カタログ燃費を追いかけるのをやめたフィット
偶然なのか必然なのか、2020年2月はトヨタ「ヤリス」とホンダ「フィット」というガチンコのライバルが4日違い(ヤリスは2月10日、フィットは2月14日)でフルモデルチェンジを果たしました。
「ヴィッツ」から改名し、ハイブリッドシステムの基本構造以外はすべて一新して3気筒エンジン専用モデルとなったヤリス、プラットフォームや4気筒エンジンはブラッシュアップに留めつつハイブリッドシステムは2モーター型へと一新したフィット。それぞれアプローチは異なりますが、コンパクトカーの新基準を目指した両社の力作です。
かつてプリウスとインサイトという、ハイブリッドカーで燃費ナンバーワンの座を競ってきたトヨタとホンダ。これまでのガチンコ勝負を思うと新型ヤリスとフィットでもバチバチの燃費競争をしているのかと思いきや、意外にも違います。
フィットハイブリッドのWLTCモード燃費は、もっとも優れたグレードでも29.4km/L。ヤリスの36.0km/Lに比べるとあきらかに見劣りします。ホンダとしてはもっとも効率的という2モーター型ハイブリッド「e:HEV」を採用してきたにもかかわらず燃費性能で負けているのです。
ホンダ フィットの試乗会で、その理由をエンジニアの方に伺いました。不躾な質問だとは思いましたが、明確な理由があると答えてくれたのです。それは「カタログ燃費を追いかけるのをやめた」というものでした。
ハイブリッドが登場したころであれば、革新的なテクノロジーにより燃費性能は大幅に向上させることができました。しかし、いまや燃費性能と開発費を考えると、いわゆる“コスパが悪い状態”になっているといいます。
疑問への回答をまとめると、「かつては車両価格で1万円アップのコストで1.0km/Lの燃費改善が期待できたのに、いまでは同じコストで0.1km/Lの性能向上くらいしか期待できません(数字はあくまでたとえ)。お客様が使われている環境での燃費性能でいえばほぼサチっている(飽和する、上限に近づいている)状態で、コストアップが燃費メリットにつながらないと感じています」という話でした。
これほどライバルに大差をつけられていると、言い訳じみて感じる部分もありますが、たしかに燃費改善の費用対効果において費用の比率が高まっているというのは、どこでも聞く話です。燃費のためにドライバビリティを犠牲にする時代でもないというのも認めるところでしょう。
その意味では、開発段階から燃費数値を追いかけずに大差がついてしまったことも、評価軸を変えたといえますし、違う志を掲げたとも理解できます。
座った瞬間に違いを感じた新開発のシート
その新しい志であり、指標となったのが「心地よさ」です。新型フィットは、人の感性や感覚を満足させるコンパクトカーを目指しています。前述のエンジニアの方によれば「1.5Lハイブリッドシステムにしても基本構造はアコードなどで実績があるものですし、1.3Lエンジンも基本はキャリーオーバーです。パワートレインにかける開発コストを減らし、その分を人の研究に割きました」といいます。その一例が、新しくなったシートです。
写真を見れば一目瞭然ですが、従来のシートはS字のスプリングで支えていたのに対して、新型では面で支える構造になっています。これは座った瞬間に違いを感じるほどで、コンパクトカーの新基準といえるほどの座り心地を実現しています。リアシートについても座り心地を最優先にしたといいますが、たしかに適度に沈む込むことで体を包んでくれる感覚は、シートアレンジを重視したファミリーカーとは一線を画すものです。
またシフトレバーの設計も見直したということで、ハイブリッド車もストレートタイプのオーソドックスなシフトになりました。日々のカーライフにおいてストレスを感じさせないことを優先したという設計思想が感じられます。
環境問題は人類のテーマですから燃費を無視してもいいとは思いませんが、一定以上の燃費性能を実現しているのであれば、あと少しを伸ばすよりも別のところに開発リソースを向けるというのは、ひとつの見識です。
というわけで、新型フィットのハイブリッドモデルをたっぷり2時間以上試乗することができました。試乗したのはSUVテイストの「クロスター(CROSSTAR)」を約30分、コンパクトカーらしい仕上がりの「ホーム(HOME)」を約100分。タイヤサイズは異なりますが、いずれも同じハイブリッドのFFです。
モーターによるリニアでダイレクトな走りが最大の美点
当初、バッテリーだけで走行するEVモードのスイッチが用意されていないのは疑問でした。2モーターハイブリッドであればドライバーの意思でEVモードを選べるべきだと思ったからです。しかし、乗ってみるとEVモード不要の理由がわかりました。デフォルトの設定で可能な限りエンジンを使わずに走ろうとするのです。
だからといってエンジンの存在感がないわけではありません。バッテリーの電力ではカバーできなくなるとエンジンを始動させて発電を始めるのですが、そのときにエンジンの回転上昇に多少のストーリー性が与えられていて、クルマが要求に応えてくれるという感覚があります。
パートナー感というのは愛車という気分を高めます。「クルマというのは工業製品で唯一“愛”という言葉がつく」というのはトヨタの豊田章男社長がよく口にする定番のフレーズですが、フィットにも愛車度の強くなるような意思が入れられているのです。
「心地よさ」という指標によって開発が進められたというフィットですが、モーター駆動を基本とするハイブリッドシステムはけっしてマイルド一辺倒というわけではありません。アクセル操作に対してリニアに加速しますし、どちらかといえばハンドリングもキビキビ系の仕上がりです。SUVテイストの「クロスター」はタイヤが大径になっている影響なのか、大きなギャップではドタバタとしたフィーリングもありますが、砂利道や石畳といったシチュエーションでのストローク感は、たしかに「心地よい」といえるものでした。
加減速やハンドリングのイメージは「ホーム」のハイブリッドでも変わりません。こちらでは高速道路でACC(追従型クルーズコントロール)を利用して走ることもできましたが、90km/h程度であれば完全にモーター駆動だけで走行できますし、モーターの利点を活かした高レスポンスの速度調整はストレスがないものでした。
直進安定性も高く、車線維持アシスト機能は不要と思えるくらいビシッと走ってくれます。もちろん、車線維持アシストを利用すると高速コーナーで舵角をあわせてくれるので、まさしく愛車を信頼してドライブを楽しめるというわけです。
モーター主体で、リニアでダイレクトな走りはフィットハイブリッド最大の美点といえます。こうした走りを実現するための開発リソースが、燃費競争から降りたことで確保できたのだとすれば、燃費にこだわらなかったことは結果としては成功だったといえるのではないでしょうか。
今回、高速走行時の燃費はメーター表示で25km/Lを上回るくらいでした。さらに空力を追求したボディにして、タイヤの走行抵抗を減らして、遮音材などを省いて軽量化を進めれば、もっと燃費を伸ばせる可能性はあるのでしょうが、ハンドリングの安定性やコンパクトカーとしては驚異的といえる静かなキャビンをあきらめて、ここから燃費を少々伸ばすというのは、それによってストレスが増えることを考えるとナンセンス。数値を追いかけないという開発姿勢にシンパシーを感じるのであれば、フィットハイブリッドの走りを一度味わってみることをおススメします。
文・写真:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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March 11, 2020 at 09:45AM
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2時間の試乗でわかった! 新型「フィット」が燃費勝負から降りた理由(carview!) | 自動車情報サイト【新車・中古車】 - carview!
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