新型コロナウイルス感染症で7都道府県に緊急事態が宣言され日本でも緊張感が高まっているが、(おそらくは)日本と世界の未来を大きく変えるだろうこの“ブラックスワン”についてはもうすこし状況が落ち着いてから考えるとして、せっかく時間ができたので、ここでは遺伝学の世界を大きく変えつつある「エピジェネティクス」について備忘録的にまとめておきたい。
なお、以下の記述は主にリチャード・C・フランシス『エピジェネティクス 操られる遺伝子』(ダイヤモンド社)とティム・スペクター『双子の遺伝子 「エピジェネティクス」が2人の運命を分ける』(同)に拠っている。フランシスは神経生物学と行動学の博士号をもつサイエンス・ライター、スペクターはロンドン大学の遺伝疫学教授で、双生児研究の権威でもある。
遺伝子は同一でも後天的に遺伝情報が変化しているかもしれない
一卵性双生児はIdentical Twin(かんぜんに同一の双子)と呼ばれるように、ひとつの受精卵が分裂(多胚化)し、まったく同じDNAを共有してこの世に生を受けた。そのため最新のDNA検査でも、どちらのDNAかを特定できない。
ミシガン州の立体駐車場で女子大生が深夜にレイプされた事件では、膣内に残っていた精子のDNAが36歳のアフリカ系アメリカ人のものと一致することがわかった。男は以前、大学の陸上競技のコーチを務めていたが、別の犯罪で収監されたことがあり、このときにDNAサンプルを提出していたのだ。
事件はこれで一件落着と思われたが、じつは男には一卵性双生児の兄弟がいた。この事件が大きな話題になったのは、警察がどちらが犯人かを特定できず(DNA以外の証拠はなかった)無罪になったことと、この兄弟のどちらにも隣人である10歳と12歳の少女への性的暴行の前科があったことだ。
これは、一卵性双生児がよい意味でも悪い意味でもものすごくよく似ていることを示している。なぜならまったく同じ遺伝子を共有しているから――。
きわめてわかりやすい説明だが、そうなると次のようなケースはどう説明すればいいのだろうか。
ドロシーとキャロルは57歳になる一卵性双生児で、身長はどちらも173センチだが、体重には27キロの差がある。40代の頃、キャロルは初期の更年期障害で体重が57キロから70キロに急増したのを機に民間療法の栄養士を訪ね、グルテンフリー(乳製品と小麦製品をいっさい摂らない)食事療法を指導されて体重は60キロまで戻った。一方のドロシーは食事制限の必要を認めず、体重は87キロまで増えた。
姉妹のなんの変哲もない話と思うかもしれないが、じつは体重差がここまで大きく開く一卵性双生児はきわめて珍しい。身長と同じく体重の遺伝率はきわめて高いのだ。
同様に、一卵性双生児の一方だけががんになったり、統合失調症のような精神疾患を発症することもある。いったい二人のなにがちがっているのだろうか?
双子を研究する行動遺伝学では、個人のちがいを「遺伝」と「環境」に分け、さらに環境を「共有環境」と「非共有環境」に分割する。共有環境は家庭(子育て)のようにきょうだいを似させるちからで、非共有環境は学校や友だち関係のような独自の環境で、きょうだいを似させないようにするちからのことだ。
一卵性双生児はDNAが同一で、共有環境は2人をさらに似させるのだから、体重や病気のちがいは非共有環境で説明するしかない。ドロシーとキャロルのケースでは、キャロルがたまたま民間療法の栄養士に感化され、ドロシーがそうでなかったことで差が生じたのだ。
これも当たり前だと思うだろうが、しかし説明としてはじゅうぶんではない。姉妹は同一のDNAをもっているのだから、キャロルがグルテン(小麦)/ラクトース(乳製品)不耐性だとしたら、ドロシーも同じはずなのだ。ところがドロシーは小麦や乳製品に耐性があり、だからこそ自由に食べて体重を増やしたのだろう。
じつはこれまで、行動遺伝学は非共有環境(一卵性双生児をべつべつにするちから)をうまく説明することができなかった。だがエピジェネティクスの発見によって、まったく新しい理解が可能になった。ドロシーとキャロルの遺伝子は同一でも、後天的に遺伝情報が変化しているかもしれないのだ。その結果、キャロルだけがグルテン/ラクトース不耐性になったと考えれば、姉妹の体重のちがいがすっきり説明できる。このときの「後天的な遺伝情報の変化」がエピジェネティクスだ。
ここまでの説明で重要なのは、エピジェネティクスは「非共有環境」を説明可能にするのであって、遺伝率は変わらないということだ。体重の遺伝率70%、共有環境5%、非共有環境25%とすると、エピジェネティクスは25%の非共有環境の一部を説明するかもしれないが、そのことによって遺伝率(70%)は影響を受けない。
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April 09, 2020 at 03:01PM
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