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Sunday, July 30, 2023

異次元緩和始まる、黒田バズーカに懸念も=13年上半期・日銀議事録 - ロイター (Reuters Japan)

[東京 31日 ロイター] - 日銀が31日に公表した2013年上半期の金融政策決定会合の議事録では、2%物価目標の2年での実現を掲げ、「量的・質的金融緩和」を導入して大規模な資産買い入れに突き進む黒田東彦総裁に対し、複数の審議委員から政策効果のあり方や物価目標の位置づけ、資産買い入れの効果などについて疑問が投げかけられたことがわかった(肩書きは当時)。

 日銀が31日に公表した2013年上半期の金融政策決定会合の議事録では、2%物価目標の2年での実現を掲げ、「量的・質的金融緩和」を導入して大規模な資産買い入れに突き進む黒田東彦総裁に対し、複数の審議委員から政策効果のあり方や物価目標の位置づけ、資産買い入れの効果などについて疑問が投げかけられたことがわかった(肩書きは当時)。2014年1月、都内の日銀前で撮影(2021年 ロイター/Yuya Shino)

<異次元の金融緩和、理論面は岩田副総裁が支える>

12年12月下旬、第2次安倍晋三政権が発足。デフレ脱却に向け、安倍首相が大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」からなるアベノミクスを掲げたことで、歴史的な円高が進んでいた外為市場は円安トレンドに転じた。

異次元の金融緩和の推進役として、財務官出身でアジア開発銀行総裁だった黒田東彦氏が13年3月20日に総裁に就任。黒田氏は就任後初めての決定会合となった4月3―4日の会合で、「量・質ともにこれまでと次元の違う金融緩和を行う必要がある」と口火を切った。「できることは全てやる、すなわち戦力の逐次投入は避け、目標をできるだけ早期に実現するということを目指すべき」とし、具体的な達成期間として「私自身は2年程度の期間を念頭に置いている」と語った。

新体制を理論面で支えたのは、リフレ派の経済学者として知られる岩田規久男副総裁だ。日本に根付いたデフレ期待を打ち砕くためには「2年程度で2%のインフレ目標を達成し、その後も安定的に2%を維持するというコミットメントが必要であり、そのことをきちっと市場に伝えていくことで、金融政策のレジームチェンジが明確になる」と述べた。

その上で、インフレ予想とマネタリーベースの中期的な関係などを踏まえ、年間でマネタリーベースを60兆円―70兆円程度増やす必要があるとした。内田真一企画局長は、仮に長期国債を年間50兆円増やす前提に立つとマネタリーベース全体が60―70兆円超増えるという関係にあるとの試算を示した。

日銀は黒田総裁の前任の白川方明総裁の下で資産買い入れ基金を創設し、「包括緩和」を推進してきた。しかし、3月の決定会合では、包括緩和の枠組みは「賞味期限切れになりつつある」(白川総裁当時の山口広秀副総裁)との指摘が出ていた。固定金利オペで札割れが目立っていたほか、「残存3年以下の長国を買っていくということについても、実現できなくなるのは時間の問題」(山口氏)とされた。

4月会合では、国債買い入れ対象を40年債を含む全ゾーンに拡大。その上で、買い入れた国債の平均残存年限を3年弱から国債発行残高の平均並みの7年程度に延長した。

白井さゆり審議委員は「従来の発想にとらわれず、日本銀行の金融政策に対してかねてより寄せられてきた批判、例えば、インフレ期待を重視する有識者からの量の拡大が不十分との見解も取り込み、日本銀行が採り得る最大限可能な金融緩和をパッケージとして実施することで、2%の早期実現に対する揺るぎない意思を明確に示すことが重要だ」と述べた。白井委員は3月の会合で、長期国債の買い入れ年限を残存期間30年まで拡大することや保有国債の平均残存年限を4年程度まで長期化することを提案し、否決されていた。

4月会合で導入が決まった「量的・質的金融緩和」は、金融市場調節の操作対象を従来の無担保コールレート(オーバーナイト物)という「金利」からマネタリーベースという「量」の指標に変更した上で、マネタリーベースや長期国債・上場投資信託(ETF)の保有額を2年間で2倍に拡大し、2%の物価安定目標を2年間を念頭にできるだけ早期に実現することをうたった。

<新たな政策枠組みは「ギャンブル性強い」>

しかし、審議委員からは懸念も示された。佐藤健裕審議委員は「量を調節することでインフレ期待や現実のインフレ率を中央銀行があたかも自在にコントロールできるかのような考え方があるとすれば、政策効果のあり方について重大な誤解があると言わざるを得ない」と苦言を呈した。期待に働きかける価値はあるかもしれないが「効くか効かないか、いずれにせよギャンブル性の強い政策となることは覚悟すべき」とした。

2年で2%目標の達成を掲げる黒田総裁に対し、佐藤委員は「私個人は、2%の物価安定目標達成はそれほど容易なものとは考えていない」と述べた。

木内登英審議委員も、物価目標の達成期限を2年とすることに「私自身は慎重というか反対」と明言。同年1月に導入した物価安定目標が前提としているフレキシブルなインフレターゲットの考えとは相いれない部分があると指摘し、量的・質的金融緩和は2年間程度の集中対応措置と位置付ける議案を提出した。

石田浩二審議委員は50兆円の国債買い入れに賛成する一方で「これだけのことをやって2年間で2%ということだから、例えば、来年の今ごろは1年経過し2年目に入っているが、本当に効くのであれば、何がしかの効果が出て手応えがあるはずだ」と話し、「万が一、手応えがないというような時には、申し訳ないが私は見直しについて発言させてもらう」と注文を付けた。

<黒田バズーカ>

4月4日の決定会合後、黒田総裁は記者会見で「2」の数字がちりばめられたボードを用いて「量的・質的金融緩和」を説明した。決定は市場で大きなサプライズとなり、市場は急速な株高・円安で反応。その衝撃の大きさから「黒田バズーカ」と称された。

しかし、長期金利は不安定な値動きとなった。決定発表直後に10年金利は当時の史上最低水準である0.315%まで低下したが、その後は上昇に転じ5月下旬には1%を超えた。

決定会合では、複数回にわたって長期金利の上昇について議論が展開された。

森本宜久審議委員は5月の会合で「資産価格が上昇しているとは言え、実体経済への波及が明確となっていない中での名目金利の上昇は、先行きの持ち直しの動きに水を差すことにもなりかねない」と警戒感を示した。

木内委員は4月26日の会合で、債券市場の動揺について「市場が新たな均衡点を模索する前向きの動きとして、静観あるいは楽観していてはいけないのではないか」と主張。国債の大量購入に伴うイールドカーブ全体の押し下げ効果と物価目標の早期達成というコミットメントの間で、市場の期待は「分断が生じている」と述べた。

これに対して、黒田総裁は5月会合で、日銀の国債買い入れは金利の上昇を抑制する効果があるため「今後とも金融市場調節方針に従って実施していく中で効果がさらに強まっていくはずだ」と指摘。日銀としては「ボラティリティをリーズナブルな範囲に収束させて、長期金利が跳ね上がらないようにし、日本銀行が今後とも行っていく大量の国債買い入れによって、リスクプレミアムを圧縮し金利上昇を抑制する効果を最大限発揮させるようにしていかなければならない」と述べた。

<多弁の白川氏、黒田総裁は語らず>

白川氏は2月、4月の任期満了を待たずに総裁を退任すると表明した。

白川総裁の下で最後となった3月6―7日の決定会合で、白川氏は金融政策が行き過ぎると政府の財政政策に従属せざるをえなくなるリスクに警鐘を鳴らした。「財政ファイナンスをやる意思があるとかないとかという気持ちの問題ではなく、そのようになってしまうことをみんな懸念している」と述べた。

白川氏は総裁として、決定会合で時に厳しい口調で自説を展開し、審議委員と議論を戦わせた。この会合の最終盤でも中銀のあるべき姿を説き「演説するつもりは全くなかったのだが、ついつい言ってしまった」と述べた。

これに対し、13年上半期の議事録を見る限り、黒田氏は決定会合での発言回数が少なく、自説を長々と展開する場面は見られない。

2%物価目標を2年で達成するため、量的・質的金融緩和に着手した黒田日銀だったが、海外経済の減速や市況変動などで2%目標は2年では達成されなかった。黒田氏は今年4月まで総裁を務め、在任期間は歴代最長となったが、物価目標の持続的・安定的な達成はいまだに実現していない。

(和田崇彦、杉山健太郎)

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