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Friday, July 5, 2024

「クラウンクロスオーバー」を1800km乗ってわかった美点と不満点を本音でレビュー - 価格.comマガジン

2022年、トヨタから16代目となる「クラウン」がデビューした。現行「クラウン」には、クロスオーバー、ハッチバック、セダン、SUVとさまざまなボディタイプが存在するが、今回は「クラウンクロスオーバー」に乗って3泊4日、東京から広島まで1,800kmほどの長距離を走行したので、乗り心地や燃費、ラゲッジの使い勝手まで、さまざまな角度からレビューしてみたい。

「クラウンクロスオーバー」で道中に立ち寄った岡山県津山市の古い町並み

「クラウンクロスオーバー」で道中に立ち寄った岡山県津山市の古い町並み

走りを重視したハイパフォーマンスグレードの「RS」

今回、試乗したのは「クラウンクロスオーバー」の中でも最もスポーティーなグレードの「RS」だ。パワートレインは、2.4L直4ターボエンジンにフロントとリアのモーターを組み合わせた「2.4Lデュアルブーストハイブリッドシステム」。システム最高出力は、257kW(349PS)。駆動方式は、電気式4WDシステムの「E-Four Advanced」だ。

「RS」グレードは、リアに80.2PSを発生させる大出力のモーターが組み込まれており、走行状態に合わせて前後輪トルク配分を100:0〜20:80の間で制御。発進時などはピッチングを抑え、コーナーリング時は操縦安定性を向上させているという。

「クラウンクロスオーバー」のボディサイズは、全長4,930mm×全幅1,840mm×全高1,540mmと、最近の機械式駐車場に収まる大きさに抑えられている。車重は1,910kgと重量級だ

「クラウンクロスオーバー」のボディサイズは、全長4,930mm×全幅1,840mm×全高1,540mmと、最近の機械式駐車場に収まる大きさに抑えられている。車重は1,910kgと重量級だ

ヒップポイントはやや高め

「クラウンクロスオーバー」は、全高を比較的抑えたようなエクステリアでありながら、(地面からシートまでの)ヒップポイントはやや高めに設定されている。

最低地上高は145mm。たとえば、セダンの代表例として日産「スカイライン」をあげると130mmなので、「クラウンクロスオーバー」のほうが15mm高い。そして、全高も「スカイライン」の1,440mmよりも10mm高い1,540mm。そのため、最低地上高の高さがヒップポイントの高さにも影響している。

「クラウンクロスオーバー」のヒップポイントは高めなのだが、室内の頭上高はそれほど犠牲になっておらず、頭周りの狭苦しさなどもそれほど感じられなかった

「クラウンクロスオーバー」のヒップポイントは高めなのだが、室内の頭上高はそれほど犠牲になっておらず、頭周りの狭苦しさなどもそれほど感じられなかった

強烈な加速Gと安定性の高いコーナーリング

ここからは、ゆっくりとアクセルを踏み込んで349PSを解き放ってみよう。たとえば、高速道路の料金所などからのスタートダッシュで流れをリードするのは実に容易く、アクセルペダルを半分も踏み込めば事足りる。そして、さらに踏み込んでいくと、加速Gによって背中がシートバックに押し付けられていく感覚とともに、恐ろしい勢いでメーターが制限速度を超えようとする。

いっぽう、そのときのクルマの走行安定性は非常に高く、タイヤが地面をしっかりととらえてくれて、路面の影響などで進路を乱すような振る舞いは一切見られない。これは、「E-Four Advanced」による4輪制御が非常に緻密かつ適切に機能しているからだろう。

また、コーナーリングも非常に安定している。巨体にもかかわらず、すいすいとまるで泳ぐかのようにコーナーからコーナーへ導いていくさまは驚くほかない。この安定性の高さは、後輪を操舵する「DRS」や、ブレーキ制御によってコーナーリングをアシストする「ACA」など、さまざまな車両制御が大きく貢献しているのだろう。

コーナーリングでは重心高の高さもほとんど感じられず、とても安定した状態で曲がってくれる

コーナーリングでは重心高の高さもほとんど感じられず、とても安定した状態で曲がってくれる

直進時に左右に揺れやすいボディ

試乗した「クラウンクロスオーバー」には、21インチタイヤ(ミシュラン「e-PRIMACY」225/45R21)が装着されていたのだが、やはりというか大きなタイヤはネガも生んでいた。

特に、乗り心地に関してはいまひとつで、バネ下の重さから少々バタつく印象がぬぐえない。また、高速道路などでは、前後方向のピッチングはうまく抑えられているものの、左右方向のローリングはそれほどでもなく、路面状況や若干の修正舵を加えたときにはボディ全体が左右方向に揺れやすかった。これは、前述した高い地上高によって重心が上がってしまったため、フロアを起点としてルーフに向かう揺れが大きくなってしまっているのではないかと思う。

では、なぜコーナーリング時にそれが感じられないのかというと、「E-Four Advanced」の制御が介入していたからだろう。高速道路の直進時には、トルク配分を変えるほどのステアリング操作や姿勢変化はないので、クルマが真っ直ぐに走っている状態での配分値になっている。そこで、わずかに修正舵を与えても大きな変化はないために「E-Four Advanced」の制御が介入せず、結果としてボディの揺れにつながってしまっているように感じられた。

「クラウンクロスオーバー」は、コーナーリング時の安定性は抜群なのだが、直進時の左右の揺れが長距離走行における疲れにつながってしまったのが少々残念な点だ

「クラウンクロスオーバー」は、コーナーリング時の安定性は抜群なのだが、直進時の左右の揺れが長距離走行における疲れにつながってしまったのが少々残念な点だ

インテリアの質感はいまひとつの部分も

視界については、サイドミラーをドアへマウントしたことによる右前方の見通しのよさについて、高く評価したい。右折時などに、右ミラーとAピラーの間から歩行者などを確認できるので、安心して曲がれるのだ。また、意外にも車幅がつかみやすいので、知らない街などを走っていても、クルマの大きさに気を使うことはあまりなかった。

ただし、リアフェンダーの中央あたりからキックアップするようなデザインになっているため、右後方の視界だけはあまりよくなく、バックで右に並列駐車する際には少々気を使うことがあった。

「クラウンクロスオーバー」はAピラーとドアミラーの隙間が大きいため、死角が少なく右前方が見やすい

「クラウンクロスオーバー」はAピラーとドアミラーの隙間が大きいため、死角が少なく右前方が見やすい

スイッチなどの操作性については、エアコンスイッチなどをディスプレイ内にむやみに埋め込むのではなく、物理スイッチを多用している点は高く評価したい。ただし、実際に走りながら操作しようとすると、スイッチや文字、ピクトグラムが小さいために、操作に迷ってしまったり操作ミスをしたりといったこともあった。

ハザードスイッチが中央に独立して置かれているのはわかりやすく、とっさのときなどに使いやすい

ハザードスイッチが中央に独立して置かれているのはわかりやすく、とっさのときなどに使いやすい

昼間だけでなく、夜間も走行しているとインテリアの印象もいろいろと変わってくる。インパネ周りは静然と外連味なくデザインされており、メーター類も見やすい。だが、メーターナセルの縁取りにピアノブラックを採用しているため、夜間の街灯やトンネルなどでその照明が反射して、少々煩わしく感じられた。

また、ステアリングスイッチやシフトレバー周りのスイッチ類の触感はあまり質感が高くない。「クラウン」という高級車であることを考えると、このあたりをもう少し追求してほしいと思う。

「クラウンクロスオーバー」のインテリア

「クラウンクロスオーバー」のインテリア

トランクはヒンジ周りに注意

トランクを使っていて、気になることがあった。容量については450Lと、ゴルフバッグ2個は入るほどの十分な大きさだ。だが、気を付けなければいけないのがトランクのヒンジだ。左右に備えられている半円のヒンジは、トランクを閉めるときに出っ張ってしまう。そのため、不注意でヒンジの真下に荷物を置いていたら潰してしまいそうになる。

このようなヒンジを採用しているクルマは、意外と多くある。だが、ある程度以上の高級車であれば、ヒンジがきれいに収まるような袋状となっていて、ぎりぎりまで荷物を積んでも潰されることはないように気が使われている。だが、「クラウンクロスオーバー」はヒンジが剥き出しなうえに、オートクロージャーが付いているため、もしヒンジ近くにやわらかい荷物を置いていれば潰してしまう可能性がある。

以前の「クラウン」は、ダンパー方式であったり、ヒンジであってもしっかりとそれが収まるように作られていたりして、心遣いが感じられたのだが・・・・・・。

「クラウンクロスオーバー」のトランクルーム

「クラウンクロスオーバー」のトランクルーム

穏やかなセッティングの「ACC」

今回は、高速道路での移動が多かったことから、「アクティブクルーズコントロール(ACC)」を大いに活用した。ACCの多くは、追従している前走車が車線変更などでいなくなった際には設定速度まで一気に加速して、再び前車に追いつくとかなりの勢いでブレーキングするという、少々荒い制御をしているものが多く見られる。

だが、「クラウンクロスオーバー」はそのようなことはなく、ブレーキング時もとても穏やかなので、安心して使うことができた。いっぽう、前車がいなくなって加速をしてほしいときの加速も少々ゆるやかなので、思わずアクセルペダルを踏み込んでしまうこともたびたびあった。

制御の正確性で言えば、トンネル内の緩い左コーナーを追い越し車線で走行していると、中央車線のトラックに反応して警告音とともに減速したことが1度だけあった。また、減速まではいたらなくても、警告などで隣の車線のクルマを正面のクルマとして警告することが幾度かあり、夜のほうがその確率は高かった。

もう少し伸びてほしい燃費

さて、今回1,800kmほど走行した燃費は、下記のとおり。

市街地:10.9km/L(12.6km/L)
郊外路:14.9km/L(15.8km/L)
高速道路:14.3km/L(17.6km/L)
( )内はWLTCモード燃費

「RS」は、パワーに振っているスポーティーグレードなのでこのくらいでよいという考え方もあるだろうし、燃費を求めるのなら2.5リッターハイブリッドを選ぶのだろう。たしかに、「RS」は豪快な加速が魅力的ではあるものの、いまの時代はもう少し燃費との両立を求めて、それぞれのシチュエーションで15km/L以上には伸びてほしいと思う。

【まとめ】推奨グレードは「G」

歴代の「クラウン」に乗った筆者の経験をもとに話をすれば、「クラウンクロスオーバー」はデザインなども含めて、これまでの「クラウン」とは明らかに異なるクルマだ。

もし、これまでのイメージを踏襲した「クラウン」を望むのであれば、現行モデルなら「クラウンセダン」が最も近いだろう。その理由は、プラットフォームにある。「クラウンセダン」は、「ミライ」と共通の大型FR向けの「GA-Lプラットフォーム」を使うのに対して、「クラウンクロスオーバー」を含むほかの現行「クラウン」は、「RAV-4」や「ハリアー」などに使われているFFベースの「GA-Kプラットフォーム」だからだ。この点だけを見ても、クルマの性格が明らかに異なることがわかる。

2023年11月に発売された、トヨタ「クラウンセダン」。特徴のひとつがパワートレインで、ハイブリッドと水素を燃料とした「FCEV」の2種類をラインアップする

2023年11月に発売された、トヨタ「クラウンセダン」。特徴のひとつがパワートレインで、ハイブリッドと水素を燃料とした「FCEV」の2種類をラインアップする

つまり、同じ「クラウン」という車名であっても、実質的には異なる車種と言っても過言ではないだろう。トヨタがいま考えている「クラウン」とは、それぞれのボディタイプのフラッグシップに与える名称ということなのかもしれない。

もちろん、「ランドクルーザー」や「アルファード」、「センチュリー」などもあるが、それ以外のたとえばSUVのフラッグシップは「クラウンスポーツ」、ステーションワゴンのフラッグシップが「クラウンエステート」と考えていけば、比較的わかりやすいだろう。そうした中で、性格にあったプラットフォームを選んだということなのだ。

だからこそ、先に述べたこれまでの「クラウン」のイメージを求めるなら「クラウンセダン」を、スポーティーな「クラウン」を求めるなら「クラウンクロスオーバー」、よりSUVライクであれば「クラウンスポーツ」、さらにラゲッジスペースを求めるなら「クラウンエステート」となるのだ。

そして、「クラウンクロスオーバー」の中では走りをメインに考えるなら「RS」だが、燃費を考慮するのであれば2.5リッターハイブリッドを選びたい。予防安全装備、たとえば緊急時操舵支援やアダプティブハイビームなどは「RS」と「Z」しか装備されないなど、安全装備面でグレード間に差があるのはどうかと思うが、中間の「G」でも十分な装備が備わっているので、「クラウンクロスオーバー」の中では「G」が最も推奨できるグレードと言えそうだ。

今回の「クラウンスポーツ」の試乗は、かなり厳しめの評価となってしまった。非常に長い歴史を誇る「クラウン」は、日本の高級車市場を開拓してきた1台であり、かつ日本で乗るに最もふさわしい高級車だと筆者は思ってきた。しかし、新世代の「クラウン」からは輸出にも力を入れていくというから、筆者の考え方は時代遅れなのかもしれない。グローバルモデルとして走りを向上させ、さまざまな電子デバイスも搭載したのだろう。それであれば、なおさらこれまで日本で積み重ねてきた使い勝手のよさなど、「クラウン」が持つ“OMOTENASHI”の魅力を伝えてほしかった。それこそが、日本が誇る「クラウン」だと思うからだ。

(写真:内田俊一、トヨタ)

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