グッドイヤーの新しいオールシーズンタイヤ 、“ベクター4シーズンズジェンスリー”については、以前、雪道でのレポートを行なった。そのモデルを、アスファルト路面で試乗してみた。今回の試乗では、すでに発売されている“4シーズンズハイブリッド”との比較まで可能だったので、その模様をレポートしよう。
グッドイヤーがオールシーズンタイヤラインナップを増強
このオールシーズンタイヤの立ち位置だが、“ベクター4シーズンズ”は、グッドイヤーの乗用車用モデルだ。グッドイヤーはM+Sとして世界で初めてドライ路面から雪道までに対応した、オールシーズンタイヤを開発し市販したメーカー。そのタイヤの開発の実現によって、北米では乗用車へのオールシーズンタイヤの標準化が進められた。ある意味、グッドイヤーのオールシーズンタイヤが1年中タイヤを変えなくてもいいという、現在まで続く北米の常識をつくり出した。
オールシーズンタイヤは、夏タイヤを基本に雪道での走行も可能としたタイヤで、この点で雪道を基本としたスタッドレスタイヤとは特性が異なる。スタッドレスタイヤは、雪道やアイスバーンでのベストの特性を持っているので、その代わりにドライ路面での磨耗が多めで、排水性能や絶対的なブレーキ性能も低めとなる。対するオールシーズンタイヤは、ドライ路面での耐摩耗性、排水性を確保した上で雪道を走行可能としたタイヤ。M+Sマークの他にスノーフレークマーク(山の中に雪の結晶のある印)を装備するグッドイヤーのオールシーズンタイヤは、冬用タイヤ規制のある道をそのまま走行することができる。
これまで乗用車用としては“ハイブリッド”を名乗るモデルがオールシーズンタイヤの看板を背負ってきたのだが、今期より登場するのが“ジェンスリー”というモデルだ。実は“ジェンスリー”は“ハイブリッド”の後継という位置付けではなく、その上のプレミアムモデルとなった。今後も“ハイブリッド”はベーシックモデルとして販売され、乗用車用は2つのモデルによる幅広いラインナップを有したことになる。加えて“ジェンスリー”にはSUV向けの“ジェンスリーSUV”が新登場、継続販売されるミニバン&SUV用の“アシュランスウエザーレディ”とともにこちらもワイドレンジ化された。そしてバンやライトトラックといった商用車向けには“4シーズンズカーゴ”も新たに登場するという具合に、オールシーズンタイヤの包囲網を拡大する体制を整えた。
最新の“ジェンスリー”という名前の由来だが、それ以前に2世代目となる“Gen2”というモデルが欧州で発売されていた経緯があったという。ところが、“Gen2”発売に相当する時期に日本では日本の環境にベストマッチの製品として“ハイブリッド”がフィーチャーされた。そのために“ジェンツー”という製品は、日本ではある意味“欠番”となったのだという。
ウエットでの安心性能をさらに高める
そんな最新モデルとなるジェンスリーだが、まずはクローズドの敷地内で従来モデルとの比較を、スラロームとウエットでのフルブレーキングのテストが設定されていた。それも、幸いなことに当日は雨となりオールシーズンタイヤ をテストするにはベストの状態となった。
雨天状態のスラロームで、比較車として用いたのは日産リーフ。最初の切り始めこそ大差はないが次の切り返しからは、初期の段階から食いつき具合に違いが見られた。“ハイブリッド”ではフロントが少し外に流れていく動きを示したのだが、“ジェンスリー”では切り始めからリニアの応答感が続き安定感ある切り返しが可能だ。この差はかなり大きく雪道での比較以上に驚きの部分でもあった。とはいえ“ハイブリッド”の方も、グリップを失った時点でアクセルを緩めていけば、緩やかにグリップが回復する特性を持っており好感触。グリップが抜けたきりになる時間が長くないところに、オールシーズンタイヤとしての基本性能の高さを感じる。
ブレーキテストは、乗用系ではトヨタ・カムリを使用。SUVではトヨタ・ハリアーで行なった。70km/h程度からのフルブレーキを行ない、60km/hから完全停止までの制動距離と、減速GをGPSによるデータロガーで3回ずつ測定。
その平均値を記すとカムリでの“ハイブリッド”が19.6m、“ジェンスリー”が17.9m。ハリアーの“アシュランスウエザーレディ”が19.2m、“ジェンスリーSUV”が17.9mという結果になった。 制動テストは、ブレーキペダルを思い切り蹴りつける試験となるのだが、ともに制動距離は7-8%ほど短縮されていることがわかる。この差は体感としてはあまり感じにくいが、どちらとも実感するのはABSがすぐに介入することなく路面に食いつくように止まろうとする頼もしさだ。最大限速度で比較してみると、“ハイブリッド”で0.8G、そして“ジェンスリー”では0.9Gを超える(!)データを得ており、数字的には確実な進化が見て取れる。
スラロームについても同様なのだが、テストフィールドがもともと駐車場だった場所であり、アスファルト路面ではあるものの一般公道よりも舗装が簡易で特に降雨時の摩擦係数は低いエリアだった。そんなことから考えると、一般的な夏タイヤに遜色のない性能が担保されているように感じられた。一般的な経験値でしかないが、同条件に近い公道でのスタッドレスタイヤのパニックブレーキを思い出してみると、もっと早くABSが介入した記憶もあり舗装路上での信頼感は、こちらの方がかなり上に感じられた。
普通にドライブを楽しめるタイヤ
ここからは一般公道での“ジェンスリー”の特性を見ていこう。このステージも基本はウエット路面となった。
まず思い出しておきたいのが、2月に行なわれたオールシーズンタイヤの雪道試乗の印象だ。主にFFのカローラフィールダーでのテスト走行となったが、やはり大前提としてはスタッドレスタイヤではないことだ。
一般的な雪道であれば、その信頼性は非常に高いのが昨今のスタッドレスタイヤ。圧雪からミラーバーンのような極度に滑りやすいアイス路面も、チェーンに次いでハイレベルにこなせる。そんなスタッドレスタイヤ対しては、絶対性能的には及ばないことは念頭に入れておく必要がある。
しかし、絶対的な性能はともかく、ごく普通に走り止まるという中においては、何の不都合もないというのが“ジェンスリー”の雪道での走行性能だ。特に4WDのSUVに履かせてしまえばなおさらだった。唯一そんな一般的なシーンでもスタッドレスとの違いがあるのは、氷上性能だ。氷の張った湖上に設置されたコースは、車から降りて立ってみると車体に手をついていないと歩けないほどの滑りやすさ。夏タイヤだったのならば、まったく立ち往生という状況だが、この状況下で2WDの場合でもそっとアクセルを操作すればトラクションコントロールを効かせずにかろうじて走ることができるレベル。スタッドレスならもう少しマシに走ることができるかも、という感じだ。
そんな雪道性能を持っているタイヤが、ウエットのアスファルトでスラロームやフルブレーキテストで安心な性能を見せてくれるとなると、一般路での走行にも大きな期待がもたれる。
路上に出てみると驚くのが静かさだ。スタッドレスでアスファルトを走ると、少なからずロードノイズは高まるがこちらはそれほどのネガがない。もちろん舗装路上を主なフィールドとするオールシーズンタイヤであれば、ここは譲れないところでもあるだろう。
それ以上にメーカー内での計測では、既出のオールシーズンタイヤ“ハイブリッド”に比較してもパターンノイズ、ロードノイズは大きく低減されているという。
また轍の乗り越えや水たまりへの侵入などで、スタッドレスユーザーが自然とやってしまう「身構え」をする必要もない。一般道の走行では、こうしたシーンでのステアリングを取られる現象もほとんど感じられなかった。
スタッドレスタイヤでは、山から降りて雪が溶け始めた水たまりの通過は特に気になる部分。ここを油断してハイペースで通過してしまうと、タイヤが路面から浮いてしまい一瞬、何の操作もできなくなってしまった……といった、ヒヤリの経験をしたことのある人もいるのではと思う。この部分に関しては、明らかにオールシーズンタイヤに軍配が上がる。
また、高速道路に入っても快適な印象は変わることなく、ロードノイズはサマータイヤよりやや立ち上がる感じはあるが極端ではなく不快には感じない。また、レーン内でわずかにステアリングを動かすことでの進路補正などでも、神経質になることはない。
様々な一般道を通して感じることは、この“ジェンスリー”というタイヤは走り込むに連れて存在感がなくなっていくということだ。つまり、何も気にならなくなるということ。一般道を走行したのはホンダ・シビックだったのだが、シビックのしなやかな乗り味や、素直なハンドリングを普通に楽しめてしまう。つまりは、このタイヤがクルマと路面の間で何のノイズにもなっていない。
オールシーズンタイヤは決して魔法のタイヤではないが、自分自身の走行パターンなどを考えると、こちらでもいいのではないか。と思える人も少なくないはず。スタッドレスとの2セット持ちか、1セットでこなすか? 一考の価値はあると思う。
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