「売れること」は、経営のエネルギー源になる必要不可欠なもの
今井裕平氏(以下、今井):では解剖タイムに入ります。キークエスチョンは、デザイナー3.0を通して身についたことがたくさんあると思うし、言語化されている部分もたくさんあると思います。
ひょっとしたらされていない部分があれば、それを今日見つけたいなと思うのが一番の趣旨なんですけど、大切なこと、重要なこととしてどんなことが身についたと思いますか?
青木亮作氏(以下、青木):端的に言ってしまうと「切実さ」です。売れたら偉いのかとか、数が出たら偉いのかとか言うんですけど、そもそもある程度は売れないと継続が無理なんですよね。完成度とかもわかるんですけど、すぐプロジェクトが終わっちゃったり、それこそ借金を抱えるとか、リアルにそういう話があるから、数は見なきゃいけないですよね。
今になって思うのは、お金はガソリンみたいなもので、ないと走れないものです。「車においてガソリンは大事なのか」って、「いや、なきゃ走れないでしょ」という話です。数が多いほうが偉いかとかは別の話なんですけど、数が売れること(お金)はガソリンだったりご飯粒だったり、そういうエネルギー源になるものなので、当然必要で、そこはちゃんとやっていきたい。これは体験してみてわかったことです。
会社員時代はデザインの担当で、かつライバルも社内にいっぱいいたので、「過去にやったことのない技術に挑戦できたぜ」とか、「注目される見た目が作れたぜ」みたいな、デザインの良し悪しに目がいきがちだったんですけど、そことガソリンはぜんぜん関係ない。両立は可能なんですけど、関係ないということは、現実として直視したほうがいいですね。
今井:なるほど。
デザイナーは小規模でもいいから「経営」してみたほうがいい
青木:知り合いの尊敬する経営者さんがたとえで言っていたのが、会社の経営みたいなものは、規模によるんですけど、例えば飛行機だったり電車だったり、自動車の運転だとすると。
例えばバイクの運転だとすると、僕たちが始めたすごく小規模のやり方は自転車の練習だったんだという喩えをされていて。自転車って最初はぜんぜん乗れないじゃないですか。でもフッと乗れる瞬間があって、自転車でコツを掴んでおくと、ある程度はバイクに乗れるじゃないですか。そんな感じだってその人はおっしゃっていて、すごく上手い喩えだなと思って。
経営の知識を得るために、デザイナーは本を読むべきだとかという話があって。もちろん読むのは大事なんですけど、でも本を読んでも自転車に乗れるようにはならないのと一緒で、「そっか、この感じね」みたいな実感が確実にそこにはあって、なので「やってみなきゃいけないんじゃない?」と思うんです。本当に小規模でいいので。ストライダーでいいんですよ。
今井:わかりやすい(笑)。
青木:ストライダーでいいので、乗っておいたほうがいい。今井さんも二足のわらじであってもストライダーに乗っていたと思うんですよね。もうすでに乗っていたので、いざ起業してもわりと乗れる。そういうことかなと思って。
今井:なるほど。自転車の例えはこのスクールでもよく使っていますね。自転車にどうやったら乗れるのかってなった時に、通信教材で乗れるわけはないし、あと絶対にこけますよね。こけないと乗れないとか、スピードをちょっと出してみないと乗れないとか。
青木:そうなんですよ、スピード。よくできていますよね、本当に(笑)。メタファーとしてあんなに良くできたものはないですよね。こぎ出さなきゃ立ち上がれないんですよね。ジャイロ効果が生まれない。すごいですよね。
すべての工程で違いを生む「切実さ」
今井:シンプルなメッセージで「切実さ」と言っていただいたんですけど、切実ささえ身についたら、経営者とやれんのかどうかというと……たぶんレイヤー的にはどんどん下がってくると思うんですけどね。
青木:経営というとお金って思いがちなんですけど、実際にやってみると思うのが、「この部屋に山のように積まれた在庫をどうしよう」とか、「積まれた在庫をあっちの部屋に移す時に体力使うぞ」とか、「発送作業で氏名をミスったらやばい」とか、そういうあらゆる局面で切実になるんですよね。リアリティですよね。
そうすると作るものも「これ、ネコポスのサイズに収まるかな」とか、本当にケチくさい話なんですけど、そういうものの積み上げが効いてくるんです。
じゃあそのケチケチでやったらいいかというとまた別で。ケチケチなコースを知っていて、「でも今回はアクセルを踏むんだ」って思うのか、知らずにやっているのかでぜんぜん違うと思うんです。そこがすべての工程で(違いを生みます)。
お客さまのクレームとかもそうですね。クレームはくるし、対応しなきゃいけない中で、どうポジティブに対応するかとか、そういうのがだんだん商品開発とすごく結びつくんですよね。
発売後のクレームが次の商品開発に影響を与えていて、それでつまらない製品になっていくかというとそういうわけでもなくて。クレームも自分が背負うってすると、チャレンジングな商品を出せるんですよね。
これは会社員時代にできなかったことなんですけど、「こんなのを出したらクレームくるよ、どうすんの」って言われても、「いや、クレームを受けるのは自分だから、まぁやってみるしかないじゃん」ということで、わりと攻めの商品が出せるというのもありますね。
今井:(それがまさに)デザイン経営じゃないかと僕は思っていて、今の話って投資の話ですよね。まずケチケチでいくか、ガッツリいくか。
青木:そうですね。
「経営目線で見る」とは、お金の話だけではない
今井:金融の常識でいくと、リスクを取らないとリターンが取れないという数字の世界の話で、これは別にほかもそうだと思うんですよね。新しいフラッグシップでも、新規事業でも、リスクゼロで新しいリターンを取るってむちゃくちゃ難しいので。
今のお話は「リスクを自分で取る」という話もあるし、言い方を変えると、リスクの許容量みたいなのがわかっているから、ここまでは取るという上で投資しているじゃないですか。
青木:そうですね。あとは投資というところで、経営者みたいなある程度の規模くらいになると、「お金を投資」という話にどうしてもなっちゃうんですけど、先ほどの僕の「HINGE」の話とか「FRYING PAN JIU」の話って、自分の時間しか投資していないんです。
厳密には会社の給料があるんですけど、自分が代表なので。休日も使ってワーッとやっている瞬間は、お金じゃないものを投資している状態で、これは数字だけ見た経営からすると、リスクがあまりない状態じゃないですか。あまり健全じゃないですけどね。
でもそういうやり方ができたとか、「あっ、そういう判断もあり得るんだ」という考え方は、小さい会社というか自分のプロジェクトだからできたことであって、会社の主担当として命じられていたらできなかったと思うんですよね。
会社の一担当で、新規事業をやれ、経営的な目線を持てって言われても、どうしてもお金でしか見れなかったかなという感覚があります。
今井:たぶん「経営目線で見る」って、いろんな人が死ぬほど言われていると思うんですけど、ピンときていない人が多いんじゃないかと思っていて……。
青木:お金しかないって思っちゃう部分があるんじゃないかなって僕は思います。関係性が築けていると、例えば新製品を発表する時に、広報しようと。広報にはお金がかかる、経営判断としてお金をかけるかどうかってなっちゃうんですけど、実は知り合いを使ってとか、すごくうまくやるとタダで使える場所はあるし、工夫によってはお金を使わずに広報できるんですよね、特に今の時代。
どこにお金を使うかという前提があると、「お金は使わないけどできること」が見えなくなっちゃいますよね。経営って言葉を使うことで、なにかお金と紐づきすぎていて、おもしろいことができなくなっちゃっているかなと思います。
時代に求められているものを作れば、メディアには出られる
今井:まさに今、まったく同じPRの話をしようと思っていて。ものづくり企業さんって、広告費という予算がそもそもなかったりするじゃないですか。
青木:ないですね。
今井:でも新しいものを世に出そうとすると、知ってもらわなきゃいけないので、なんとかしなきゃいけない。その時に行き着いたのがPR・広報だったんですね。僕の場合はSNSが得意じゃないので、いわゆるメディアにどう取り上げてもらうか。これもまったく同じで、お金がなくても、知恵を絞って汗かけばメディアにいくらでも出るんやなと気づいてから、物の作り方とか企画も変わったし……。
青木:そうなんですよね、時代に求められているものを作れば、メディアには出られるんですよね。作ったあとで広告費をどう払うかってなるとすごい額になっちゃうんですけど、企画段階から織り込み済みだと、わりと0円に近いかたちでメディアには出れますもんね。
今井:それでネーミングとかコピーとか変わってきますよね。
青木:そうですね、わかりやすさというか、一瞬で伝わるのはどっちかなとは考えますね。
今井:まさにですね。
「商品を作ってくれてありがとうございます」の言葉
今井:今の「切実さ」の話をブレイクダウンした時に、領域の話がありました。普段ここしかやっていなかったけど広がったという、それは別の表現をすると解像度の話をされているんじゃないかなと思ったんです。
ふだん見ていないところをやっているし、そこの解像度がどんどん上がっていくから、ガソリンがどこにどう使われて車が走るのかがわかっていったという話ですよね。
2つ目は投資的な話で、リスク・リターンのリスクの部分は切実さのところからきた気がするんですけど、ほかの観点はありますか?
青木:ほかの観点で? モチベーションが上がったというのはめちゃくちゃありますね。会社員時代に、知らないうちに製品が出ているわけですよ。それで売れているんだか売れていないんだかわからないわけですよ。
そういう作業をずっと延々続けていると、作業でしかなくて、おもしろくなくて、世の中はCMをいっぱいやっている商品が話題になっていて、「あっ、あの商品をやったんだ、すごいね」みたいになるんですけど、そういう商品が必ずしも売れているわけではなくて。
派手にやっている商品が売れていないけど、実は知られていないけどずっとヒットしているという商品はあるみたいな現実もある中で、実感がどうしても湧かなくて。
自分たちでお店をやった理由とかもそこなんですけど、自分が仮説を立てて世の中に出したら、仮説どおりだったかあるいは違ったかとか、あと一番衝撃だったのは、「買っていただけてありがとうございます」ってこちらは思うんですけど、「商品を作ってくれてありがとうございます」というメールがすごく届くんですよ。
こちらはお金をいただいているのに、さらにありがとうございますとまで言ってもらえて、「なんて良き世界」って思って(笑)。そこの循環はもうたまらないですね、もう。ほかでは味わえないですね。
商いの基本である「ありがとう」の循環がモチベーションに
今井:でも、それって本当に商いの基本ですよね。
青木:そうですね。商いですね、もはや。
今井:今って分業されまくっているから、仕事とか商いで一番いいところが仕組みになっていますよね。
青木:そうですね。喜びが感じられますね、本当に。そこがモチベーション、「お仕事って楽しいんだったわ」というのが、3.0のやり方で一番得られたところですね。
今井:3.0をやって、あらためて実感したみたいな感じなんですか?
青木:そうですね。「忘れていたやつだ!」という。友だちに誕生日プレゼントを贈時の感覚が、自分の仕事でもできたという喜びが一番近いですね。頼まれてないけど、手紙を書いたりラッピングしたりとかするじゃないですか。あの気持ちと、開発記事を書くとかパッケージにこだわるってすごく似ていて。
なので、そんなに「パッケージデザイン代いくら」とかじゃなくて、ワクワクしてほしいじゃないですか。それを作り込んで、実際「すごくパッケージでワクワクした」と言われた時の喜びは、本当に友だちに何かした時の気持ちと近いですね。
<続きは近日公開>
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