
「今の事態を招いたのは全部、僕のせいなんです。わかってはいるけれど……」 そう言って苦悩の表情を浮かべるのは、渡辺尚哉さん(52歳・仮名=以下同)だ。2歳年上の妻と結婚して23年、21歳になる大学生の長女と、19歳の専門学校に通う長男がいる。妻は手に職があり、バリバリと働いている。 「今の事態」とは妻との家庭内別居状態のことだ。もともと夫婦の間は淡々とした関係で、大きなケンカさえしたことがないという。忙しかったからなのか、心が行き交っていないのか。そう問うと尚哉さんは「後者かも」と小声で言った。 「子どもたちが小さかった数年間、専業主婦をしていたこともありますが、妻は基本的に働くのが好きなんですね。下の子が2歳のころかな、保育園に入れるから今後は働くと宣言されて。僕は共働き家庭に育ったので、本当は妻に家にいてほしかったけど、それは無理強いできない。僕自身は会社人間にならざるを得なかったので、妻は本当に大変だったと思います」 唯一の不満は、夜の生活に妻が消極的だったこと。下の子が生まれた翌年、想定外の妊娠がわかったとき、妻は「生みたくない」とつぶやいた。年子で3人目。先のことを考えると不安が募ったのだろう。 「僕も多少動揺しましたが、でもせっかく宿った命。がんばって育てていこうと妻を励ましていたんです。でもその後、流産しまして。妻は『私が産みたくないって言ったからだ』と自分を責めました。あの時期は妻も辛かったでしょうけど、僕自身もどうしたらいいかわからなかった。結局、妻の母に1年ほど来てもらい、徐々に気持ちが落ち着いていったようです。僕では埋められない妻の心の傷を感じ、夫婦はやはり他人なんだなと実感したできごとでした。そしてそれ以来、妻は夜の生活には応じなくなったんです」 しかたがないと思いながらも、尚哉さんは寂しかった。妻が険悪な態度をとっていたわけではない。ごく普通の日常生活を送り、ごく普通に会話も交わす。妻は感情を露わにしないから、第三者からみれば「穏やかな女性」に見えるだろう。現に近所では「仲のいい夫婦」と言われているそうだ。 「でも仲がいいというよりは感情的にならない関係なんだと思います。僕はいつも妻に諦められている気がしてならなかった」 夫に何も期待しなくなってから、夫婦仲がなごやかになったと話す女性もいる。社会的な立場として夫婦であること、子どもたちの親であることに徹すれば、必要以上にお互いの心に踏み込まなくても日常生活は回っていく。 「ときどき風俗に行ったりバーで出会った女性と行きずりの関係を結んだり。30代はそんなことをしていましたね。子どもたちと遊ぶのは楽しかったし、よく家族で出かけたりもしましたが、心の底ではいつもむなしさを感じていた。いちばん身近な他人であるはずの妻との関係について、このままではいけないという思いがあったから。だけど妻の心をどうやって溶かしていいかわからなかった。一見、うまくいっているだけに、下手に踏み込んで平和な家庭を乱すのも怖かったんです。子どもたちにも影響するだろうし」 人に相談してもどうなることでもない。ただ、高校時代から親しくしている友人・ユウイチさんにだけは愚痴混じりに話していた。 「ユウイチには何でも話せますね。高校時代、同じサッカー部で一緒にがんばった仲だし、20代になってからもいろいろあって」 そう言って尚哉さんは含み笑いを漏らした。実はユウイチさんの妻のキョウコさんは、最初、尚哉さんが目をつけていた女性だった。 「大学3年生のころ、ふたりで飲みに行ったバーにキョウコが女友だちと来ていたんです。ここで別れたら二度と会えないと思ったから僕がナンパして4人で飲んだ。その日はキョウコ、僕のアパートに泊まったんですよ」 だが幸か不幸か、ふたりとも性経験がなかったため、「がんばったけどできなかった」そう。その後、恥ずかしくて、キョウコさんに連絡する意欲を失った。そしていつしか、キョウコさんはユウイチさんとつきあうようになっていた。ユウイチさんも薄々わかっていたらしい。 「実はキョウコとつきあっていると彼は白状して、『ごめんな』と言ったんです。内心、少しモヤモヤしたけど、誰とつきあうかはふたりの意志ですからね、しかもふたりはお似合いだった。だから祝福したんです。ふたりは27歳のときに結婚しました。その後、僕も結婚したし、ユウイチ夫婦と僕の間にわだかまりはなくなったと思っています」
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