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Thursday, September 23, 2021

ミモザに間違われた「ワトル」をめぐる世界最大の植物学論争 ─ DNA分析でわかった不都合な真実 - Newsweekjapan

ヨーロッパに渡って「ミモザ」となったオーストラリア固有種「ワトル」めぐって世界最大の植物学論争に!? (Credit:gaffera-iStock)

ヨーロッパへ渡り、間違えて「ミモザ」と呼ばれるようになってしまったオーストラリア固有の植物「ワトル」。その経緯は前回のコラムに書いた通りだ。

しかし、ワトルの不運は、名前を間違えられただけではなかった...

さまざまな角度から調査研究が進んだ結果、「ワトル」は植物学界隈で世界最大とも言われる論争に巻き込まれた。

「ワトル」という植物は、一体、何なのか?

ワトルなのか、それともアカシアなのか

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シドニー郊外の花屋でブーケとしてアレンジされた「ワトル」が、春の香りを漂わせる。(筆者撮影)

前回のコラムに書いた通り、ワトルの一種であるシルバー・ワトルの和名は「フサアカシア」という。その名前から想像できるように、「アカシア属」の植物であり、学名は「アカシア・ディールバータ」となっている。

つまり、「ワトル」は、アカシアの一属に分類され、「アカシア」とも呼ばれる。「アカシア」という言葉は、ギリシャ語の「ἀκακία (akakia)」に由来し、棘や針などの堅く先のとがった突起物を意味するそうだ。

「アカシア」といえば、日本では、アカシア属ではない北米原産の「ハリエンジュ(別名:ニセアカシア)」を「アカシア」と呼んでいたこともあるので、耳にする機会も多いはずだ。(参照

日本における「アカシア」という呼び名もまた、本来の名称ではないものが定着してしまった例のひとつだろう。

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埋もれてしまいそうなほどのワトルの花に囲まれた、フランス南部「ミモザ街道」にある町のサイン。(Credit:dvoevnore-iStock)

ここで注目すべきなのは、本来「アカシア」に属する植物は、オーストラリアだけでなく、アフリカやアメリカ大陸、東南アジアなどにも自生していることだ。その地元では、やはり「アカシア」と呼ばれていたりする。

オーストラリア以外のアカシア属の植物は、1753年に出版された植物リストに、既に掲載されていたが、その後、オーストラリアのワトルも含め、「アカシア属」として分類されていった。こうして、アカシア属の植物は、20世紀の終わり頃までにかけてどんどん追加され、その数が1,300以上に膨れ上がった。

1980年代半ば、クイーンズランド州の植物学者レス・ペドリーは、以前から蓄積され続けてきたアカシア属をオーバーホールする時期であると主張。アカシア属の植物を化学的な材質や種子、葉、花の構造などの特性から再分類し、3つの異なる属に分けた。しかし、この時は、豪国内の他州が追随しなかったため、中途半端なものになっていたようだ。

DNA分析でわかった同属であることの不都合

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植物のDNAを分析して品種を識別し、カテゴライズする。(Credit:metamorworks-iStock)

2000年代初頭に、再び、どれが本当の「アカシア」といえるのか?という議論が、植物学界隈で起こった。それは、世界各地のアカシア 属の植物をDNA分析した結果、実際には、少なくとも5つ(もしくは6つ)の別の属=グループであることが判明したからである。

分析結果に基づくと、主にオーストラリアに分布する大きな1つのグループ、そして、アフリカ、アジア、南北アメリカに分布する数百種の2つのグループ、南北アメリカに分布するもっと小さな(おそらく)3つのグループに分かれることがわかったのだ。

こうして、DNAに基づいて再分類した結果、どれを「アカシア」と呼んでいいのかわからなくなってしまった。なかでも、多くの種類のアカシアが自生し、文化的にも重要な植物となっているオーストラリアとアフリカで、どちらが「アカシア」と呼べるのか、という論争に発展した。(参照

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アフリカの草原でよくみられる「アカシア」と呼ばれる樹木。(Credit:guenterguni-iStock)

DNA分析により、オーストラリアとアフリカのアカシアは、遠い親戚関係にあることもわかったが、最後の共通の祖先は、超大陸ゴンドワナとして同じ大陸内にあった頃のものであり、今ではもう別のものとして扱うべきであると結論づけた。

こうして、現代のテクノロジーから得た情報を基に、植物学者たちによって分類が進められ、2011年の第18回国際植物学会議で、「アカシア」と分類できるのは、『オーストラリア・太平洋地区の1,075種、アジアとマダガスカルを合わせた12種』と決定。アフリカ、アジア、南北アメリカで見つかっている400種ほどの学名が変更された。(参照

10年も続いていた植物名論争がようやく解決・・・と思ったら、甘かった...

アフリカにおける「アカシア」は、文化的繋がりなどの観点から、アフリカのアカシアを改名することには大きな抵抗があるという。たしかに、ヨーロッパの「ミモザ」にしても、日本における「アカシア」の例をみても、地元文化として一度定着した名称は、そう簡単に変わるものではないし、変えられるものではないだろう。

こうした経緯もあり、また、この分類に異論を唱える学者もいることから、「アカシア」の分類について全会一致というわけにはいかず、いまだに小規模ながら議論が続いている。

その言葉の由来から「ワトル」という名称が適切なのかという疑問

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オーストラリア内陸部の先住民たちが、古来から食料としてきた「ウィチェッティ・グラブ」という芋虫も、ワトルの根元から採取する。(Credit:bennymarty-iStock)

文化的な繋がりという側面から見れば、ワトルも何千年も昔からオーストラリア先住民の生活に欠かせない植物だった。種や根は一般的な食料であったし、樹液は薬となり、幹や枝を使って槍や盾、ブーメランを作った。

ならば、オーストラリアのアカシアを豪国民にも馴染みのある「ワトル」とすればいいんじゃないか?とも思うのだが、この言葉が、古いアングロサクソン語の「ワトル」に由来するため、そう簡単な話でもないようだ。(参照

「ワトル」とは、英国人入植者が迅速に住宅を建てるために、(現在、ワトルと呼ばれている植物の)枝や幹を切って木枠に織り込んで作ったパネルのことをそう呼んでいたことから付いた名称だという。だとすると、先住民の人々にとっては、嫌なイメージがつきまとうのではないかという疑問が湧く。

では、ワトルではなく、本来、先住民の人々が呼んでいた名称にすればいいのではないか?とも思うが、数多くある部族がそれぞれ呼称をもっていて、まるで統一感がなく、これもまた難しそうだ。

本来は「アカシア」なのに、海外では「ミモザ」と呼ばれ、オーストラリアで一般的な名称である「ワトル」が、植民地時代を彷彿とさせてしまうとなったら、一体、なんと呼べばいいのか...

とりあえず、豪国内では「ワトル」が定着し、「ナショナル・ワトル・デー」を(これもまた常に議論の的になっている)「オーストラリア・デー」に代わる国民の日としてはどうかという動きもあるが・・・

まだまだ苦難が続きそうな「ワトル」。いやあ、植物って奥が深い!〈了〉

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