岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の「グランドデザイン及び実行計画」と2022年度の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」が6月7日、閣議決定された。
菅前首相と変わらない
どちらの文書も、2代前の安倍政権時代からのキャッチフレーズである「成長と分配の好循環」という言葉が頻繁に登場し、人への投資、資産所得倍増など経済成長を重視する内容となっており、岸田氏が昨年の自民党総裁選の際に強調していた「分配」重視の姿勢はどこに行ったのかという批判が相次いでいる。
私が注目している貧困対策について調べたところ、「グランドデザイン及び実行計画」の中で「貧困」という言葉は以下の1カ所しか出てこないことがわかった。
「長引くコロナ禍により、貧困を抱える世帯の生活が厳しくなるとともに、孤独・孤立の問題が深刻な社会問題となっている。困難を抱える方々と行政の橋渡しをするNPOは重要であり、孤独・孤立対策に取り組むNPO等の活動をきめ細かく支援する。」
「貧困を抱える世帯の生活が厳しく」なっているという現実を認識しつつも、政府が率先して対策に乗り出すのではなく、NPOに対応を任せる。菅義偉前首相が繰り返し強調しては批判されていた「自助・共助・公助」路線と何が変わったのか、私には全くわからない。
貧困対策の原則を無視した安倍政権
「骨太の方針2022」には、「コロナ禍によって顕在化した課題等に的確に対応するため、生活に困窮する者への自立相談支援等の強化を図る。生活保護基準の定期的な見直しについて、消費水準との比較による検証結果や社会経済情勢等を踏まえて対応する」との記述がある。
この記述もあいまいで、具体的に何をめざしているのかが見えないが、私がぜひお願いしたいのは、過去に自公政権が強行した生活保護基準の引き下げという過ちをただす「見直し」である。
生活保護の基準は厚生労働相が定めることになっているが、その改定にあたっては、厚生労働省に設置された専門家による部会の検討を踏まえることになっている。
こうしたプロセスが重視されるのは、生活保護基準が憲法25条に基づいて政府が国民に保障する生活の最低限度(最低生活費)を示すラインになっているからだ。
政府にはすべての国民がこのラインを上回る生活を営めるように手当をしなければならない義務があるが、生活保護基準が恣意(しい)的に引き下げられてしまうと、従来のラインと新たなラインの間に制度の「空白」が生まれることになる。
単純化した例を言うなら、ある地域の単身者の生活扶助(生活保護の生活費に相当する部分)基準が7万円から6万円に下がれば、生活費が6万5000円しかない人は「支援すべき貧困状態にある」と見なされなくなり、制度の対象から外されてしまうことになる。
政治状況によって貧困の定義自体が変えられてしまうという事態はあってはならないため、生活保護基準の見直しは政治的思惑に左右されてはならず、科学的なデータに基づく専門的知見を踏まえて定めることになっている。
しかし、こうした貧困対策の原則を無視したのが安倍政権である。
「物価偽装」
2012年12月に成立した第2次安倍政権は、同年の衆院選における「生活保護費の1割カット」という自民党の政権公約を実行するとして、過去最大の生活保護基準の引き下げ(平均6.5%、最大10%)を強行した。
その引き下げの主な根拠とされたのは、2008年から2011年にかけて4.78%も物価が下落しているとする「デフレ調整」であったが、この「デフレ調整」は専門家部会の審議を経ずに、部会の報告書が発表された後に厚生労働省の事務方が独自に開発した物価指標を用いて実施したものだった。
「デフレ調整」では、特異な物価上昇があった2008年を起点にしていること、テレビやパソコン等、生活保護世帯が購入する機会が少ないにもかかわらず、物価下落率の大きい品目の影響が反映されるように設定されていたこと、物価の統計では通常は用いない計算方法を使っていたこと等、大幅な基準引き下げという結論に合わせる形で数字合わせが行われていた。このことは「いのちのとりで裁判」の関係者の間で「物価偽装」と呼ばれている(注)。
もしこの「デフレ調整」の手法を事前に専門家の部会に諮っていたら、科学的な検証に堪えうるものではない、と一掃されていたはずである。
厚生労働省としては表向きには「自民党の政権公約実現のために基準を引き下げた」と言えないため、専門家の目の届かないところで数字の方を合わせるという禁じ手を使ったのであろう。
熊本地裁での勝訴
今年5月25日、この「物価偽装」を断罪する判決が熊本地裁で言い渡された…
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からの記事と詳細 ( 断罪された「物価偽装」 「生活保護基準引き下げは違法」の衝撃 | | 稲葉剛 - 毎日新聞 )
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