イラスト:曽根愛
血が繫がっていても、長くともに暮らしていたとしても、不思議なくらい、イライラの種は生まれてくるものです。井沢悠子さん(仮名)は、家出してきた母と5日間を過ごし…(「読者体験手記」より)
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ケチな父親に愛想を尽かしてプチ家出
今から30年前、私が26歳のときのことだ。
父が60歳で定年退職してから2年経ち、母から聞かされる父への悪口が日に日にひどくなっていった。それまで金払いがよかった父が、退職で「ケチな男」に変貌したらしい。
電気を消し忘れると小言を言われたり、トイレの水を「もったいないから」と流さないので、自分が“残り香”を嗅がされるはめになったり……。母いわく、とにかく細かくてセコい性格になったというのである。4つ年下の母が負けずに言い返したり抵抗したりしても、まったく効果がないという。
ある日、母から電話が入る。「1週間ほど泊めてほしい」というのだ。内心驚いた。母がそんなことを言い出すのは初めてだったから。夫が出張に行くタイミングで、とりあえず1週間うちに来てもらうことにした。
やってきた母の手には、中型のボストンバッグがひとつ。そんなに長居するつもりでもなさそうだと、ひとまず胸をなでおろす。その日はお茶を飲みながら、ひとしきり父への愚痴を吐き出させた。そうすればある程度、落ち着くだろうと思ったからだ。
だが翌朝から、父と母よりも相性がよくないのが、私と母であったことを思い出すことになる。
私と母は、昔から性格が正反対だ。社交的で正義感の強い母と、一見社交的だが、実は他人と極力かかわりを持ちたくない私。実家にいた頃はそれほど気にならなかったが、8年ぶりに同じ家で暮らしてみると、私と母の間の大きなギャップがたくさん見えてきた。
たとえば朝。母はまずカーテンを思いっきり開けて、日を浴びるのが習慣だ。いっぽうの私は、1分でも長く、できれば昼まで寝ていたい。それが、「悠子ちゃん朝ごはんですよ。早く起きなさい!」と叩き起こされる。朝食を作ってくれるのはありがたいが、私はパンとコーヒーで十分、いやむしろ、ちゃんとした朝ごはんは胃が受けつけない。せっかく夫もいないことだし、1分でも長くまどろんでいたい。母の大声のせいで、朝から気分がだだ下がりである。
そして、スーパーに買い物に行くと、惣菜ひとつとっても私と母で買いたいものが違うことに驚愕する。本当に食卓を同じにしていたのであろうかと思うほど、食の好みがまったく違うのだ。焼き鳥ならば、母の好みは塩、私はタレ。母は毎日晩酌をするが、私はお酒を一滴も飲めない。おそらく父の体質に似たのだが、酒飲みと下戸では食の好みも相容れないに決まっている。
夕食後の過ごし方も違う。食器をすぐ洗う派の私に、つけ置きして翌朝洗う派の母。お互いのずぼらポイントと清潔ポイントがいちいちかみ合わないのである。
お互いに譲れない性分で
テレビ番組の好みも違うから、家に1台しかテレビがないわが家ではチャンネル争いが起こる。といっても、私も大人。一応「お客さん」の母を尊重し、見たい番組があっても譲ったつもりであった。
唯一好みが一致した討論番組では、専門家やコメンテーターが政治や事件について侃々諤々の議論をするのに合わせて、私たち母娘までヒートアップ。これがまた、意見が合ったためしがない。それどころか、正反対になるのはどうしたことだろう。わざと逆の意見を言っているのでは? と疑念がわくほどであった。
意見が違ってもスルーできる性格ならば問題ないが、あいにく負けず嫌いだけは瓜二つ。テレビの議論が終わっても、まだ二人で言い合っていたものだ。
そういえば私の周りで、他人の意見に耳を貸した人や、自分の考えが変わったという人にはついぞお目にかかったことがない。ましてやわが母を変えるなど、なおさら無理だろう。生活の中のささやかなことをめぐって、私たち母娘は無益な言い争いを続けていた。
5日目の朝、我慢の限界に達した母親が「もう帰る」と言い出して、荷物をまとめ実家へ帰っていった。私から仕向けたつもりはさらさらないが、夫が出張から戻る日も近づいており、ちょうどいい頃合いだった。好きな時間に起きて、好きなテレビを見られることのありがたさを実感した。
そういえば、私が就職したとき、実家から通える距離の職場だったにもかかわらず、母は当然私が家を出るものと考えていた節がある。おそらくあの頃から、何となく私との合わなさを感じていたのだろう。
そう、悲しいことだが、実の母娘でも「性格の不一致」は確実に存在するのだ。だが両親がともに亡くなった今は、たった5日でも母と水入らずで過ごせたことは、それなりにいい思い出として残っている。
母が亡くなってしばらくしてから、「何から何まで合わない母娘だったんだよ」と夫に話すと、「でも、読書好きなところは似てるんじゃない?」と指摘された。絵本を読んでもらった記憶もなければ、読書を勧められたこともないけれど、どうやら母の遺伝子は、私の中にそんな形で存在しているらしい。
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