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Thursday, May 27, 2021

e:HEVをレーシングカーにしてわかったこと【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第8回】 - Goo-net(グーネット)

車の最新技術 [2021.05.28 UP]

e:HEVをレーシングカーにしてわかったこと【石井昌道の自動車テクノロジー最前線 第8回】

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文●石井昌道 写真●ホンダ

 年に一度楽しみにしているのが夏にツインリンクもてぎで開催される「もてぎEnjoy耐久レース(通称Joy耐)」。ハコ車を使った7時間耐久レースで、アマチュア向けとしては規模が大きく参加台数も多いが、コストをあまりかけない配慮がされているので人気となっている。

 このJoy耐に、同業者の仲間とともにTokyo Next Speedというチームを組んで参戦しているのだが、モータージャーナリストという職業柄、普通にレースをするだけではつまらないということから、ハイブリッドカーなど次世代パワートレーンで出てみようということをテーマにしている。以前はインサイトやCR-Zなどを使っていたものの、ここ数年は好ましいベース車両を入手できなかったのだが、昨年フルモデルチェンジしてハイブリッドシステムが変更されたフィットe:HEVを手に入れ、参戦を決意した。Joy耐特有のルールとして、給油時は10分前後停止しなければならないので、燃費が良ければ速いエンジン車に対抗できる可能性があり、そこに興味を惹かれているわけだ。2020年7月に予定されていたJoy耐はコロナ禍の影響で中止となったが、11月のミニJoy耐(2時間耐久レース)は開催されたので出場できた。

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ハイブリッドカーをサーキットで走らせてわかった問題点

フィット ハイブリッド レース仕様

フィット ハイブリッド レース仕様

 フィットのハイブリッドシステムは前回解説したe:HEV。エンジンが発電して、その電量でモーターを駆動するシリーズ式ハイブリッドが基本となっている。エンジンが直接駆動するモードも持っているのが賢いところではあるが、高速域・低負荷時に限られているのでいまのところはサーキットでは役立つ場面はない。

 ハイブリッドカーをサーキットで走らせると、一般公道ではまず起きない問題が持ち上がってくる。まずは熱で、全開走行を続けるとバッテリーやモーターを含む電気系が熱くなり、一定以上になるとシステムを保護するためにフェールセーフが働いて遅くなってしまうことだ。こういった問題は、自動車メーカーのエンジニアでないと手を出せないこともあって、フィットe:HEVでの参戦を決めたときにHondaのフィット開発チームに協力をお願いしていた。じつは、こちらが想像していた以上に積極的に関与してくれているのだが、先代モデルまで存在していたスポーツモデルのRSが現行モデルではなくなってしまったこともあり、e:HEVでスポーツモデルを造るとしたらどうするべきか、というスタディの意味もあって本気になっているのだ。だから、普通には造れないクルマになってしまっているが、このレースからのフィードバックがe:HEVスポーツモデルを開発する動機付けになって、こういったモデルを待っている人たちに貢献できることに繋がれば嬉しいと思っている。

 熱問題に対しては、室内のエアコン吹き出し口からダクトを引っ張ってバッテリーに直接導いているほか、細かい箇所にも対策することで、いまのところ問題は起きていない。ただし、涼しい11月は大丈夫だったが、次に走らせるのは夏なのでさらなる冷却強化が必要になるかもしれない。エンジン車でもサーキットを連続走行するならば、エンジンのラジエターの大型化やオイルクーラーの新設、エアインテークの拡大などの必要があるが、ハイブリッドカーではまた別のところで冷却が求められるのだ。

 もう一つの問題は、サーキットで全開走行を続けるとバッテリーのSOC(State Of Charge=充電状態)が下がってきて電気アシストが効かなくなり、遅くなってしまうことだ。

 フィットe:HEVのエンジンの最高出力は98馬力でモーターは109馬力。アクセルを全開にしてもエンジンの発電だけではモーターを最高出力で回すことができないので、そこはバッテリーからの持ちだしで補うことになる。ハイブリッドカー用のバッテリーはそれほど大きくないから、サーキットで走らせるとあっというまにSOCが下がってエンジンの98馬力分以上に速くは走れないのだ。一般公道だったらそこまで急加速を求める機会は滅多になく、あったとしても短時間なのでまったく問題ないが、ツインリンクもてぎを走らせるとコースの中ほどでSOCが下がってしまい、全開では1周ももたない。

 そこでエンジンのパワーをあげること、通常よりもエンジン回転数を高めること、回生をなるべく多くとることなどで、発電量を高めてSOCの低下を抑制する制御を試みている。

 テスト走行では、まず市販車と同じ制御で走り始めたところ2分40秒というラップタイムだったが、制御を変更することで2分33秒にまで縮まった。SOCは市販車制御では平均14%程度だったところ、レース用制御では23%程度まで高まっている。それだけバッテリーからのアシストが効いてモーターの最高出力まで使える頻度が高まっているわけだ。7秒のタイムアップはなかなかに凄いことではあるのだが、じつはまだまだ遅くて、レースで上位にいくのは難しい

あくまでもe:HEVらしいスポーツモデルを目指して

フィット ハイブリッド レース仕様のステアリングを握る石井氏

フィット ハイブリッド レース仕様のステアリングを握る石井氏

 ミニJoy耐の成績は参加台数31台中、予選25位/決勝11位。決勝では燃費の良さをいかして、よく追い上げたほうではあるが、やはり肝心の速さが絶対的に足りないのだ。想定では予選で2分22秒、決勝で2分25秒程度まで持っていかないと、上位入賞などはできそうもない。さらなるタイムアップを目指して様々な案が出ているが、今年の6月26日、27日のJoy耐に向けては、もう少し細かく制御を煮詰めていくこと、ライトな範囲だがエンジンのパワーアップ、シャシー側のセットアップ、軽量化などで挑むことになる。楽しみではあるものの、正直なところ11秒アップは見えていない。エンジンにターボを付けてしまうなど大がかりなモディファイが必要かもしれないが、そこまですると別物になってしまうし、そんなコストもないので、あくまでe:HEVスポーツモデルに向けた現実的な範囲でどこまでいけるかを試してみようと思う。

 今後もテスト走行やレース本番で興味深いことがあったら、報告させていただきたい。

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車ジャーナリストの石井昌道氏

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。次回のテーマは「カーボンニュートラルを意識した家庭用充電サービス」です。どうぞお楽しみに!

グーネット編集部

ライタープロフィール

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クルマの楽しさを幅広いユーザーに伝えるため、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど 様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。 みなさんの中古車・新車購入の手助けになれればと考えています。

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