これまで俳優として活躍してきた山科圭太が映画監督に初挑戦し、彼が大いに影響を受け、もっと映画界でも知られていいと思った演劇界の実力者、田中夢、奥田洋平、古屋隆太、鮎川桃果らをキャスティングして作り上げた映画「ボディ・リメンバー」のインタビュー集。
監督を務めた山科圭太（前編・後編）と主演の田中夢（前編・後編）、共演の鮎川桃果（前編・後編）に続き、最後に登場いただいた俳優の柴田貴哉に訊くインタビューの後編へ。
前回のインタビューに引き続き作品についての話から。
正直なことを言うと、ハルヒコを演じていて、ずっと違和感しかなかった
演じた作家のハルヒコは、妖しい魅力を放つヒロイン・ヨウコの語る危うい三角関係の話を小説にしようと考える。
ところが気づけばヨウコに凌駕され、恋人のリリコとの関係に亀裂が。
観客と同じようにミステリアスなヨウコに翻弄され、その物語に惑わされていく。
ハルヒコを演じるにあたって、柴田は「すべてが苦戦した」と明かす。
「正直なことを言うと、ハルヒコを演じていて、ずっと違和感しかなかったんです。
僕がいままでやってきた役は日常的な会話で成立することがほとんどだった。
でも、今回はいわゆる舞台っぽいというか。決めセリフとまではいかないけど、そのままだとセリフっぽくって日常で交わされる会話にはならない。
そのセリフを日常で交わされる会話になるまでもっていかなければならなかった。
ほかの共演者の方は舞台経験も豊富なのでさほど気にならなかったかもしれないですけど、僕は面食らいました。『こりゃ、大変だ』と。
そこの部分は、舞台経験も豊富な山科さんにだいぶ甘えました。
あと、これまで演じたことのない役だったこともあったと思うんですけど、そう簡単にハルヒコをわかった気にもなりたくなかったんです。
これまでにない役だからこそ、自分の中でじたばたして、なにか新しいものが出てくればという気持ちもありました。
それを山科さんも望んでいる気がしました。だから、すべてが苦戦したというか。悪戦苦闘して、出てきたものがハルヒコです。
ただ、現場にいる気持ちとしては苦しいことはなにひとつなくて。ほんとうに楽しかったし、新鮮でした」
わかった気になっちゃうのは、自分の慢心につながっていってしまう気がする
「そう簡単にわかった気になりたくない」というところに、柴田の役に向き合う律義さと実直さ、演じることへの誠意が見える気がする。
それがハルヒコを血の通う人間に確実にしているといっていい。
「いまだに、どう演じれば正解なのか、正直言ってわからない。
自分の好きなようにやるのも違うと思うし、監督に求めるままやるのも正解かはわからない。
もちろん、自分を役にいっしょうけんめい馴染ませて、その役になろうとはします。
でも、すべてわかった気になるのは僕のおごりのように思うんです。
本音を言えば、わかりたいですよ。わかりたいっす（苦笑）。
でも、わかった気になっちゃうのは、自分の慢心につながっていってしまう気がする。だから、わかった気になりたくない。
演じていて、無理になじませても仕方ない瞬間って、どうしたって出てくる。そこで知った気になって、なじんだ気になるのは嫌なんです。
なんか自分を偽っている感覚があって。その違和感を抱えた上で説得できるものにしたい。
不自然なことを自然に見せるのが、演者じゃないですか。それが俳優の仕事だと僕は思っている。
セリフをセリフを感じさせないように、その動作を不自然にみせないで自然に振る舞う。
そうなるために役者は準備をする。でも、わかった気になった時点で、変な色がついちゃう気がするんです。
いかにきちんと芝居をしながら、自然に立てるのか。そのことを僕は大切にしています。
でも、演技ってなにが正解かわからないです。俳優として正解をもっておかないといけないかもしれないけど、わからないです」
この苦悩は、ハルヒコに反映されているところがある。ある意味、ハルヒコのたどる苦悩を、柴田自身も同じようにたどっていたのかもしれない。
「そうかもしれないです。
さきほども言いましたけど、ハルヒコという役で、埋められない何かがあって。それが生理的なものなのか、感情として理解できないものなのかもいまひとつわからない。
でも、最後にひとつ見つけたんです。ただ、撮影に入るときに、それを忘れてしまった（笑）。
まあ、その時点では脚本がいらないぐらい準備はできていたので、あとはもう現場に身を置いて感じて悩んで、何か出てきたモノを山科さんが判断してくれればいい。
あと、ハルヒコはヨウコにどんどん幻惑されていくわけですけど、これはもう（田中）夢さんをじっと見ていればよかった。
夢さんを追っていれば間違いないというか。もう夢さんがヨウコさんだったので。
僕の演技うんぬんではなくて、もう夢さんに集中していれば、もうそこに勝手に吸い込まれていく。身を委ねればよかった」
ここから俳優として新たなキャリアを築けていけたら
完成した作品をこう感じるという。
「シンプルにおもしろかったです。
試写で見たとき、興奮しました。こういうことになっていたのかと。
幾通りにも読み取れる部分がある。ラブ・ストーリーにも、サスペンスにも、ファンタジーに読み取れないこともない。
観てくれた人によって感じ方の違う作品になったのではないかと思っています」
自身の今後についてはこう語る。
「『ボディ・リメンバー』を経験させてもらったことで、ひとつ自分が成長できたというか。ここから俳優として新たなキャリアを築けていけたらと考えています。
ここから気持ちを新たに、いろいろな役に挑戦していきたい」
今後は、中村祐太郎監督「新しい風」が公開待機中。愚直に役に挑み続ける柴田貴哉という役者に注目してほしい。
「ボディ・リメンバー」
監督・脚本・編集：山科圭太
脚本:三宅一平、山科圭太
出演：田中夢、奥田洋平、古屋隆太、柴田貴哉、鮎川桃果、上村梓、神谷圭介、
影山祐子
場面写真は（C）GBGG Production
からの記事と詳細 ( 魅惑のヒロインに幻惑される男役に挑んだ柴田貴哉。「すべてわかった気になるのは僕のおごりのように思う」（水上賢治） - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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