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Friday, March 20, 2020

歴史的アートも男性視点。美術館のガイドツアーでわかったこと【国際女性デー・デンマーク編】 - HuffPost Japan

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新カールスバーグ美術館グリュプトテーク

3月8日日曜日、午前10時。わたしはコペンハーゲン中央駅近くの美術館、新カールスバーグ美術館グリュプトテークにいました。ここは古代ギリシャ時代の彫刻や銅像から、近代の絵画や版画など、様々な美術品を展示している美術館。この日は、国際女性デーに関連し、ギリシャ彫刻数点と、エドガー・ドガ、ベルト・モリゾの作品などを、現代的な視点で解説するというガイドツアーが企画されていました。1回30人限定のツアーでしたが、関心が高く、当日2回あったツアーのチケットは開館と同時に売り切れ。実際、とても興味深いツアーでしたのでその様子をレポートしたいと思います。

 

 ■芸術は長い間男性による男性のためのものであった

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アフロディーテの彫刻

まずはギリシャの彫刻から。始めに紹介されたのが、アフロディーテの彫刻です。

ギリシャ神話でゼウスの祖父の切り落とされた男根から誕生したというアフロディーテは、全ての男神がその美しさに心を奪われるものとされていたそうです。

この彫刻は、当時作られた初めての等身大の女性の裸像だったそうで、ギリシャの植民都市クニドスの海辺にあって、漁師たちの目を惹きつけていたそう。この彫刻は両腕が欠けているのですが、腕の方向から、片手で下腹部を隠し、もう片方の手で乳房を覆っているように見えます。

これは、女性が裸であることに感じる恥じらいを添えているのではないかとのこと。歴史的に見て、芸術が長い間男性による男性のためのものであったことから、この裸像も男性の視線に向けて作られたものだったとの話でした。

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「レダと白鳥」の彫刻

次に紹介されたのが「レダと白鳥」の彫刻。

大きな白鳥(彫刻にはその大部分が残っていない)に手を添え、空を見上げるレダは神々しい雰囲気さえ感じられるのですが、作品の背景はそのイメージとは大きくことなります。というのも、主神ゼウスが白鳥に変身し、スパルタ王の妻だったレダを連れ去り、彼女と関係を持ったという神話がもとになっているのだとか。

今の時代の文脈で考えると、権力のある男性が女性を連れ去り、強姦するという話が芸術作品になったという感じでしょうか。いやいや、神話ですからね、と思われるかもしれませんが、少なくとも神話とそれをもとにした芸術作品を、男性的な眼鏡を外して眺めてみると、新たな印象が浮かび上がってくるのも確かです。

■かつて、風景画は男性に限定されていた

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ペルセウスとメドゥーサの彫刻

場所を変えてその次に紹介されたのが、ペルセウスとメドゥーサの彫刻。とてもドラマチックな作品です。

メドゥーサといえば、髪は生きた蛇で、その目を見た者は石にされてしまうという、ギリシャ神話の怪物。しかし、彼女は始めから怪物だったのではなかったそうです。

美少女だったメドゥーサは、海神ポセイドンと関係をもったためにその妻アテナの怒りを買い、醜い怪物にされたとのこと。

メドゥーサとは「支配する女」という意味があるそうです。

このメドゥーサがギリシャ神話の英雄ペルセウスによって首を切り落とされ殺される様子を描いたのがこの彫刻。罪を犯した女が醜い怪物に変えられ、英雄によって退治されるというストーリーですが、メドゥーサが性的関係をもった相手、ポセイドンの存在はどう理解したら良いのか、またそれは強姦ではなかったのか、という解説には唸りました。

日本でも話題になった性被害の事件と重ねて考えてしまうのは、無理やりすぎるでしょうか。メドゥーサがもともとは美少女だったという描写も既に男性的な視点でもあり、様々なことを考えました。

ちなみにこのメドゥーサとペルセウスの神話を逆手に取った彫刻を作った人がいます。アルゼンチンの彫刻家、ルチアーノ・ガルバティは、メドゥーサとペルセウスを入れ替え、メドゥーサがペルセウスを殺した彫刻を作りました。一説では強姦され、怪物にされて最後は殺されるというメドゥーサの人物設定に疑問をもったガルバティ。ペルセウスの男性的な勝利と対照的に、ガルバティのメドゥーサには、彼女が自分自身を守るために行動したという意思が表れていて悲劇的でもあります。

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「踊り子」のブロンズ像とデッサン用に作られた小さなバレリーナ像

その他いくつかの彫刻のあと、今度はフランスの彫刻家で画家であったエドガー・ドガの「踊り子」のブロンズ像と、そのデッサン用に作られた小さなバレリーナ像の数々についての解説。

この少女たち、その多くが娼婦でもあったそうなのですが、舞台裏で練習する様子を当時の裕福な男性たちは眺めることができたのだとか。その見学用に特別なチケットが用意されていたそうです。

少女たちの身体を近くで眺める高貴な男性たちをイメージすると、なんとも言えない気持ちになります。

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ベルト・モリゾの絵画

内覧会最後の作品は、ベルト・モリゾの絵画。

モリゾは19世紀の印象派を代表する画家で、男性中心の時代の中で数少ない女性画家であったことで知られています。裕福な家庭に育ち、幼い頃から画家になりたかったモリゾ。23歳でサロン初入選後、マネ、モネ、ルノワールの影響を受け、交友関係も広まったそうです。

紹介のあった彼女の作品「乳母」は、裕福な家庭で母親となったモリゾの乳母と娘を描いたという作品。解説よると、当時、風景画などは男性に限定されていたそうで、彼女は女性や子ども、身近なモチーフを中心に作品を描いていたそうです。

■人は何気なく男性の眼鏡をかけて、アートを鑑賞している

国際女性の日に、美術館所蔵の芸術作品を、普段とは違った視点で眺めてみるというこの企画。ガイドスタッフによると、芸術作品の解釈は時代や文脈によって大きく異なるため、ひとつだけが絶対で正しいのではない。

ただ、アートを見るときに、人は何気なく男性の眼鏡をかけ作品を鑑賞していることが多いため、時には現代的な視点、特にこの日は国際女性の日でもあることから、フェミニズム的な視点で眺め、考えを深めてみると、様々な歴史や解釈が見えてくると語っていたのが印象的でした。

普段何気なく目にしているものでも、そこにジェンダー的な視点が隠れているということはわかっていたつもりでしたが、神話や、それをもとにした芸術作品も、そういった視点で眺めてみるといくつもの発見がありました。

そして改めて、女性の描かれ方はもっと多様であって良いし、女性の視点から、社会の様々な現象を描き直すことが、多様性をわたしたちの現実として受け止めるためには必要だと感じた一日でした。

(文:さわひろあや/編集・榊原すずみ

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