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Wednesday, May 22, 2024

再び“開いた”「ポータル」。ニューヨークとダブリン、両側に立ってみてわかったこと - WIRED.jp

米ニューヨークとアイルランドのダブリンをライブ動画で結ぶ彫刻作品「ポータル」の運用が再開された。両方の都市で不適切な行為があったため、4日間閉鎖されていたのだ。

5月8日にお披露目されたポータルには何万人もの訪問者がやってきた。主催者によると、ポータルは「偏見や対立を超えて人々を結びつける橋」としての役割を果たすことが目的だという。

しかし、現代のテクノロジーに関連する多くの事例と同様に、すぐに問題が発生した。アイルランドのポータル利用者は、ニューヨークの群衆に9/11の映像を携帯電話で見せ、ニューヨーカーはジャガイモを振りかざした。ドラッグを使用したり、露出行為をしたりする人もいた。その結果、5月14日にポータルは閉鎖されてしまった。

5月21日、『WIRED』の記者2人が、再オープンしたばかりのポータルを訪れた。ダブリンのデイビッド・ギルバートと、ニューヨークのアマンダ・フーバーが、Zoomを通じてお互いを見るのではなく、巨大なスクリーンを通じて大西洋を越えて手を振り合った。以下、デイビッドとアマンダがダブリンとニューヨークのポータルの前で目にしたことを伝えてくれた。

ジェームズ・ジョイス像とエミネムの曲

デイビッド:ダブリンのポータルに現地時間の午後2時前に到着すると、このプロジェクトが始まったばかりの日々のことが思い出された。当初このプロジェクトは、悲惨な世界に一瞬の喜びをもたらしてくれたように感じられたんだ。地元の人や観光客がカメラの前に集まり、3,000マイル以上離れた場所にいる知らない人々に手を振っていた。一部の人々はビデオポータルの向こう側で家族や友人を探していたけれど、大多数の人々は知らない人と手を振り合うだけだった。それでもよかったんだ。人々は手を振り、笑顔を見せ、踊り、ニューヨークの通勤者の注意を引こうとしていた。そこでぼくは座り、ダブリンの人々が前評判に応えられるかどうかを見守っていた。

アマンダ:ニューヨークのフラットアイアン地区にあるポータルに現地時間の午前11時前に到着すると、いまはフェンスが設置されていて、人々が数フィート離れた場所に立つようになっているのに気付いた。これは主催者が導入した新しいセキュリティ対策の一環だ。誰かがポータルに足を踏み入れたりカメラをブロックしたりすると、ライブストリームが両側でぼやけるようになっている。その後の1時間、ポータルには常に30人ほどの人々が立ち寄り、手を振り、笑顔を見せ、YMCAやマカレナを踊っていた。犬を連れてくる人々や、一列になった幼稚園児たちも手を振っていた。

デイビッド:ダブリンのポータルは、ダブリンのメインストリートであるオコンネルストリートと歴史的建造物である中央郵便局の建物に面して設置されている。そこには、ひとりの“永久的な観察者”がいる。それはアイルランドの最も著名な作家であり、ダブリン小説の典型である『ユリシーズ』の著者、ジェームズ・ジョイスの像だ。でも、人々にインスピレーションを与えていたのはジョイスではなく、20世紀の米国のラッパーによる作品だった。白一色の服を着た女性がスクリーンの前で数分間静かに踊った後、振り返ってこう歌ったんだ。「音楽に身を委ね、瞬間をつかめ、絶対にそれを手放すな。一度のチャンスを逃すな。このチャンスは一生に一度しか来ない」。ジョイスとエミネムは自然な組み合わせには思えないけれど、ダブリンのポータルの前では、一瞬に身を委ねることが奇妙にもしっくりくるように感じられた。

アマンダ:ニューヨーク側のポータルではエミネムの歌詞は聞こえなかったけれど、集まった人たちは女性のエネルギーとダンスを楽しんでいた。音がなくても、人々は感情を伝えることができ、静かなパフォーマンスに注目していた。

デイビッド:アイルランドの警察は最終的に、このエミネムのトリビュートアクトを移動させることになった。ダブリンポータルアンバサダーのひとりが、自分たちはセキュリティ担当者ではないと明確に伝えながら、女性は何の害も及ぼしていないと話した。でも、そのアンバサダー(名前を明かすことを拒否した)は、前夜6時以降、少し荒れた様子があったと付け加えた。パブをはしごしていたグループが、ポータルを介したほかの人たちの交流を一時的に妨げたものの、すぐに正常に戻ったという。ポータルの再開に伴う対策の一環として、開放時間は東部時間の午前6時から午後4時(ダブリン時間午前11時から午後9時)までに制限されている。

ポータルは高さ3.4mで、重さは「数トン」だと主催者は説明しているけれど、使用されているカメラやスクリーンの技術についての詳細は提供していない。「(ポータルの背後にある技術は)絵を描くために使われるペンキのようなものなので、観客には結果に集中してほしいと思っています」とのことだ。

アマンダ:ニューヨーク側では、「I ‘heart’ Dublin」や「I ‘shamrock’ Dublin」と書かれたサインが配られ、ニューヨークとダブリンの間の友好的な雰囲気がつくり出されていた。ポータルで働いている人のひとりは、再開以来、問題は見られず、愛といいヴァイブスだけが広がっていると言っていた。

デイビッド:ダブリンで話を聞いたほとんどの人たちは、ポータルが閉鎖されたからといって、ダブリンやニューヨークの住民に否定的な評価を下すべきではないと言っていた。数人の行動に基づいて結論を急ぐべきではないという意見がほとんどだ。「ひとりの人が国全体を代表するのはやりすぎでしょう。人にはそれぞれの問題があるので、わたしは判断しないようにしています」とモーリス(名字は教えてくれなかった)は言っていた。ポータルプロジェクトの背後にいるアーティストのベネディクタス・ギリスは、ポータルがポーランドとリトアニアで問題なく3年間運営されているのには別の理由があると考えている。「新しい設置場所には(ポーランドとリトアニアの)10倍の通行量があり、何千もの人々が訪れます。また、リトアニアとポーランドはソ連という“監獄”で半世紀を過ごしたので、アイルランドや米国に比べて、ややおとなしめの文化があるとも言えます」

ビデオ通話にはない、不思議な感動

アマンダ:ビデオチャットが新しい技術ではないことを考えると、ポータルの魅力には驚かされる。世界の見知らぬ人とのチャットを人気にしたのは2000年代のOmegleやChatrouletteだ。いまでは、ニューヨークやダブリンの中心部に行かなくても、FaceTimeやZoomを使って大西洋を越えた親戚や友人に手を振ることができるようになった。ポータルのビデオフィードは非常にクリアで、遅延もないけれど、これはほとんどの人が自宅でもできてしまうことだ。でも、スクリーンに映った顔の群れのなかからデイビッドを探していると、何か新たな感覚があるように感じられた。知っている誰かを公の場で見つけることには、驚きと喜びがある。まるで300マイル離れた場所にいる友人にばったり出会ったような感じだ。

デイビッド:アマンダがポータルを通じてぼくの姿を見るためにやって来ることは知っていた。それにもかかわらず、彼女が画面に現れたとき、ぼくは群衆の一員のように感じて、所属意識を覚えた。ばかみたいに手を振りながら、同時にアマンダにSlackで「見てるよ」とメッセージを送っていた。ポータルの不思議な力の影響を受けていたのは明らかだった。

ポータルは現実世界での新しいつながりを生む可能性もある。ニューヨークにいる兄に手を振っていたダブリンの男性は、ニューヨークにいるある女性が自分に手を振っているのに気付いた。周りを見回すと、その女性の友人が自分の後ろにいるのがわかった。大西洋を挟んで、兄弟と友人たちはチャットし、笑い合い、連絡をとり合うことを約束した。友人たちが去った後、兄弟は手を振って別れを告げ、後で再びポータルで会うことを約束していた。

アマンダ:ポータルはニューヨーカーや観光客を引きつけていた。マディソン・ライガー(28歳)とローレン・レヴィット(23歳)は、近くのオフィスから昼休みに立ち寄ったと言う。ふたりは一緒に手でハートをつくり、ポータルの向こう側のジェスチャーに合わせていた。ポータルが遠くの人々とつながる素晴らしい方法であり、集まった人たちのポジティブな雰囲気を楽しんでいると言っていた。

デイビッド:ぼくがダブリンのポータルにいる間に訪れた数百人のうち、多くの人々はアイルランドで休暇中の米国人だった。その人たちは、自分の家が大丈夫かどうかを確認したかったのかもしれない。ロサンゼルスの写真家であるキーノ・ヴィランドは、娘に会うためにダブリンにいた。彼は、ポータルでの体験がニューヨークから誰かとビデオ通話をする以上のものだと感じたと言う。「(ポータルは)バーチャルなものですが、触覚的な対面の経験ができるように思います。サイズや形状が気に入っています。まるで本当にポータルを通り抜けるかのようです」

さらに多くのポータルが“開く”予定

アマンダ:ポータル前での集いは、とても心地よく、健全な雰囲気が感じられた。アリ・ザイブ(22歳)は、ポータルを見るためニュージャージー郊外から2度目の訪問をして、この日体験できてラッキーだと言っていた。先週は閉鎖されていたから。ザイブは30分以上滞在し、ポータルに魅了され、向こう側の人々に手を振り、ダブリンへの愛を示すサインを掲げた。「とても素晴らしいです。ニューヨークのほかの場所にも、もっと(世界のほかの都市とつながる)ポータルが欲しいです」とザイブは言っていた。

そして、さらに多くのポータルが設置されようとしている。「わたしたちの主な目標は、できるだけ多くのポータルを世界中に“開く”ことです」とギリスは言っている。「ポータルについての最大の誤解は、それがふたつの都市をつなぐものだということです。そうではありません。ポータルは、地球上の大小の都市を絶えず回転するフィードを通じて接続する彫刻のネットワークなのです」

ギリスは、この夏後半にニューヨークとダブリンのポータルが再び閉鎖されない限り、ヴィリニュス(リトアニア)とルブリン(ポーランド)と接続される予定であることを明らかにした。ニューヨークとダブリンの場所は、「不適切な行動」の結果として、現在は制限された時間でしか開放されていないけれど、ほかのふたつのポータルは24時間365日運営されている。

アマンダ:火曜日のニューヨークの人だかりを見ると、市内にもっと多くのポータルが欲しいという声が出てくるかもしれない。訪れる人たちが行儀良く行動し続けられるなら、ポータルは人々をつなぐ健全な方法となるかもしれない。

(Originally published on wired.com, translated by Mamiko Nakano)

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