電話は通じず、メールも読まれない中、エンゲージメントを高めるには?
2020年08月03日 11時00分更新
中堅・中小企業向けマーケティングソフトウェアを提供するHubSpotは、2020年1月~3月までの3ヶ月間と、その後の4月~6月の3ヶ月間の同社ソフトウェアの利用状況を基にしたビジネスの変化をまとめた。HubSpot Japan 共同事業責任者シニアマーケティングディレクターの伊佐裕也氏が説明した。
Webやチャットは活況だが、電話は通じず、営業メールも読まれない
HubSpotでは米国本社主導で、全世界7万社以上のHubSpotユーザー企業のデータを匿名化・基準値化し、コロナ禍にマーケティングや営業活動にどのような変化があったかを情報提供してきた。4月から毎週データを公開しているが、今回の発表はそれらをまとめたものとなっており、大きく2つの内容に分かれている。
1つは今年4月~6月の3ヶ月間(Q2)が、その前四半期である1月~3月の3ヶ月間(Q1)と比べてどう変化したのかを示した「四半期比較」のデータで、もう1つは、今年1月13日~3月2日の週次データの平均値(ベンチマーク)に対して、それ以降がどう変化したのかをみる「対ベンチマーク」のデータだ。
まず顕著だったのが、営業担当者がかけた電話本数の減少だ。前四半期比16%減と大きく減った。これは、グローバルでも3月以降ロックダウンが広がり、4月は日本でも緊急事態宣言が出されて企業に出社する人が激減したため、電話による連絡が困難になったためとみられる。逆に企業のWebサイトへのアクセスは対前四半期でグローバル16%、日本では13%増加し、対照的な変化を見せている。
その一方で、マーケティングEメールの利用は急拡大している。対前四半期でグローバル21%増、日本ではなんと149%も増えている。開封率もグローバルで9%増加したことから、メールの効果も再認識された。
電話に変わるコミュニケーションの手段として、企業が期待を寄せるのがチャットツールだ。Webサイト上のチャット機能や、SNSからの問い合わせを収集し、迅速に対応することで顧客とのコミュニケーションを維持する。チャットの利用は対前四半期で31%増と大きく伸びている。
また、この間にマーケティング目的だけでなく、営業担当者が送信したEメールの件数も、前四半期比44%も増加している。だが、そのメールに対する返信率は同24%減と、反応が悪い。「マーケティングEメールへの反応は上がっていたが、営業と顧客の間のエンゲージメントは下がっていることがわかった」(伊佐氏)。
その結果、営業部門の取引成約数の低下も確認されている。対前四半期で11%減、「一時はベンチマーク比で36%も減少した。マーケティングチームのエンゲージメントは高まる一方で、営業チームの業務は一時的に大きく低下したことがわかる。そこから全業種では回復傾向にあるが、旅行業やエンターテイメント業界などでは、引き続き厳しい状況が続いている」(伊佐氏)。
Webサイトにチャットの機能を加えるのが有効
これらのデータから、伊佐氏は3つの変化に対する提言を述べた。「まず、買い手、売り手ともオンライン上の活動が活性化した。企業はこの変化に対して、オンラインで見つけてもらったあとの見込み客へのマーケティング活動に適切につながる仕組みで対応するのがおすすめだ。たとえばWebサイト上の問い合わせフローの整備、営業部門への引き渡しフローの整備やダウンロードコンテンツの作成などが有効だ」(伊佐氏)。
2つ目は、新しい情報収集チャネルとして、企業のチャットが存在感を増してきたこと。これについては企業Webメディアやオウンドメディアへのチャットの設置や、SNSからの問い合わせを取りこぼさないことが有効だという。HubSpotのユーザーであれば、Webサイトに無料でチャット機能を追加することもできる。企業のWebサイトに手を入れるのが難しい場合は、Facebookページやツイッターの積極運用などが効果的だ。
そして3つ目の営業メールの効果が下がっている問題に対しては、営業コミュニケーションの質を向上することが必要だと言う。「営業部門がコロナで受けている影響は企業ごとに異なる。例えば商談数の確保が必要であれば、ツールを導入して営業部員のマニュアル作業を極力減らし、生産性を向上させる必要がある。逆に、オンラインからの見込み客が急増して、営業部員の対応が追いつかない状況であれば、見込み客の状況を分解し、それぞれの状況に合わせて対応できる体制を作る。そうすることで質を担保しながら多くの顧客に対応できる」(伊佐氏)。
問い合わせの急増に対応する企業事例
次に、HubSpot Singaporeのカスタマーサクセス・サービス マネージャーである豊倉 濃氏が、日本のHubSpotユーザー企業の中から、3社のコロナ禍の対応事例を説明した。
飲食店向けのモバイルオーダーのプラットフォームを運営する「Showcase Gig」は、自社のオウンドメディアで飲食店向けのコロナ対策コンテンツを積極的に発信した。その結果、「非接触」「テイクアウト」などのキーワードからのアクセスが増加し、問い合わせがコロナ前と比べて10倍に増加した。急増した問い合わせを商談、成約につなげるために、HubSpotのマーケティング機能を追加導入し、情報の一元化とフォローアップを実現している。
Bitisは、企業のBCP対策を支援するサービスを提供する企業だが、コロナで自社の社員も出社ができなくなり、無人になったオフィスの固定電話にかかってくる問い合わせへの対応ができなくなった。そこでWebサイトにチャットボットを構築して、取りこぼしをカバーする仕組みを構築。ブログに掲載したBCPに関するコンテンツからの問い合わせにも対応できるようにした。
企業の労務管理のサービスを提供するFlucleは、コロナ禍でサービスサイトに掲載した休業手当の計算方法などの記事へのアクセスが4.6倍に急増し、そこからの見込み客への対応が難しくなった。そこでHubSpotによって見込み客のステージを自動分類し、状況ごとに最適な対応をとることで営業効率と成約率向上を目指している。
日本法人は国内SaaSとの連携を強化
続いて、HubSpot Japan 共同事業責任者 セールスディレクターの伊田聡輔氏が、HubSpotの事業状況と日本法人の今後の取り組みについて説明した。
HubSpotは2006年に米国ボストンで創業、順調に業績を伸ばしており、世界120カ国、7万8000社以上の顧客企業を持つ。2014年に株式を上場以来、グローバルで年平均41%の成長を続けており、直近の時価総額は100億ドルに達している。日本法人は2016年に設立、単独の売上高は公開していないが、直近の顧客数は前年比80%増加しているという。
伊田氏は、同社の成長の特徴は、米国以外の事業の伸びにあると話す。「2014年の上場時点では、米国以外の売り上げは2割ほどだったが、2020年第一四半期は4割を超えている。米国以外の年平均成長率は59%と急拡大している」
マーケティングソフトウェアからスタートしたHubSpotだが、現在は営業管理・顧客管理やサービス、コンテンツ管理の機能を加えた統合型の製品となっており、全部まとめてでも、個別でも導入が可能となっている。また小規模企業だけでなく、中堅企業や、従業員1000人以上の大企業にも導入が進んでおり、既存の業務アプリケーションとの連携も拡大している。すでに500以上のアプリケーションと連携し、日本でもfreeeやsansanといったクラウドと連携する。
「HubSpotは、製品のすべてに『買い手=インバウンド』の思想が注入されている。一般的な営業、マーケティングのツールは全て、企業側、つまり『売り手の最適化』のためのアクションを指示したり、処理を自動化するマーケティングオートメーションなどを提供している。だがHubSpotは、その逆で、買う側の最適化を目指して設計されており、買い手の行動に合わせて、次の行動を自然に誘導できる施策を打つためのツールとなっている」(伊田氏)
伊田氏は今後の国内事業の注力領域について、日本主導の製品連携、パートナーの多様化、ユーザーインターフェースや教育コンテンツのローカーライゼーションを挙げる。「日本のソフトウェア業界は独自のエコシステムを持っている。日本でビジネスを拡大にするには国内のソフトウェアとの連携をさらに強化していく必要がある」とした。
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August 03, 2020 at 09:00AM
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