーションを促した。

リアクション体操をしながら、楽しくコミュニケーション

国内最大級のロックフィルダムへ

 J-POWERは水力・火力・自然エネルギーなど、さまざまな方法で電気を作っている。今回のオンラインツアーでは、岐阜県の御母衣(みぼろ)と新潟県の奥只見(おくただみ)を訪れた。

 まず御母衣電力所の佐々木所長が、国内最大級のロックフィルダム(仕組みについては後述)と水力発電所を案内する。御母衣ダムは高さが131m、堤防の長さは405m、体積は795万立方メートルで東京ドームの6杯分以上に相当する。近くに岩石や粘土が多くあることから、コンクリートよりも経済的なロックフィル式が採用されたという

 御母衣ダムは岐阜県北部を水源とした庄川をせき止めて作られた。ダム湖の面積は8.8平方キロメートル、総貯水量は3億7千立方メートルと東京ドーム約300杯分の水量だ。岐阜県は高知県に次ぐ全国2位の森林面積率79%と森の保水力も高く、冬は雪も多いため水力発電所に適した気候条件。庄川水系にある水力発電所の最大出力合計は原子力発電所1基分に相当する100万kW超となっている。

ロックフィルダムと呼ばれる岩や土を生かした御母衣ダム

 発電には水車を回すために水の落差によって生じる力が必要という理由から、発電設備はダムの地下に設置されている。地下発電所に向かうには、インクラインというケーブルカーのような乗り物を利用。このインクラインは標高差83.5m、全長223mを約2分半で移動できるという。

御母衣発電所の発電機室

 ダムの左岸地下にある発電機室には2台の発電機がある。発電機の中にはローター(電磁石)とステーター(コイル)が入っていて、回転軸で水車と繋がれたローターが1分間に225回転という高速回転で回転して電気を作り出す。なお現在は愛知県春日井市にある中西地域制御所から遠隔制御されている。

 「MIBOROダムサイトパーク」では、ロックフィルダムや発電設備の仕組みがわかる。なぜこの地にダムが作られたのかについても説明されている。東海北陸自動車道、ひるがの高原サービスエリアの近くに「分水嶺(ぶんすいれい)」と呼ばれる水の流れの境界線があるのだが、この南側は長良川、河口付近では木曽川となって太平洋に流れこみ、北側は庄川となって日本海に流れこんでいる。この分水嶺から海までの距離は、長良川約166kmに対して庄川約115kmと約50kmほど短い。つまり北側の庄川の流れは急で、落差が必要な水力発電に適していたという。

太平洋側と日本海側に分かれる分水嶺

 続けてロックフィルダムの仕組みが説明された。ダム中心部に遮水壁(しゃすいへき)と呼ばれる粘土で水が漏れるのを防止。その上に小さな岩、表面部には大きな岩石を用いることで、遮水壁の粘土が流れ出るのを抑えている。

 御母衣ダムでは最大21万5,000kWの電気が作り出され、おもに関西方面で使用されている。御母衣ダムの地域には、かつて荘川村中野地区の合掌造りの集落と穀倉地帯が広がっていた。J-POWER(当時の電源開発)の高碕初代総裁は、ダムの建設で水没する樹齢400年の桜の木を見て移植を指示。その移植された2本の桜は「荘川桜」として移転後の住民の心の故郷にもなったという。現在はダムの下流、約16kmにある世界遺産白川郷の合掌造りの集落と並んで地域有数の観光地となっている。

 地域の理解があってこそできた御母衣発電所は、J-POWERの理念である「地域との共生」の原点。現在は地元の小中学生とともに桜の養生などの活動も行われているという。

移植された2本の桜は「荘川桜」として親しまれ、J-POWERの理念である「地域との共生」のシンボルとなっている

 続いて「ドクター」が「電気ができる仕組み」を、しゃかしゃかライトを用いて実験。ライトの中にあるコイルの中を磁石が動くことで電気は発生する。ドクターはしゃかしゃかと横に降って磁石を動かし、実際にライトを光らせた。

 また、横に振るよりもコイルの中の磁石をぐるぐると回した方が効率的に動かし発電できる。実際の発電機も同じ仕組みのため、ドクターは手回しの発電機を用いて実践。こうした簡単な原理が今の私たちの生活を支えていることを実験はわかりやすく教えてくれる。軽快なメロディとフレーズとともにダンスで「フレミングの法則」を紹介するシーンも。

 「おのの」からは、この仕組みが自転車のライトにも利用されていると補足があった。足でペダルを漕ぐことで生じる力を用いて、コイルの中の磁石を回転させライト点灯すると説明し、水力発電との類似性を提示。小学生がより自分の生活に引き付けて考えられるよう、随所に工夫の込められた講義展開だった。

コイルと磁石で効率的に発電するしくみを実験

 続いて参加者親子がツアー前に調べた「自宅にあるコンセントの数」を発表。およそ20から90個前後の数字が並んだ。コンセントは必ずどこかの発電所とつながっている。「おのの」は、電気の速さが1秒間で地球を7回半まわる光の速さと一緒であること、今使っている電気は、今この瞬間に発電している電気であること、電気は今、本当に身近なものになっていることを伝えた。

 では電気がなかった時代の人々はどうしていたのだろうか。

自らエネルギーを作って使う意味

 御母衣発電所の下流にある「白川郷」では、今も昔ながらの暮らしや文化が残っている。トヨタ白川郷自然学校の「ある」からは、電気がなかった時代の暮らしについて解説があった。

 岐阜県の山の中にある世界遺産、白川郷合掌集落。この地域は四方を山に閉ざされ、冬には雪が3m近く積もるために、他の地域との流通が難しい場所だった。そのため合掌家屋をはじめとした昔の人の暮らしが色濃く残っている。

 合掌家屋にある囲炉裏(いろり)は、電気がない時代に寒い冬をしのぐため、薪(まき)を使って火を起こして温まり、家族で集まり話をする場所だった。薪は森から切り出した木を割って2年ほど乾燥させたもの。こうした薪には、そこそこの火力で長くゆっくり燃える種類の木が適している。

 ここで「ある」は針葉樹のスギと広葉樹のミズナラの薪を用意。囲炉裏の薪に適している木はどちらかを実験した。

トヨタ白川郷自然学校の「ある」による「電気のない昔の暮らしを知ろう」

 ポイントは重さ。密度が低く軽い木は激しく燃えるが、すぐに燃え尽きる。逆に密度が高く重い木は、そこそこの火力で長く燃える。「ある」がスギとミズナラの重さを比べると、ミズナラの木の方が重かった。つまりミズナラは囲炉裏の薪に適している。繊維がぎっしりと詰まって重く、そこそこの火力でもゆっくり燃えるので火加減も調節しやすい。またミズナラは、切り株から芽が伸びて大きくなる「ひこばえ」という伸び方をするため、種から芽吹くよりも早いサイクルで成長する。そのため電気の無い時代の、まさに持続可能なエネルギー源だったという。

スギとミズナラの重さの違いを知る

 夜の明かりはどうしていたのだろうか。昔は「ろうそく」を使用していたが、現在、目にするものとは異なり、植物の髄で作った芯とハゼなどの木の実を絞った“ろう”で作られた「和ろうそく」だった。和ろうそくは芯が太く、風に強くて明るいが、寒さが厳しい白川村ではハゼが生えないためウルシだけを使っていたそうだ。ウルシの実はとても小さく、たくさん集めても少量のろうしか取れないため、和ろうそくは高級品だったという。

 「おのの」は「昔はエネルギーを作る人と使う人は一緒でしたが今は別々です。電気をたくさん使う今は発電所で作ってくれるので、使いたいときにすぐに電気を使うことができる。そのため電気は当たり前のようにあるものと思ってしまいがちです。昔の人は自分が必要な分だけ森からもらって大事に使っていました。今の私たちも自分が使うときに、作る人たちがいることを忘れずに、大事に使えたらと思います」と話した。

 次ページ、奥只見の森探索、ドクターの科学実験教室、参加者インタビューに続く。


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